幼馴染との再会④
なんで呼び捨て?
…というかなんで俺の名前知ってるんだ?自己紹介なんてしてないし、言葉も交わした記憶もないのだが。
「安羅祇さん…どうしました。こんなところにきて」
彼女は教室で多くの生徒に囲まれていたはずだ。それはもう逃げるなんて可能とは思えないほどの数。
「…」
彼女はじーっと俺を見つめたまま話そうとしない。特に親しくない人と二人きりは得意ではない。非常に気まずい。今すぐにでも逃げたいが、それだと蓮人が帰ってきたときに申し訳ない。
「あれですか?気分転換みたいな」
「…琉都。ほんきで言ってますか?」
やっぱり呼び捨てだ。それに何か不機嫌そうである。俺、なにかしちゃっただろうか。
「本気も何も俺は友達を待ってるだけで安羅祇さんと話すことなんて特にないというか、なんというか…」
我ながら失礼極まりない発言なのは承知しつつも、俺は早々に彼女に立ち去ってもらおうと考えた。
「はぁ、まさか覚えていないとは。苗字が変わったからでしょうか」
彼女はおもむろに歩き始めると俺のすぐ前、手を伸ばすと届くくらいの距離まで詰めてきた。
もちろん俺は少し後ずさる。
「琉都…いや、りゅーくん。私です。小学校低学年の頃に毎日遊んでいた
「姫柊…?ひめー…」
どこかで聞いたことがあるような…はっ!?
「あの、ひめ、なのか?」
「はい、りゅーくんのひめーですよ」
思い出した。
俺には昔幼馴染がいたことは昨日、町田に話した。だが名前までは憶えていなかったのだ。
それが今、彼女の言葉をきいて完全に思い出した。
思い出したというか、引き出しの奥にしまっていた懐かしいものを取り出したかのような感覚。
「でもその苗字…再婚したのか?」
「はい、義妹ができたんですよ。可愛い可愛い義妹ちゃん。今日、私と一緒に転校してきたんです」
「よかったな。ずっと妹欲しがってたもんな」
「はいっ」
彼女と言葉を交わしていると様々なことが思い出される。あれもこれもが非常に懐かしい。
それにしても可愛くなったな、ひめ。
誰が上から目線で、って話だが仕方ない。心の底からの感想なのだ。見た目も雰囲気もあの頃から一変している。
唯一変わってないのは普段から敬語で話してたところか。
昔ももっと明るく陽気な子だったが、今はクール清楚っていった感じだ。風紀委員が似合いそう…ごほんっ。
悪いオタクの性だな。何から何までオタク価値観で表現しようとするの。
「完全に思い出してくれましたか?」
「ああ、ごめん。変わりすぎてて気が付かなかったんだよ」
「私はすぐに気づきましたけどね…というか、知ってましたよ。りゅーくんがこの高校に通っていること」
「そうなのか?母さんから?」
「うん、正解。さすがりゅーくん」
昔から俺の母さんとひめは仲が良かったからな。今も続いていたんだろう。
ということは母さんはひめが転校してくるのを知ってたのか?なんで話してくれなかったんだろう。
心の準備ってやつもあるんだし教えててくれてもよかったのに。
「じゃあ、りゅーくん。また今日から小学生の時みたいにしてたこといっぱいやろうねっ」
「…え、いやそれは流石に…」
小学生の頃にしてたことって…毎日手をつないで帰ったりお互いの家で毎週にようにお泊り会をしたり、一緒に風呂に入ったり…今思うとなんてことをしてたんだあの頃の俺たちは。
高校生になった今そんなことをするといろいろと危ない。
「え、なんでですか?拒否するんですか?私との再会うれしくないのですか?」
「いや、そういうわけじゃないけど…もう高校生だし、な?わかるだろう、ひめなら」
「わかりません。私たちの関係はこの先もなにも変わりませんよね」
「まあ、それはそうだけど…あ、蓮人っ」
ちょうど困っていた時に蓮人が帰ってきたことでこの場の雰囲気を逃げ出すことができた。
ちょっと病んでなかったか?気のせい?
昔に『なんでも言うことをきいてあげる』券をあげまくった幼馴染と再会してしまった。ミスった ミナトノソラ @kaerubo3452
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