幼馴染との再会③

 どうやら昼休みになっても彼女の人気度は変わらないらしい。なんなら他のクラスから来た生徒のほうが多いように見える。

 まったく朝と変わらない光景。これから数日間は彼女の周りはそういう雰囲気を保ったままだろうな。


 転校生の宿命ともいえる。加えて可愛かったらなおさらだ。


「なあ、蓮人。なんか騒がしいし屋上にでも行かねぇか?」


「屋上?開いてたっけ?鍵かかってなかった?」


「最近鍵が壊れてるのを見つけたんだよ。だから蓮人が委員会でいないときはそこで食ってんだ」


「わかった。じゃあ行こうよ。蜂須賀くん」





 屋上でいえばやはり青春舞台の定番といった場所であるが、うちの高校ではつい先日までしっかりと施錠されていたので昼休みにカップルがお弁当の食べに来たりすることはない。


 今いるのはしがない陰キャ高校生とその友達。ちなみに両性的な見た目をしているので男か女かはっきりしていない。 

 俺は男と思っている。


 だって一人称僕だし。二次元世界の中では僕っ娘属性の女の子もいるだろうがここは現実だ。

 今まで僕という一人称を使う女の子を見たことがない。

 

 言動も男らしいしな。てか名前はそもそも男じゃないか。蓮人だろ?


 蓮人れんとってかいて蓮人れなって読むとかそんなことはないだろ?


「それにしてもやっぱ蓮人の弁当いつみても美味そうだな。お母さんが作ってるのか?」


「ううん、僕が作ってるんだ」


「まじ?」


「まじだよ」


「まじか…女子力高すぎだろ…」


 男だって弁当を作ることはあるだろう。でも中身はお肉たっぷりジューシー焼肉すき焼き弁当とかになりそうなのに。


 だが蓮人と言ったらまるで俺の母さんが作ったかのように野菜とお肉のバランスがしっかり考えられており、加えてお米には海苔で可愛らしいお顔を描かれている。


「まじで美味そうだな。お前絶対将来モテるよ」


 昔は家事ができる男子なんて需要のかけらもなかっただろうが今は色々と価値観


「ほんと?うれしいなぁ」


 えへへ、とほほ笑む蓮人。


 不覚にも可愛いと感じてしまった。男なのに!男なのに!


「そうだ蜂須賀くん。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」


 蓮人は突然キリッとした表情になるとそんなことを言ってきた。


「聞きたいこと?」


 蓮人からそんな話なんて珍しいな。いつも世話になってるし、できることなら応えたい。


「うん、蜂須賀くんの下の名前って確か琉都くんだったよね?」


「ああ、そうだけど?」


「これから蜂須賀くんのこと下の名前で呼んでいいかな?」


「なんだそんなことか…」


 てっきりもっと深刻なことだと思った。


「当たり前だろ。そんなのわざわざ許可なんていらねぇよ。俺もいつの間にか蓮人って呼んでたしな」


「やった、これでますますはす…琉都くんと仲良くなれるねっ!」


「…ああ、そうだな」


「あ、僕ちょっとお手洗い行ってくるね」


「着いていこうか?」


「ううん、大丈夫だよ。蓮人君はここでちょっと待ってて」


 そういえば俺、蓮人と一緒にトイレ行ったことあるっけ?なんか俺がいつもトイレ行こうとすると蓮人は大体先にすませてて、ついてきてくれることもないし…。


 …恥ずかしいのかもな。俺も小学生の頃はみんなの何がとは言わないが見られるのが恥ずかしくて一人隠れて行ってたっけ。


 それからしばらく一人で風景を眺めながら菓子パンをかじっていた。


「遅いな。なにかあったのか?」


 そんな風につぶやいて立ち上がろうとすると、突然屋上の扉がゆっくりと開かれた。


 やっと帰ってきたのか?


 だが屋上に入ってきたのは俺の待っている人ではなく…


「え…安羅祇さん?」


「お久しぶりですね。琉都」


 転校生の安羅祇さんだった。

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