世、妖(あやかし)おらず ー八百万雪ー

銀満ノ錦平

八百万雪

最初、雪というものはただ白い塊なだけと思っていたがあれは実は凄い綺麗な結晶の形をしているらしい。


実際に見るには顕微鏡を用意しないといけない位に、小さいらしいがそれはそれは綺麗なものらしい。


らしいらしいばかりなのは見る機会なんて今後一生

無い上にそんな小さいものを態々、機械を使用して見たいと言う程の興味もない。


しかし昔、教科書の写真を見た時はほんとにこんな綺麗な形をしているのか?と不自然な気持ちになった。


雪は誰かが気まぐれで降らせたりしているわけではない。


自然現象なのだ。


それにあんな綺麗な形をした結晶が積もってるという現実が想像出来ない。


ニュース映像で見ても白い塊に見えない。


そんなものがほんとにこんな綺麗な結晶なのか?


あんな自然災害になる程積もるものがあの結晶を?


あの皮膚に付いたらすぐ溶ける儚く冷たい物体が?

と日々悩みだすようになってしまった。


だから興味のなさに比例して何故か結晶の形をいつの間にか調べていた。


…そして私は驚いていた。


昔見た教科書に載っていたバリエーションだけかと思っていた。


それは六角形の周りに団扇の様なシルエットをした物が周りについているものや六角形の星のシルエットの様なものだった気がする。


あんな気持ちよく形が整うものが自然界にできる訳が無いと半ばフィクションだろと馬鹿にしていた。

沢山あった。


というかあり過ぎて魅力にハマってしまったといったほうが良いかもしれない

基本は六角形の形をしていたり、六方に広がる形をしていたりが多く、ごく短い鉛筆のような形もあるし糸をまとめる道具のような形もある。


様々な形を見て余計に雪の結晶の魅力に惹かれていった。


だが私の住んでいる所は雪は、あまり降らず降ってもあまり積もらない。


だから積もった時に雪の結晶を見るチャンスを伺った。


大体、12月辺りに降るのでその時を待った。


顕微鏡などの道具も整えた。


そして降った。


よくアニメとか漫画だとゆったりと余韻が入るような演出になるイメージだがその日は凄かった。


もう吹雪だった。


外に出られやしない。


仕事だったのに休まざる終えない位の吹雪であった。


しかし寧ろ良かったと思い、玄関を出て目の前に積もっていた雪をかき集め、プレパラートに雪を付けて顕微鏡で覗いてみた。


確かに雪の結晶はあった。


六角形の形をしていてそれこそ教科書の写真の様な

形をしていた。


だが六角形の先の所には、あり得ない者がついてあった。


人の手があった。


蠢いている。


何かを掴もうと蠢いていた。


私は唖然としていたが何故か身体が動かず顕微鏡から目が離せなかった。


そして他の結晶が意思を持つように集まってきていた。


足のついた結晶、真ん中に目がついた結晶、頭の様

な形をした結晶、耳のような翼をしている結晶、蜘蛛の形をした結晶、象の形をした結晶、犬の形をした結晶、竈の姿をした結晶、瓶の姿をした結晶、槍を持った人の形をした結晶…他にも様々な姿形をした結晶が蠢いていた。


何なんだこれ?私は今何をみているんだ?


雪の結晶を見ているはずなのに其処にいたのは百鬼夜行を成して踊り狂い、異形の宴会を開いている物の怪の姿であった。


プレパラートが段々と凍っていく。


室内は雪が溶けないように敢えて暖房を付けはしなかった。


しなかったがこんな徐々に物が凍っていくのはおか

しすぎる。


冷気が異常なほど漂う。


肌に伝う体温が追い詰められるかのように下がっていくのを感じる。


ふと雪を集めたバケツを見る。

…増えてる。


雪が増えている。


あの白き蟻のような粒がまるで増殖をしてるかのように増えていた。


そして雪が大名行列を成すが如く、整列しながら私の方に向かってきた。


とてもこの世のものとは思えない…非現実空間に直面してしまっているのか、またはこの冷気にやられてきているのか体が全く動かない。


バケツからはどんどんと雪のような物が行列を組んで出てくる。


部屋の中はいつの間にか冷蔵庫の様に冷え切っていた。


我慢ができない。


だが動けない。


終わる…死ぬ…。


意識が微かになり瞬きを一度した後再び雪を見る。

雪の結晶が肉眼で見えていた。


いや、あの異形のものが!あの不気味に蠢いているものが!あの綺麗で美しく、見惚れる程の自然の形な訳が無い!!


私は、薄れゆく意識の中で必死に叫んだ。


白き粒は、行列を成しながら部屋を歩き回っている。


粒は歩き回った後再びバケツに戻ると段々と形を作ると次第に日本人形の様な身姿になり此方を覗いてきた。


一向に動かずただただ私を見ていたそれは、最後に





「神々の 万合わせの 祭り吹雪」




そう唄ったと同時に、私の意識は途絶えた。


………私が意識を取り戻した頃には部屋は元の室温に戻っておりプレパラートのみならず、部屋は水浸しになり雪は溶けていた。


気がつくと5時間は経っており、慌てて外に出ると先程まで積もっていたはずの雪は無くなり、溶けたのか道には水溜まりが出来ていた。


私は何かの夢でも見たのかと混濁した思考の中、再び部屋に戻り頭を覚ます為に風呂に入ることにした…。








続いてのニュースです。

昨夜未明、〇〇県〇〇市に住む〇〇〇〇氏が自宅で騒音を数分立てた後に静まり返り、不審に思った近所の人が通報し警察が自宅に入った所、中には誰も居らず、〇〇氏が入浴したかのような形跡のみ発見されたということです。


警察は、集団での拉致または誘拐の線で捜査をするということです。


通報した人は、まるで宴会を開いているような騒音が突如起きて数分したらぱったり消えたとのことです。












 









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