第2章: .....

ルシエルとアリデルは静かに任務の命令書を手にしていた。祭りの賑やかな音は遠ざかり、重苦しい沈黙が二人の周囲を包み込んでいた。巻物に記された文言は簡潔だったが、その重みは二人の肩にのしかかっていた。


ルシエルはため息をつきながら言った。「やっぱりね。私たちが向かう場所は…楽なものじゃないわ。」彼女の声は決然としていたが、どこか震えが混じっていた。


アリデルは無言で頷きながら巻物を閉じた。窓から差し込む淡い光の中で、彼の銀髪が柔らかく輝いていた。その目には静けさが宿っていたが、その奥には複雑な感情が渦巻いていた。


「お前は何を考えているんだ?」ルシエルがそっと尋ねた。


アリデルは肩をすくめて答えた。「さあな。別に新しいこともないし、いつものようにやればいいだろう。」彼の口調は無関心そうだったが、どこか重苦しさを感じさせた。


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祭りの明かりは一つ、また一つと消えていき、村は静かに夜の静寂へと沈んでいった。しかし、二人の英雄はそれぞれの方法で出発の準備に没頭していた。


ルシエルは戦士たちの墓地を訪れていた。彼女は一つ一つの墓碑にそっと手を触れ、静かに祈りを捧げた。彼女の手には野花が数本握られており、それを丁寧に墓碑の前に置いていった。彼女の声はささやきのように漏れた。


「あなたたちの犠牲を無駄にはしません…必ず。」


彼女は言葉を言い切ることができず、頭を垂れた。そよ風が彼女の髪をそっと揺らした。


一方、アリデルは丘の上に一人で立っていた。濃紺に染まる空の上には星々が輝いていた。彼は手を後ろに組みながら空を見上げていた。


「ああ、面倒だな…もう少し寝てくればよかったか。」彼は低く呟き、肩をすくめた。その表情は読み取るのが難しかったが、一瞬だけ空虚な眼差しが現れた。


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暗闇が深まる中、神聖な場所の奥深くで、マントを身にまとった高位の者たちが巨大なテーブルを囲んで集まっていた。その姿は暗闇に覆われてぼんやりとしか見えなかったが、鋭く低い声だけが空間を満たしていた。


「二人だけで十分なのか?」


「あの者たちが任務を果たせるのか?」


「許しがたい者たちだが…」


「だが二人いれば十分だろう。彼らの実力は既に証明されている。」


短い沈黙の後、一人の声が低く呟いた。「ああ…それにしてもルシエルをしばらく見られないと思うと…寂しいものだな。」


別の声が冷笑を帯びて言った。「くだらない感傷に浸るな。決定は既に下されている。」


そして最後の声が冷たく宣言した。「決めよう。この任務は彼らに任せる。それ以上議論の余地はない。」


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最後の夜、村は笑い声と明かりで満ちていた。兵士たちは杯を交わしながら互いに勇気を鼓舞し、子供たちは手に火花を持って走り回っていた。しかし、二人の英雄は静かにそれぞれのやり方で夜を過ごしていた。


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翌朝、日が昇るとともに軍勢が続々と集まった。兵士たちは整列し、出発の準備を整えた。しかし、ひとつ問題があった。


「アリデル様が見当たりません!」


「まったく、アリデル様も本当に…」


「師匠、一体どこにいるんですか!」


兵士たちは忙しく彼を探し回り、それを見ていた仲間たちは一人、また一人と笑い出した。「やっぱりアリデルだな!最後の瞬間まで俺たちを楽しませてくれるとは。」


少しして、ルシエルが片手でアリデルのマントを掴み、ずるずると引きずりながら現れた。アリデルは相変わらず目を閉じたまま、無防備な状態で引きずられていた。


「見つけたわ。塔の頂上でこっそり寝てたのよ。」ルシエルが叫んだ。


アリデルは目も開けずに呟いた。「ああ…面倒くさい…」


ルシエルはため息をつきながら言った。「本当にどうしようもない奴ね。子供の頃からずっとこうなんだから。」彼女は彼を肩に担ぎ上げ、ゆっくりと歩き出した。しかしその時、アリデルが突然寝言を言い始めた。


「ああ…素敵なお姉さまたちが…最高だ…でも駄目だ…僕には大切な…」


ルシエルは彼の言葉を聞いて一瞬立ち止まった。「大切な?何?」彼女は一瞬考えたが、首を振って歩き続けた。


しかしアリデルは突然寒いと言いながら彼女をしっかり抱きしめた。ルシエルは顔を赤らめながら叫んだ。「きゃあ!どこ触ってるのよ、このバカ!」


彼女は怒りを爆発させるように彼を軍勢が集まっている場所へ力いっぱい投げ飛ばした。アリ델は空中を舞い、岩に激突して埋まってしまった。


兵士たちは慌てて彼を引き抜こうとしたが失敗した。その時、一人の弟子が前に出た。


「まったく、本当に厄介な師匠ですね。」彼女は力を込めてアリデルを岩から引き抜き、肩に担ぎ上げた。しかし歩き出した彼女も突然顔を歪めた。


「きゃあ!どこ触ってるんですか、師匠!」彼女はアリデルの頬を勢いよく叩き、苛立ち混じりに言った。「もう我慢できません!」


兵士たちはこの光景を見て大笑いした。「ははは!さすがアリデル様だ!」


こうして軍勢は笑い声とともに、新たな旅路へと力強く踏み出した。


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アスカリオン 影の光 @kagenohikari

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