アスカリオン

影の光

第1章: .....

暗闇は刃のように鋭く部屋を切り裂いていた。床には血痕と割れたガラス片が散乱し、空気は腐敗したような匂いで満ちていた。部屋の中央には、誰かがうずくまっていた。その髪は汗と血でぐしゃぐしゃになり、爪は床を掻きむしり、割れてボロボロになっていた。その震える肩は絶え間なく上下し、低く漏れる声は空虚で乾いた響きだった。


“なぜ…どうして…なぜなんだ…”


彼のつぶやきは次第に空虚な笑いへと変わっていった。その笑いの中には、爆発しそうな狂気が潜んでいた。

“ハハハ…ハハハハ!俺は…俺はすべてを失った…”彼の声は次第に不規則になり、やがてその叫び声が部屋中に響き渡った。その瞬間、まるで壁が彼の苦しみを反射するかのように、部屋にはこだまするような音が充満した。


彼が片方の壁に頭をもたれかけたとき、どこからともなく見えない影がゆっくりと動いた。空間そのものがねじれるように見えた。空気は突然冷たくなった。彼は震える目で部屋を見回し、低い声でささやいた。


“なぜだ…なぜなんだ…なぜ…”


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夜明けの薄明かりが暗い地平線を徐々に押しのけるように、空には淡い金色の光が広がり始めた。その光は次第に濃くなり、純白の城壁を包み込んだ。まるで世界が暗闇から目覚める瞬間のように、「エイリアードの天上階段」が雲の間からその姿を現した。大理石の輝きは冷たい朝の空気の中で静かに光り輝いていた。この地は神の手が触れたという伝説を持つ聖域であった。平穏な静けさの中にも、今日だけは秘密めいた緊張感がその雰囲気をかすかに漂わせていた。


祭りの日だった。聖域「エイリアードの天上階段」は華やかな装飾に彩られていた。この地は雲の上に築かれたかのような壮大な建築物であり、神々の祝福を受けた神聖な場所だった。純白の大理石は日光を浴びて眩しく輝き、その周囲には何千もの花々が咲き誇っていた。祭りはすべての人々に高揚感をもたらしていた。


人々は伝統衣装を身にまとい、街中に集まっていた。香ばしい食べ物の匂いが路地の隅々まで漂い、子供たちの笑い声が明るく響き渡っていた。空に舞う凧、歌を歌う人々、そして神聖な儀式の準備をする祭司たちが一体となり、この地を歓喜で満たしていた。


その中心には、二人の英雄が堂々と立っていた。ルシエルとアリデル。その存在だけで周囲が明るくなり、誰もが彼らに期待を寄せていた。二人はそれぞれ異なる能力を持っていたが、誰よりも深い友情で結ばれていた。


ルシエルはいつも輝く笑顔を浮かべ、周囲の雰囲気を明るく照らす存在だった。彼は金色の髪をなびかせながら子供たちと戯れ、笑い声を響かせ、人々に励ましの言葉をかけていた。その瞳には決断力と温かさが共存しており、彼を見る者は自然と安堵感を覚えるのだった。


一方、アリデルは静寂の中に隠された深い深淵のようだった。銀色の髪は月光のように静かに輝き、その鋭い目はすべてを見通すかのようだった。彼は周囲を観察しながら、わずかな動きで状況を把握しているように見えた。その落ち着いた仕草は神秘さをさらに引き立て、言葉よりも深い思索で自身を表現しているようだった。


“さあ、もう一杯だ!”ルシエルが杯を高く掲げ、笑い声をあげた。


“お前は一生祭りだけで生きていきたいのか?”アリデルが目を細めて言ったが、その口元にも微笑みが浮かんでいた。


彼らのそばには家族のような仲間たちがいた。カラースが大声で笑いながらルシエルの肩を叩いた。

“お前たち、今回も帰ってくるときはもっと大きな戦利品を持ってこい!俺が盛大な宴会を準備してやるから楽しみにしていろ!”


エリアンは穏やかな声で言った。

“冗談はさておき、心から祝福を祈るよ。この旅は決して簡単なものではないだろうから。”彼女の言葉には温かさとともに、どこか重みのある真実が含まれていた。


セラフィンは落ち着いた声で静かに手を上げた。

“戻ったらみんなで乾杯をしよう。しかし、今はその乾杯のために戦うべき時だ。”彼の言葉は簡潔でありながら、深い真心が込められていた。


子供たちは二人の英雄の周りに集まり、大きな瞳を輝かせながら彼らを見上げた。

“今回も必ず帰ってきてください!戻ったらまた一緒に遊んでくださいね!”


ある少女が花で編んだ冠をアリデルに手渡した。

“これ、私が作ったんです。絶対にかぶっていってくださいね。”アリデルは柔らかな微笑みを浮かべながら彼女の目線に合わせてひざをついた。

“ありがとう、小さな淑女。”花冠を頭にのせたアリデルは言った。

“約束する。戻ったら君たちと一緒に遊ぶと。”


ルシエルも子供たちを見回し、大きく笑い声をあげた。

“俺たち二人とも無事に戻ってくるさ。だから心配するな。お前たちが俺たちをからかう準備だけしておけ。”


しかしその瞬間、祭りの賑やかな雰囲気を裂くように黒いマントをまとった伝令が姿を現した。彼の手には封印された巻物が握られていた。伝令は迷うことなく歩みを進め、ルシエルとアリデルの前に立った。祭りの喧騒の中でも、人々は彼の動きに視線を奪われた。


“命令だ。”伝令は冷静な口調で巻物を差し出した。


ルシエルとアリデルは一瞬互いを見つめ合った。巻物を開いて読むと、その表情が引き締まった。


“ついにその時が来たか。”ルシエルが静かに言った。


アリデルは目を閉じ、深く息を吐いた。

“俺たちが既に予感していたことだな。”


二人は伝令を背にし、しばらくの間静寂の中に立ち尽くしていた。祭りの笑い声はなおも響いていたが、二人にとってそれは次第に遠ざかる音のように聞こえた。どこか、聖域の最も高い場所では、彼らの運命を決めた者たちが既にその役目を終えていた。


二人の英雄はゆっくりと互いを見つめ合った。そして揺るぎない決意を込めた目で頷き合った。彼らの足跡は祭りの喜びを背に、次第に遠ざかっていった。その旅路は、運命という巨大な歯車が初めて回り始める瞬間を迎えようとしていた。

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