『異セカイ文化人類学』番外編〜岩山の雪

所クーネル

『一岩の国』について

 『一岩いちいわの国』には常に雪が降っているという。


 土地のほとんどが『十色鉱山じゅっしょくこうざんの国』から続く岩山で、人々は狭い平地に密集して暮らしている。まばらに生える木々は黒く硬く、薪にも建材にも向かない。


 雪の降り積もった岩だらけの大地に、同じように雪化粧した堅牢な石造りの家が建ち並んでいるのはどんな景色だろうか。


 人々の肌は灰鼠色で、髪は青みがかった黒。岩の様に大きく厳しい顔形をしているそうだ。そしてどんな服を着ていても、伝統衣装である毛皮を必ず身につける。


 一岩の言葉には独特の単語が数多くあり(例えば『岩に当たる雨の音を聞きつけて外に出る』という状況を表す単語があるそうだ)、他国の人とはもっぱら共通語を使って会話しているそうで、ほとんどの人が完璧な二か国語話者だという。


 彼らはこの厳しい環境のせいで「考え方も性格も、雪のように冷たく岩のように硬くなってしまった」と本に書いてあった。


 だが俺の先生こと、自称天才魔導士フィスさん曰く、


「それは表面的なことにすぎない。彼らは少ない資源を分け合い、知恵と工夫を駆使して助け合って生きてきたのだから、心根は熱いほどにあたたかく、お節介なほど世話焼きなのだよ」

とのこと。


「確かに警戒心が強く、よそ者を嫌うが、こちらに敵意がないことがわかれば一瞬にして家族のように接してもらえる……」


 しかし先生は、銀色の長い顎髭を弄びながらぼそっと続けた。


「自分たちが、母であり父である『漆黒竜しっこくりゅう』の長子なのだという高すぎる自尊心はなかなかに高い障壁になっているがね」



 俺が転生したこのセカイは、まだまだ知らないことばかりだ。

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『異セカイ文化人類学』番外編〜岩山の雪 所クーネル @kaijari_suigyo

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