第2話 青春に悩む生徒は多い

 俺、神間節都は自由が好きだ。何者にも侵されない自由が。

 愛してると言っても過言じゃない。


 だからこそ一人が好きだ。一人でいる自由な時間が好きだ。

 だからといって学校が嫌いなわけじゃない。好きでもないけどな。

 でも、高校を卒業するためには仕方ない。将来路頭に迷わないためだ。しっかりと学校には通ってる。半ば脅されて。


 そして、新学期初日から約一ヶ月が経った今日この頃。

 俺の学校での成績は早速落第しかけていた。しかけているってだけで、まだギリギリのところで保っているんだがな。


 何故、落第しかけているかというと、単純にこの学校のカリキュラムである行事や授業をまともに受けていないからだ。

 そもそも、ここ日向峰高等学校はプロを輩出する学校で有名だ。

 勉学、スポーツ、芸能関係、何でもいい。その得意分野で何かしら秀でていると面接の時に判断された生徒が入学できる学校なんだ。


 だからこの学校の生徒は誰もが何かしら秀でている。俺もそう判断されたから入学できたんだが、実際は俺のクラスの担任でもある藤代先生の推薦で無理矢理入学させられたと言った方が正しい。

 そもそも俺はこの学校に通う気はなかったからな。普通の学校に通って普通に卒業できればそれでよかったんだ。


 そんな誰もがプロを目指すような学校で何もやる気を出さずサボり気味な生徒がいたら落第しかけるのは当然だ。

 じゃあ、何故まだギリギリ落第を避けられているかというと、それは俺が行わされている活動に理由がある。


 放課後になると、早々に教室を出て行く。

 元々、嫌々通ってるのが表情に出てるのか、それとも話しかけるなオーラでも出てるのか、初日の出来事も相まって俺に話しかけてくるクラスメイトはいない。見事にボッチの立ち位置に収まることができている。

 だから俺が教室を出て行こうが誰も話しかけてくることも気にすることもない。何事もなく目的の部屋まで向かって行ける。


 俺みたいな奴は放課後になると、すぐに帰宅する奴が多いと思うだろう。だが、俺はその逆ですぐには帰らない。

 だって、俺は一人暮らしだし、帰ったところで誰もいない。だから、家に帰ろうが一人で学校に残ろうが大して変わらない。

 逆に家にいて暇になると、無駄に何かを口に入れてしまうから太るのを防止するには学校で本を読んでいた方がいろいろと都合がいい。


 そんな俺には学校に憩いの場所がある。いわゆるプライベートルームだな。

 そんなもん漫画やラノベでしか見た事ないとか思うかもしれないけど、俺は実際プライベートルームを持ってる。

 ガチで一人好きな俺の本気を舐めるなよ! 一人でのんびりすることができる場所を見つけるのに労力は惜しまない! なんか言葉が矛盾してる気がするけどな!


 正直、このプライベートルームを見つけるのにはかなり苦労したんだ。

 人目や先生の目を盗んで一人になれる場所を探すのに学校中を歩き回った。ただプライベートルームが欲しいがために。

 その結果、この部活動をしてる人たちが使う部室棟の最上階に誰も使ってない端っこの部屋を見つけた。


 ただ、ここには学校のイベントや行事、部活で使用した要らない物や使わなくなった物を押し込んだのか、物置のようにごちゃごちゃしていた。

 だが、その中にはまだ使えそうなものや部屋を快適にするための道具が揃っていた。なので、埃だらけの部屋を掃除して、傷ついたソファを適当に修繕して、机やさらには電気ポットまであったので、ありがたく利用させてもらっている。


 まぁ、そんな部活もしていない俺がその部屋に入り浸っていれば不審に思う先生が出てくるのは当然だ。

 俺はプライベートルームにやってきて、今朝テレビで見て気になったニュースをスマホの記事で眺めていた時のことだ。


「……ふーん、一夫多妻制に同性婚の導入ねぇ」


 なんでも、あまりに結婚しない人が増えているのと、それに伴い少子高齢化も進んでいることで、将来的な人口の減少を危惧して導入が可決された法案らしい。

 だけど、それを良く思わない人もいるとか。特に一夫多妻制の方には。

 なんか一部の女性の中には『女性を蔑ろにしてる』とか『男性を優遇した法律だ』とか訴えてる人がいるんだと。


 だが、何故か同性婚の方には反発する人が少ない。

 それは外国でも導入されているからか、下手に反発したら同性愛者にボロクソに叩かれるからかは分からないが。


 別に俺は一夫多妻制も同性婚も導入されようと、その制度を利用した当人たちが納得してるなら構わないと思ってる。納得してるのに他人が外野からとやかく言うのは違うだろうからな。

 特に一夫多妻制に関しては、下手に妥協して好きでもなく魅力も無い男性と結婚して早々に離婚するくらいなら、一人の甲斐性も魅力もあり、複数の女性と結婚しても責任が取れる男性と結婚した方がいいと俺は思うね。その方が片方の親がいなくて寂しい思いをする子供がいなくなる分マシだと思う。


 そもそも動物でさえ一匹のオスが複数のメスと子供を作る一夫多妻の種類がいるんだ。動物にできて人間にできないことは無いだろう。

 何より、少子高齢化を阻止するっていう意味なら、子供を作れない複数の男性が一人の女性と結婚する一妻多夫よりも、子供を作れる複数の女性が一人の男性と結婚する一夫多妻の方が理に適っていると言える。


 ただ同性婚に関して俺は『お前らがそれでいいなら好きにすればいい』というスタンスだ。

 だが、同性愛者やその恋愛模様を見るのが好きな奴の思想を他人に押し付けてくるのは勘弁してほしい。特に『百合の間に男が挟まるな』とか言ってる過激な奴ははっきり言って嫌いだし迷惑だ。


 別に百合の間に男が挟まろうが、当人たちが仲良くできていて、且つ文句を言ってないなら、他人が外野から口を挟むようなことじゃねえだろ。そもそも、そういうのは当人たちの問題であって外野の俺たちが口に出すことじゃない。

 というか、はっきり言って百合の間に男が挟まらないって不可能だからね。世の中にどれだけ男がいると思ってんだ。生きてる限り、異性と関わらないなんて無理だからな。


 百合ものの中には女性同士で子供を作れるような作品があるらしいが、一体全体どうやったら女性同士で子供が作れるの?

 別にフィクションを作るのは構わないんだよ。だけど生物学や物理法則を根本から否定するような作品はやめてもらえます? 正直、現実味がなさすぎて共感できない。


 だからなのか、俺は百合ものの作品が全く好きじゃない。

 とは言え、作品の楽しみ方なんて人それぞれだから、百合ものが好きなら好きで構わないさ。これ以上とやかく言うつもりもない。

 だけど、その思想を他人に押し付けてくるなら話は別だ。徹底的に対抗する構えを取るぞ俺は。


 別に男だ女だ言うつもりもなければ、お前らが誰を好きになろうが文句を言うつもりはない。

 だが、後から性別を変えようと、お前らがその性別で産まれてきたという事実だけは変えられない。そのことだけは忘れるなよ。


「入るぞ」


 そんなことをスマホのニュース記事を眺めながら心の中で注意を促していると、俺が部活に入ってないにも関わらず、下校しないことを不審に思って、俺がこのプライベートルームに入り浸っているのを見つけた本人が部屋をノックもせずに現れた。


「先生、ノックくらいしてください」

「いいだろ、別に。ナニをしてるわけでもあるまいし」

「してたらどうするんですか?」

「私とお前の関係が気まずくなるだけだ」


 でしょうね。教師と生徒という関係でナニをしてるところを見られたら、気まずくて会話が減るわ。


 その女性なのに簡単に口から下ネタを出した、身長が小学校高学年の少女くらいしかないのに身体に不釣り合いな巨乳も持つ教師は、藤代出雲という名の俺の担任でもある先生だ。

 ちなみに、俺がこの学校で変態のレッテルを貼られることになった原因の張本人だ。今では少し緩和されてきたとはいえ、まだその名残はある。


「今日は何の用で?」

「おいおい、そんな用事がなかったら来てはいけないような発言はやめてくれよ。あれだけ絡み合った私とお前の仲じゃないか」

「ただの教師と生徒の関係です。誤解を生むような発言はやめてください」


 とは言うものの、藤代先生の発言もあながち間違ってない。なんせ、俺と先生は同じ道場に通ってた先輩と後輩だからな。


「あ、あの……」


 すると、そんな遠慮がちな声が扉の外から顔を出した少女から発せられた。


「ああ、またですか……」


 それだけで先生がここに現れた理由が分かってしまった俺はソファに寝転がっている身体を起こして普通に座る。

 ちなみに、今からする活動が俺が落第せずに済んでいる理由だ。


「ああ、今回も頼む」


 先生はそう言うと、俺の机を挟んだ対面にある椅子に座ると、連れてきた女子生徒を促して隣に座らせた。


「おい、ここは客が来たのにお茶も出さないのか?」

「先生、頭からお湯をぶっかけますよ?」

「おお、お前は中に出すよりぶっかける方が好みか」

「先生、身体の何処かに『R18』の札を貼ってから出歩いてください。この歩くセクハラ野郎が」


 というか、男子生徒に女性教師がセクハラってどうなの?

 先生がそんな下ネタを言うから隣の女子生徒の顔が真っ赤じゃないか。それはそれで、初過ぎるな。

 俺は溜め息を吐きながらも部屋に常備してある湯呑みを3つ取り出して、以前買い足したティーパックを入れてポットからお湯を注いでからそれぞれの目の前に置く。


「あ、ありがとうございます」


 女子生徒はそんな恐縮したように言うと、お茶に口をつけた。


「で、今日は何の相談で?」

「あ……そ、その……」


 俺が話を促すと、女子生徒はお茶を飲むのをやめてゆっくりと話し出した。

 その女子生徒の相談はなんてことはない。年頃の少女たちにある思春期特有の相談だった。まぁ、はっきり言ってしまえば色恋についてだな。


 なんでも、女子生徒の彼氏が最近冷たいらしい。話しかけても素っ気ない返事をするだけで、ちゃんと会話をしてくれないんだとか。

 そこからは女子生徒の彼氏に対する不満や愚痴を聞かされることになった。

 それに適当に相槌を打ちながら、所々にアドバイスを求めてくることもあったので俺の見解で女子生徒の意見を助長するようにアドバイスを送った。


 こういうタイプの女子が言ってくる愚痴はただ同意が欲しいだけで、アドバイスはすでにある考えを補助して後押しして欲しいだけなんだ。

 要は女子生徒は踏み出すために背中を押して欲しいだけなんだ。だから間違っていることでもない限り決して否定してはいけない。


 ある程度相談に乗ると、女子生徒は勇気を貰ってやる気を出したような表情をしてお礼を言ってきた後部屋を出て行った。

 それを見送った俺はふぅっと一息吐く。


「流石だな。相手が言って欲しいことがよく分かってる」

「そりゃあ、この一ヶ月間ほぼ毎日こんな相談を持ってこられたら嫌でも分かるようになりますよ」


 俺だって最初からその人が求めているものを分かっていたわけじゃない。これまでの経験のおかげだ。不本意だけどな。


「何度も言ってますけど、ここは青春に悩む迷える生徒の相談所じゃありませんからね。俺のプライベートルームですからね」

「分かってるさ。でも、部活もしてない生徒に無償で部屋を貸すわけにはいかないんだ。こうすることでお前も部屋を追われずにいられるんだ。そう計らった私に感謝しろ」


 はいはい、分かってますよ。俺だって何の対価もなく学校の私物を使えるとは思ってませんよ。


「……感謝はしてますよ。この活動のおかげで落第せずに済んでいるんですから」

「そうだろう、そうだろう! お前が今退学せずに済んでいるのは全て私のおかげだ!」


 このやろう、調子に乗ってやがる。元はと言えば、あんたがこの学校に通わせなかったら出席日数と成績を落とさなければ普通に卒業できてたんだ。


「できれば、もう少し相談事を持ってくる頻度を減らしてくれれば文句は無いんですがね!」

「……まぁ、私も感謝してるよ。だから、こう言った先生相手じゃ相談しにくいことの相談に乗ってもらってる代わりにこうやってお茶請けを持ってきてるんだ」


 それは本当にありがたい。こういう相談って乗るだけでも大分疲れる。だから、こういった甘いものを持ってきてもらうのは嬉しい。

 まぁ、多分だけど自分も食べたいからとか、そんな理由で持ってきてるんだろうけど。


 俺は受け取ったお茶請けを時々摘みながら本を読む。

 行儀悪いとか言わない。ここはプライベートルームなんだからいいだろ。

 先生も時々俺に話しかけてきながらお菓子を食べてゆっくりしていた。


「それじゃ私は戻る。学校ももうすぐ閉まるからお前もそろそろ帰れよ」


 先生にそう言われ、スマホの時計を見ると、本当に帰る時間になっていた。窓の外も夕暮れになっていた。

 この時間になると、部活動をしてる人も帰る準備をして玄関が人でいっぱいだろう。なので少し待ってから動くとするか。

 そう思い、俺は先生に返事をして、先生が出て行ったのを確認すると、五分くらいまた本を読んで時間を潰した。


 その後、俺も鞄に本を詰めてから鞄を持って部屋の戸締りをしてから家に帰るために玄関に向かった。

 この後、あんな出来事に遭遇するとも知らずに。

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この青春ラブコメはあやまちに満ちている。 大河 @RyoHirokawa

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