この青春ラブコメはあやまちに満ちている。

大河

第1話 青春に間違いは付き物

 ――青春とは何か?



 そう聞かれたら、君なら何と答えるだろうか。


 友達と友情を育むこと?

 友達と馬鹿騒ぎすること?

 仲間たちとスポーツで汗をかくこと?

 仲間たちと目標に向かって突き進むこと?


 それとも――


 好きな人と恋愛すること?


 何にしても青春は一人ではできない。必ず相手が必要だ。

 一人でする青春はただの趣味だ。それでも没頭できているなら青春かもしれない。

 そして殆どの人はこの中で真っ先に浮かぶものがあるとしたら、それは好きな人と恋愛することだろう。


 恋愛は青春とは切っても切れない縁で結ばれてるからな。どう足掻いたって人と関わる限り、それから逃げることはできない。

 特にそれら青春を謳歌できる学生時代の人たちは。


 じゃあ、それら青春に積極的に関わらない人たちは学生時代を謳歌できていないのだろうか?

 答えは是であり否だ。有り体に言えば人による。というか、その人の感覚次第だ。


 その人が今の自分は充実していると思ってるんなら青春していると言えるだろう。だが、そんなの他人から見れば全然青春じゃない、独り善がりだと思われる筈だ。

 実際そうだろう。青春じゃなくても自分一人で完結することは、その殆どが独り善がりだと俺は思う。


 だが、独り善がりなことでも誰にも迷惑かけず、自分一人だけで完結して他人に見せびらかすようなことをしなければ俺は別にいいと思う。それは結局自分一人だけの問題だから。

 一人だけの青春だからこそ他人に迷惑はかけない。だけど、人との関わり持つことになる青春は必ず誰かに迷惑をかけることになる。


 どんなに気をつけていたって一つボタンを掛け違えるだけで今後の人生の全てを棒に振るうだけの間違いをしてしまうことだってある。

 それこそが青春。もっと言えば、人生そのものだろう。


 人間、誰しもが最善の選択を選び取れるわけじゃない。そんなことができれば不幸になる人間なんていやしないのだから。

 人生は選択の連続だ。なんてよく聞くが、実際その通りで、人間は行動に移そうとする時や行動に移した後も常に人生は俺たちに選択を突き付ける。

 その選択の答えが、その先の未来に何が起こるか分かってるんなら人生どんだけ楽か。


 だけど、そんなことはあり得ない。選択した結果、何が起こるかはその後の未来にしか分からないからだ。

 だからこそ、人間は間違える。最善の選択というものが分からないから、不正解の選択を選び取ってしまう。


 そもそも人生に正解の選択肢なんてあるのだろうか? そんなものがあるならヒントくらい出してほしい。

 だけど、それが無いから人間は選択を間違える。人生の選択に予習復習はできないし、テスト対策ならぬ、セレクト対策なんてものは無いからな。


 だけど分かりきった間違いの選択はある。

 その選択肢こそが犯罪に走ることになる選択肢だ。

 それを選び取ってしまった場合、人生の終了を告げられることになる。程度によっても様々だが、確実にその選択をしてしまった以前の生活には戻れないだろう。


 だが、その間違った選択に抗えない人間がいるのも確かだ。その間違った選択っていうのは人間の欲望を刺激するからな。

 だって、腹減った状態で目の前に美味しそうな食べ物が置いてあったら飛びつきたくなるだろ? 例え、それに毒が入っていたとしても。


 でも、大抵そこまで切羽詰まっている場合は、目の前の料理に毒が入っているなんて思考する余裕はない。思考することができたとしても『腹壊す程度だろ』なんて考える奴がいるから犯罪に手を染める奴が出てくるわけだ。


 でもまぁ、強制的に間違った選択を選ばさせることが無いわけじゃない。

 それは脅されていたり、心理操作されていたり、間違いだと分かっていても目の前の恐怖の方が怖かったりと理由は様々だ。

 例え、目の前の選択が間違っているって分かっていても、そんな状態じゃまともな思考はできないからな。そもそもその場合『抵抗』という選択が正解じゃないこともある。


 とまぁ、何でこんなことを語っているかというと。


 俺、神間節都かんま せつが今現在間違った選択肢を強制的に選ばされているからだ。

 あ、安心してくれ。一歩間違ったら犯罪になってたかもしれないが、運が良かったのか偶然にも犯罪にはならなかったから。


 それは春、入学式を終えた新学期初日の出来事だ。

 この時期は誰も彼もが期待に胸を膨らませていることだろう。


 新しい出来事に新しい出会い、新しい場所での新生活、そして――新しい学校生活。

 それぞれがそれぞれの想いを抱えて新しい一歩を踏み出す今日この日。それは、ここ上代市の日向峰高等学校も変わらない。


 だが、その一歩を踏み出す気がない奴がその場にはいた。

 いや、正確には一歩を踏み出す気がないのに、無理矢理縄で縛られた状態で吊り下げられて、空中に浮いたまま他人の足によって第一歩を踏み出すための校門を潜らされていた。亀甲縛りで。


「……何あれ……プレイ?」

「随分とマニアックな登校をする奴がいたもんだなぁ……」

「大丈夫か? この学校……」

「入る学校間違えたかな……」


 などなど、人が好きで縛られていると思ってやがる奴らが好き勝手言ってくれる。


「おいコラ、いつまで人を縛ってやがるんだ」


 背中越しに俺を縛り上げ学園まで連行している奴に向かって言い放つ。


「お、起きたか」

「起きたかじゃねぇよ。何で俺は目が覚めた瞬間に縛られてた上に変態扱いされなきゃいけないんだ。つーか、何で亀甲縛り?」

「そんなもん、お前が新学期初日から寝坊するのが悪いんだろうが。だから私が起こしても起きないお前を運んでやってるんだろ。感謝されど文句を言われる筋合いはない」

「いや、あるだろ! 何でわざわざ縛り方が亀甲縛りなんだよ! つーか、よく道中公然猥褻で捕まらなかったな! 俺が!」

「この縛り方はただの趣味だ。ちなみに、今お前が制服を着てるのも私が着替えさせたからだ」

「でしょうね!」


 この人は変態プレイが好きなだけあって人を着替えさせるのが上手い。それも寝てる本人に気付かれないように。

 そして、そんな人を亀甲縛りにするのが趣味な身体が小さくて童顔の癖に胸だけは無駄にデカい女はこの学校の教師である。

 もう一回言う。教師である。決して生徒にSMプレイをしていい立場じゃない。

 本人はSもMも両方いけるとか言ってたが……。って、そうじゃない!


「というか、どうやって俺の部屋に入ったんだよ!」

「そんなもん合鍵で入ったに決まってるだろ」


 そう言って片手で弄んで見せた鍵は俺の部屋の鍵の形に見える。


「いつの間に!?」

「この前、お前が一人暮らしのために引っ越した直後に」


 そんな前から合鍵作ってたのかよ! 何のために!?

 ……いや、俺が学校をサボらないようにか。


「今すぐ鍵を俺に渡せ! それと、いい加減縄解け!」

「……逃げ出さないか?」

「逃げ出すような原因を作ってる奴が何言ってやがる!」


 おかげで最早俺はこの学校で変態のレッテルを貼られるの確定だろうが! そんなの誰だって逃げ出したくなるわ!


「そうか、逃げ出すつもりなのか。だったら、このまま授業を受けさせるか」

「あ、待って! 嘘です、逃げ出さないから!だから、縄解いてくれ! お願いします!」

「信用できないな」

「いやぁーーーー!!」


 あー、日頃の行いの所為で先生の信頼がなくなってる!

 いやー! このままじゃ本当に入学初日にクラス中……いや、学校中から変態扱いされるぅー!

 そんな俺の悲痛な叫びも虚しく縛られたまま教室に連れて行かれた。


「………………」


 俺は亀甲縛りのまま自分の席の天井に括り付けられ、ぶら下げられている。そんな俺を見てみんながコソコソ話してるのが聞こえる。

 いやー、注目の的だなぁー。と、死んだ目で思ってみたり。


「さて、今日から一年間このクラスがお前たちの過ごす教室となる。私はこのクラスの担任の藤代出雲だ。よろしくな」


 俺を亀甲縛りした本人は俺の担任でもあったようで新学期初日のホームルームで何もなかったかのように話を進めている。


「あのぉ、先生……」


 すると、一人の女子生徒がおずおずと遠慮がちに手を挙げていた。


「どうした?」

「いや、どうしたって……あれ、物凄く気になるんですけど?」


 そう言って指差したのはもちろん俺の方だ。

 ま、でしょうね。気になるでしょうね。普通に教室の飾りとしてはシュール過ぎるからね!


「ああ、気にするな。ただ変態が空を飛んでいるだけだ」

「てめぇ、後で覚えとけよ……! この合法ロリ巨乳が――はぅっ!」


 その直後、高速で飛んできたチョークが俺の股間に炸裂する。

 それを見た男子生徒たちはその痛みを想像してしまったのか、自分の股間を押さえていた。


「何か言ったか?」

「いぇ……何でもありません……」


 こんちくしょー! 絶対後で泣かす!

 そんなことを俺は薄っすらと涙を浮かべながら心に決めた。


「ちなみに、私の見た目が小さくて可愛いからってあだ名で呼んだり、ちゃん付けで呼んでみろ。一生子供が作れない身体にしてやる」


 そんなことをドスの効いた声音で言った先生の言葉に今のを見ていた男子は頭を高速で縦に振っていた。


「よし。それじゃあ、自己紹介頼むな」


 その後は着々と自己紹介が進んでいった。縛られてぶら下げられている俺には誰も触れずに。

 まぁ、授業が始まる頃には最初の授業を担当する教師に降ろしてもらったけど。それから俺に話しかけてくる奴は誰もいなかった。

 近寄り難い奴になったんだろうな。後、変態には関わりたくないとか、そんな理由で。

 ある意味一人の方が好きな俺にとっては都合が良かったのかもしれない。変態というレッテルと共にっていうのが少し物申したいけどな。


 そして、初日という事で午前中で終わった授業の放課後。

 生徒たち、特に今後リア充と呼ばれることになりそうな人たちの中で「参加できる人全員で親睦会をやらないか?」という流れになっていた。


 で、そんな時だった。

 新学期初日から誰とも関わりを持とうとしない人たちや、まだ初日で生徒たちに馴染めていない人にも誘いをかけてくる生徒たちがいた。

 その中の一人である女子生徒が俺ともう一人の男子生徒に話しかけてくる。


「ゆ、裕翔くん。裕翔くんも一緒に親睦会に行かない? あ、それと神間くんだっけ? 君も」


 物凄くついで間が否めないが、その生徒は俺にも親睦会に誘ってきた。

 しかも、もう一人の男子生徒には名前で呼んでいた。知り合いだろうか?


「ね、ねぇ、どうかな?」


 あからさまに名前で呼んだ男子生徒を優先的に誘う感じで聞いている。でも、何処か男子生徒に対して緊張したようで気まずそうな雰囲気が漂っていた。


「えっと……彩葉さんだっけ? 悪いけど俺は遠慮しとくよ」

「――っ!」


 裕翔と呼ばれた男子生徒は明らかに初対面の人と話すように誘いを断っていた。その対応に女子生徒の方は何やら辛そうな顔をして息を飲んだ。


「それじゃ、俺はこれで」

「あ……」


 と、言い残して男子生徒は荷物をまとめて教室から出て行ってしまった。

 女子生徒はそれを引き止めようとしたみたいだが、引き止めようと伸ばした手を途中で引っ込めてしまっていた。

 あからさまに何かあるな。この二人の間に。


 まず、初対面っていうのはないだろう。女子生徒の反応からしても。

 しばらく俯いていた女子生徒だが、そんな様子を俺が見ているのに気付いて、誤魔化すようにぎこちない笑顔を向けてきた。


「それじゃあ、神間くんはどうかな?」

「いや、俺も遠慮しとく。誘ってくれたのはありがたいが、俺が行くと警戒して楽しめないだろ。特に女子が」

「あー……」


 女子生徒はその俺の言葉に納得したかのような反応をしていた。他の女子生徒も俺が断ったことに心底安心したような反応をしている。


「……なんか、ごめんね?」

「気にすんな。そういうわけだから俺は参加しない」

「うん、分かったよ」


 そう言って、潔く身を引いてくれた。他の女子生徒のこともあるし無理して誘おうとはしなかった。

 女子生徒が離れていったので、俺も荷物をまとめて席を立つ。そのまま教室を出て帰路に着いた。


 まぁ、これでいい。俺は一人で自分の好きなことができる自由が好きだけど。誰かに合わせて自分の好きなことができないのは苦痛だからな。

 別に強がってるわけじゃない。全部俺が今まで経験してきて得た結果だ。


 小学生の頃は自分の好きなことや正しいと思ったことしかしなくて嫌われた。だから、中学生の頃は友達が欲しくて自分を殺して周りに合わせていたら、いつの間にかトップカーストのリア充になっていた。

 だけど、疲れた。自分を殺してまで友達とワイワイ騒ぐことに楽しさを見出せず、周りに合わせることに苦痛を感じて、次第にフェードアウトしていく。そして、一人で自由に自分の好きなことをできることの魅力に気付いた。


 とまぁ、そんな理由があって一人が好きになった俺だが、そんな俺でも争いは嫌いだ。

 そんなの殆どの人がそうだと思うかもしれないが、大抵の人は自分と関係ないところでの争いなら我関せずを貫く。例え、争いが起きても自分と関係ないところなら好きにしろという風に。


 だけど俺は自分と関係ないところでの争いと言っても、自分の視界に入るところでの争いなら気分が悪くなる。いくら我関せずを貫いたとしても視界に入るところでの争いなら解決しなければ、いつかは自分が巻き込まれることになるからだ。


 だから俺は自ら問題事に首を突っ込む。どうせ最終的に巻き込まれるなら、さっさと解決して一人自由な時間を過ごしたいから。

 そんな性格だからか。余計に問題事に巻き込まれることになるんだがな。


 この時の俺は既に予感していた。あの二人の問題も長引くようなら、場合によっては俺が首を突っ込むことになるだろうと。

 はぁ、新学期初日からこんな問題事が目に付くとはな。争いが嫌いなのに俺の周りは常に争い事が巻き起こる。


 全く、人生ってのは難儀なもんだな……。特に青春時代の学生の問題は。

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