第一章 空の地図
森の図書館で働いている年老いた司書は、タケルとユウの好奇心と冒険心を遠くからずっと見守ってきた。彼は二人ならば、村の人たちが失ってしまったものを取り戻すことができるのではないかと密かに期待を寄せていた。
お墓に手を合わせた後、司書は図書館の隠し棚にある古地図を取り出し、二人がよく調べている棚にそっと置いた。
次の朝、図書館の扉が開くと同時に、タケルとユウはいつものように本棚の間を駆け抜けて行った。しかし今日は何かが違った。本の配置を変えたのだろうか。見慣れないものがある。古い地図のようだ。
「やっぱり、あれは夢ではなかったんだ!」
タケルは目を見張った。
地図には奇妙な絵と不思議な記号が散りばめられている。タケルは一つの絵に着目した。あの日の夜に目撃したアエリアにどことなく似ている絵が描いてある。
「ユウ、これは偶然じゃない、僕たちに託された運命だよ」
タケルは興奮を隠しきれずに言った。
タケルとユウは村の外れにひっそりと佇む古い図書館で「アエリア」に関する手がかりを探していた。
時を織りなす都市・アエリア……。アエリアは時の流れと共にその姿と場所を変える謎に満ちた都市と云われている。
タケルとユウにとってアエリアは遠い目標であり、新たな冒険への憧れでもあった。二人は空飛ぶ自転車に乗りながら、アエリアへの道を心に描き、その夢を胸に秘めていたのだ。
タケルはユウと共にアエリアの地に足を踏み入れたいと思い、旅の準備に取り掛かった。
村の人たちは誰もアエリアのことを信じていない。図書館からの帰り道も村の人たちはまるで僕たちが存在しないかのように振る舞った。顔に生気がなく、夢遊病者のように彷徨っている。しかし、それは仕方のないことかもしれない。ここは争いごとの絶えない土地なのだ。きっと希望を失っているのだと思う。だけど僕とユウは違う。僕らの心は冒険への希望に溢れている。同じ場所に留まっていたくはない。
「ユウ、準備はできた?」
タケルはリュックのストラップを引き締めながら尋ねた。夜が明け、村が朝日に染まり始めている。
「もちろんだよ。この時を待ちわびていたんだからさ」
ユウが得意満面な笑みを浮かべている。
──旅が終わったら、また会いに来るよ。それまで待っていて。
タケルは村の人たちに心の中で語りかけた。
二人は空飛ぶ自転車に乗り、未知の世界へと踏み出した。
朝霞の中を突き進んでいると、奇妙な生物たちが風を切る音を立て、タケルたちの自転車に近づいてきた。見たこともない生物だ。警戒心より好奇心の方が優っているのだろう。僕たちを恐れることなく、少し離れた位置から興味深げに眺めている。タケルとユウは、それらの生物たちを刺激しないように、群れの中を突き進んで行った。調和を保っていれば、どのような生物であろうとも争わなくて済む。そう願いながら……。
二人は風に乗って雲海の上をひた走った。空は新たな始まりと無限の可能性を秘めている。太陽が地平線を照らし始め、世界を金色に染める頃、タケルは古地図を広げた。太陽の光が柔らかく地図に触れている。
「この方角で合っているのかな」
タケルは不安げに呟いた。アエリアは時間と共に場所を変える都市だ。あの夜のように闇雲に飛んでいては、とても見つけることはできない。あの日は、ただ運が良かっただけだ。
タケルとユウは数々の失敗と成功を重ねながら、少しずつアエリアへの道筋を解き明かしていった。その歩んで来た一つ一つの道は二人の勇気と決断を表している。
迷いの森を抜け、幻の沼を越え、そして今……。
「タケル! これを見て」
ユウが叫んだ。古地図の記号が明滅している。
タケルとユウは光る記号をじっと見つめた。これまでに目にしたどの記号よりも生き生きとしている。
「今まで見たことがない記号だ! 光り方といい、位置といい、まさにアエリアへの道を示しているとしか思えない」
タケルは古地図の細部を確認しながら言った。
「ようやく見つけたんだね、タケル! アエリアへの道を!」
ユウが興奮気味に言った。
タケルとユウは新たな発見とアエリアへの道が明らかになりつつあることに心を躍らせた。
そして、ある日の朝、二人は遠くに浮かぶシルエットを目にした。それは夢のような光景だった。
アエリア ~空飛ぶ自転車と少年の旅立ち~ 秋月 友希 @akithuki-yuuki
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