プロローグ 夢の始まり
空には限界がない。少年タケルは、その話を心の底から信じていた。
タケルにとって自転車はただの交通手段ではなかった。それは夢を追いかける翼であり、空を自由に舞うための魔法の乗り物だった。
太陽がちょうど山の端にかかる頃、タケルはいつものように古びた自転車に跨がった。ペダルを踏むたびに自転車が奇妙な音を立てながら輝き始め、そして、ある瞬間、ふわりと身体が宙へ持ち上がった。
村全体が模型のように小さく見える。村の中央を流れる川はヘリオス川だ。川が銀色のリボンのように煌めいている。
宙を舞う自転車はタケルを月明かりの道へと導いていった。
「星がこんなに近くに!」
タケルは空の匂いを深く吸い込み、両手を天に伸ばした。星々が手の届く場所にあるかのようだ。タケルは星座を指でなぞり、夜空の地図を心に描いた。
自転車が雲を越えて、さらに高く、舞い上がって行く。
「あれは一体……」
タケルの目は遥か彼方に広がる景色に釘付けになった。遠くから聞こえる古の鐘の音がタケルの心を高鳴らせる。タケルは心の声に導かれるようにシルエットに近づいて行った。
「まさか、アエリア?」
視界の霧が徐々に晴れ、神秘的な光がタケルを包み込んだ。壮大な門がそびえ立ち、その背後には天を突く塔や石造りの家々が広がっている。
タケルの目の前に広がっている光景は、まさに古代都市アエリアだった。
息を呑むような美しさに立ち尽くしていると、突然、空気が震え、星々が一斉に動き始めた。
巨大な天球儀が夜空に浮かび上がっていく……。天球儀には星々だけではなく、多種多様な動植物も描かれている。タケルは驚嘆し、そして思索に耽った。これは宇宙の生命網の地図ではないか。
「ユウも連れて行かないと」
そう呟き、タケルはペダルを逆に回し始めた。自転車がゆっくりと降下していく。
地上に降り立った時、タケルの心には夢と希望に満ち溢れていた。これから新たな旅が始まる。
タケルは空を見上げ、未来への期待を膨らませた。
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