僕は生出尽斗です。人を呪うために生まれてきたんじゃありません。
陸前 フサグ
生出尽斗といいます。
けれど私はその意味が本当に嫌いで嫌いで、名前を呪いに感じました。
僕にはてんで才能がありません。好きなものこそ上手なれ、なんて、まぁ、随分と迷惑な言葉がありますが、それこそ難しい有り様です。
まず、運動が出来ません。走るのは遅く、前に進むと言うよりも、地面を蹴り飛ばしているだけのように思えます。僕の動く姿を見て、危なかっかしいと手で口を覆う者まで現れる様なのです。
体にバネがないというのでしょうか。油のささっていない、オンボロの機械の様な動きになるのです。
だから運動は出来ません。
そして、歌も下手です。音痴なわけではないのですし、聞くに耐えないと言うわけでもないと思います。しかし、下手です。
特徴のないというか、聞いていて心地の良い者ではありません。
中学の合唱祭では、声が大きいだけだと注意を受けた事もあります。
なので歌も下手です。
他にも様々な才能がないはありますが、好きなものこそ上手にはなれません。
文を連ね、物語を紡ぎ、人に響く様な物を書きたいのですが、どうも違うようです。
好きなものではありますが、やはり才能はないようなのです。
世間と私はズレているようで、それはおかしなことではないのに、いざ気にするとどうにもならい恐怖を感じます。
もうどうにもこうにもならず、極端に筆を折るを選ぼうとするのです。
気がついたら、随分と文を連ねていました。机の引き出しを開けると、茶色くなった原稿用紙が落ち葉の様にわさわさと波の様に押し寄せます。
相変わらず、芽など出ません。どんなことも、芽の出る人が僅かなのもわかっています。それでも自分はその僅かの中の1人であると信じているのです。愚かでしょう。
努力云々ではどうにもならないのに、才能があると疑わないでいたいのですから。
僕には才能がありません。これっぽっちもありません。選ばれなかった人間です。
なんというか、才能がある人とは「個性を人の中にいかに溶かすか」と「自分の存在を当たり前にさせる」が出来る人のことだと思います。
愚かな私は選ばれなかった。けれど、愚かですから、夢を語ることは辞めないのです。
こんな自分ばかりの私が、人に尽くせるとお思いでしょうか。それは到底無理なのです。
いつでも、自分は自分はと、守ることで一生懸命なのです。
憧れの背中を追っては、参ったと転げます。すごいすごいと、雪を見てはしゃぎ回る子供のようにです。
だから、いつか自分も――と夢を見るのを辞められないのです。
僕は
今はまだ、芽の出ない文筆家の卵です。
きっと羽化してくださる方がいると信じて、今日も文章を連ねようと思います。
僕は生出尽斗です。人を呪うために生まれてきたんじゃありません。 陸前 フサグ @rikuzen_fusagu
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