子供部屋おじさんは異世界に転移してしまったので、スローライフを送る~チートスキルでたくさんのポーションを作って、冒険者の方々に売り捌こうと思います~

髙橋リン

第1話 異世界に転移してしまった

 子供部屋おじさん……社会人になっても実家の子供部屋で暮らす中年男性を揶揄する言葉である。


 子供部屋おじさんと呼ばれる背景には、次のような問題が考えられる。


 非正規雇用で収入が少なく自立できない。

 介護が必要な親がいて実家から出ていけない

 実家がいちばん居心地がいいから出ていかない


 他にも問題があると思われるが、これらが主な問題だ。


 勘違いしてほしくないのは、子供部屋おじさんはニートや引きこもりとは違う。


 今年で38歳になる俺――坂原仁さかはらじんは、実家から一番近くにあるコンビニでアルバイトをしている子供部屋おじさんだ。


 自分で言うのが恥ずかしい……と言うより、おかしい気がするが……まあ、あまり気にしないでおこう。


 毎月貰える給料は7万円前後……到底、自立して一人暮らしができる額ではない。


 だけど……俺は別に自立しようなんて考えていないし、一人暮らしをしたいとも思っていない。両親は俺の今後を心配しているが、生きていればなんとかなるって中学時代の先生が言っていた。その先生は、中学の先生になる前……6年間、ニートだったらしい。よくニートが中学の先生になれたな~と、初めて聞いたときは思った。


 中学時代の俺は思いもしなかったはずだ――自分が子供部屋おじさんになるなんて。


 アルバイトは週に3日程度で、休みの日はネトゲやゲーム実況の動画を見ている。休みの日に外出はほぼしないな……アルバイトのとき以外は、身体を動かしたくないんだ。疲れるのが嫌いだし、外に出ても行く場所がないからな。


 アルバイトをしているけど、運動不足のせいなのか……身体は太ってしまい、体重は87キロある。子供部屋おじさんになる前は、痩せていてスタイルが良かったんだけど……。


 現在、俺はアルバイトをしに勤務先へと徒歩で向かっている。


「ハァ……ハァ……」


 実家から勤務先へは歩いて10分。そこまで距離は長くないはずだが……運動不足のせいで、少し歩いただけで身体が悲鳴を上げている。横腹が痛いし、とても息苦しい。


 これから7時間のアルバイトだっていうのに、こんなんじゃダメじゃないか!


 そうは思っても、休日に運動をするのはダルいからやらずに一日を過ごしてしまう。


 自分でも自覚はあるよ……このままじゃダメだってことは……。だけど、俺と言う人間がクソすぎて……どうすることもできねぇんだよ! 決めつけるのは良くないって言われそうだけど……そうやって言う奴は、俺の気持ちをなんにも理解していないバカだ!!


 学力が高いから頭がいいと言う奴がいるが、それって……ただ単に勉強ができるだけだろ?


 そう言う奴らは『頭がいい』という言葉の意味を理解していない大バカどもだ。この世は、自分が有能だと勘違いをしているバカや、自分より位の低い人を見下すバカが多すぎるッ!


 少し話が脱線したが、俺のことを全て理解してくれる人間なんていないんだ……。


 まあ、逆にそんな奴がいたら怖いけどな! 

 心を読まれている気がして、恐怖を抱く。

 だけど、そんな人がいてもいいんじゃないかって……。


 ジャスト10分で、俺は勤務先へと着いた。


「ハァ……ハァ……。なんとか着いたぁ……」


 体感では30分くらい歩いた気がするが、実際はたったの10分しか歩いてないんだよな……。


 運動不足だけじゃなくて、年齢も関係しているのかな? 


 今年で38だからなぁ……俺。

 四捨五入すれば、40だぞ。

 中年男性になるのが、とっても早く感じる。


 ついさっきまで20歳だと思っていたのに……すまない、それはさすがに話を盛りすぎた。だけど、もう37年間も生きているのか~と思う。老いるのは案外、早くて……死ぬときはあっけないのかもな。


 そういえば、俺が死ぬときは誰も看取ってくれる人がいないな。あっ、俺が老人になって寿命で死ぬときの話ね。両親はとっくに死んでいるだろうし、親戚の人とは顔を合わせてないから……実質、孤独死ってことになるな。今から彼女を作って結婚をしようとは思ってもないし……。


 まあ、でも……自分で選んだ人生だからな。


 誰かのせいでもないし、誰かのせいにしようとも思わない。


 俺はリュックサックを背負って、裏の扉から店内に入るために……ドアノブに手をかける。


 アルバイトをして、実家に帰り……母親が作ってくれた料理を食べて、風呂に入って、布団に入って眠る。


 アルバイトのある日は、これらの繰り返しだ。


 さぁてと、今日も一日頑張るかぁ……!


 俺は扉を開けて店内へと入る――目を大きく開けて、目の前の光景を見ると……思わず声が出てしまった。


「えっ……!?」


 俺……夢でも見ているのか?

 夢じゃないとおかしいだろ……。

 だって、俺が見ている光景は――。


 ――非現実的すぎるッ!!


 ここはどこだ!? 目の前には噴水があって……ネトゲで見たことがある、いわゆる獣人が歩いているんだが……。マジでどういうことだよ……!?


 俺は自分の頬を叩くが――どうやら夢ではないようだ。


「痛い……めっちゃ痛い……」


 俺が今、見ているのは……現実、ってことだよな!?


 何が起きたんだ!? 頭で今見ている情報を処理しきれなくて、パニックになりそうなんだが……。叫んでもいいか? ……いや、ダメか。周りから変な目で見られるもんな。


 つうか、ここって――。


「異世界……だよな……!?」


 異世界と言ったら、魔法やスキル……冒険者が存在しているはずだ。


 今は冒険者と思わしき人を見ていないけど……冒険者が集まっているギルドに行けば、見れるかもな。だけど、ギルドがどこになるのか分からない。あー、ダメだ、こりゃあ。


 勤務先の扉を開けたら、異世界に繋がっているとか……マジでどういうことだよ。


 もう、俺……子供部屋おじさんじゃなくなるじゃねぇか!!


 実家に帰れないだろ……絶対にこれ。元居た世界に帰る方法が分からないんだから……。


 すると、突然……女性の声が脳内で聞こえてきた。


「坂原仁、37歳。異世界に転移して取得したスキルは『薬草に触れるとポーションに変えられる能力』です。異世界生活を満喫できるといいですね」


「な……なんだ……今のは!?」


 突然、脳内で女性の声が聞こえてきたから驚いたけど……それよりも一つだけ言っていいか?


 いきなり異世界に転移させられて……異世界生活を満喫できるといいですねって他人事だな!


 異世界に転移しちゃったから仕方ないな~、異世界生活を満喫しますかぁ! とはならねぇよ!!


 脳内で聞こえてきた女性の声の正体も気になるけど……取得したスキルについて言ってたよな。えーと、薬草に触れるとポーションに変えられる能力……そう言っていたはずだ。


 薬草がどこにあるのか分からないけど……このスキルは強いのか?


 ポーションって飲むと体力が回復するやつだよな……ゲームで知ったけど。


 俺が取得したスキルは戦闘には向いていないな。ヒーラーとしては役に立つかもしれないけど、ヒーラーなんかになりたくないし……そこまでして冒険をしたいとは思っていない。


 とりあえず、ギルドに行って薬草のある場所を聞いてみよう。


 ――スキルを試しに使ってみる。


 異世界でどのように生活するかは、スキルを使ってみてからだ。


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