カクコン10【短編】複数応募キャンペーン第1回「試験」
三雲貴生
第1話完結
「試験」
『司法試験』で息子が優秀な成績を収めた。その恩赦で父は罪を軽減され釈放された。
インタビューで父は「親孝行な息子なんですよ」と心の底から思い涙した、うれし涙だった。
【これは表向きの話】
真実は少し違っていた。
男は首席合格した。国家試験で1位を取った者には、国王から褒賞として『何でもひとつ願いが叶えられた』
ここの『何でも』は、国王が叶えられる『何でも』だった。
【妹】
早朝、妹に知らせを報告する男。それを聞いて妹は気絶した。3日間意識がもどらず、妹が目覚めた時全てが終わった後だった。
妹は兄の願いを全て知っていた。その瞬間、兄の一番の願いが叶えられたのだと知った。兄は既にこの世にいないのだと理解てしまった。妹は涙した、悲しみの涙だった。
【事務所の後輩】
合格発表の日、男は弁護士協会にいた。後のことを託し、後輩に資料の場所を教えておく。弁護士にとって資料はとても重要なものだ。
「俺の助手だぞ。俺がいない時に迷わない様にしっかり覚えて貰わないと困るからな」
「これから国王にお願いするんですよね? 一体何をお願いするんですか?」男はハハハと笑い。「一番の願いは叶えられないかも知れないから、2番か、3番かな?」
「贅沢な悩みですよね?」
「ああ、贅沢な悩みだ」
男が去った後、後輩はこれから先輩とつづく弁護士の仕事を頑張ろうと思うのだった。忙しくて涙する暇はなかった。
すぐ近い将来、自分の事務所になるとは露ほど知らなかった。
【国王】
国王の謁見の間、3人の合格者がそろい、それぞれの願いを告げた。
3位の者は、まだ研修生で自分の勤め先も決まっていない。有名な事務所を指名しても問題なかった。
2位の者は女だった。対抗意識の塊の様な女で首席事務所への就職を求めた。
「よろしくね。先輩っ!」
ハハハ……
(これは自分たちに影響されるなんて思っても見なかったよ)
最後に1位
「わたしの第一の望みは父の無実を証明することです」
「ダメダ。法に関する願いは聞き届けられない。褒賞で無罪を勝ち取れるなら法が紙の様に薄っぺらくなる」
「ならば父の処刑を取り消しください」
「先ほどと同じ言葉を、ワシに二言はない!」なにか言いたそうな顔に王は続けて言った。
「それに処刑人数は決まっている。お前の父が処刑されなければ別の処刑者が繰り上がる。明日死ぬはずの者が今日死ぬのだ。お前はそこまで残忍な男なのか?」
「なるほど名案です。父の代わりにわたしを処刑してください。その代わり、父の無罪を晴らしてください」
「無罪を勝ち取るのはお前たち弁護士の仕事だ。褒賞にはお前たちが将来国に貢献する部分も含まれていたのだが──もうよい。お前に興味をなくした。好きにするがよい」王は不機嫌にそう言った。
晴れやかだった宴が、まるでお通夜の様に静まり返った。だが、本人だけが全てをやり遂げた晴れやかな顔をしていた。
3年後、処刑された男の『父の無実』は2位の弁護士の努力により証明された。
父は生涯、毎日健康体操をしている。その公園で『父の無実の罪を信じて身代わりに処刑された英雄』という石碑が建てられていたが、それが息子であると気づかなかった。
終
カクコン10【短編】複数応募キャンペーン第1回「試験」 三雲貴生 @mikumotakao
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