お爺さんの風
コラボイズ
お爺さんの風
布団から風が出ているのか。
お爺さんは布団から出て布団を見るが風が出るようなものはどこにも見当たらない。
もう一度布団に入るとやはり手足に風を感じ、手を触ると手から風が出ているのに気づいた。
隣で寝ている婆さんを起こした。
「かおるさんや、わしの手から風が出てる」
婆さんはめんどくさそうに「そんなわけないじゃない。疲れてるのよ」と言った。
そうかわしは疲れているのか。早く眠らんと。
お爺さんは布団を被り寝た。
翌日起きるとやはり手足に風を感じた。
これはかおるさんに言わなけりゃいかんと思い、急いで炊事場へ向かう。
「かおるさんや、わしの手に触ってみてくれ。風が出てるんじゃ」
婆さんは爺さんの手に触り「あら、ほんとね。何で風が出てるの」と言う。
「分からん。昨日から出てるんじゃ」
「とりあえず病院に行ったら」
「わしは病院なんか行かん」
しばらく前に病院に行った時の対応が気に食わなかったことを根に持っている。
「あの病院は人がなってない」
「そうですか。街の病院に行ったら良いじゃないですか」
お爺さんはうなづき、家を出た。
足からも風が出てるし、空飛んで病院まで行けんかね。
お爺さんは足に力を入れた。そしたら、お爺さんの体が少し浮いた。
お、こりゃいいな。飛んで病院まで行こうか。
途中で小学生の親子が歩いているのを見かけた。
「あ、凛太郎ももうすぐ小学生じゃ」
お爺さんは孫の凛太郎に会いたいと思い、行き先を病院から倫太郎のところに変えた。
「あら、お祖父ちゃんどうしたの」
娘はお爺さんが家に来たのを不思議に思っている。
「凛太郎に会いに来たんじゃ」
「おばあちゃんは」
「家じゃ」
「一人でここまで来たの」
お爺さんは得意げに「そうじゃ」と言う。
娘は家の中に入り凛太郎を呼ぶ。「凛太郎。お祖父ちゃんが来てますよ」
「お祖父ちゃん」と嬉しそうに言う声が聞こえ、嬉しくなる。
お爺さんは孫と数時間遊び、家に戻った。
「ねぇ、あれ見て」
空を飛んでいる何かを見つけた女子高生が言う。
「なんか飛んでる」
「あれ、人じゃない」
その会話を聞いていた人々も人じゃないかと話し始めた。
空を飛んでいる人に向かって、スマホを向ける人々にお爺さんが気づくことはなかった。
翌日、空飛ぶ人がニュースで放送されているのを婆さんと見た。
「空飛ぶ人なんているわけない」などと婆さんに言った。
「爺さん、髪が減っていませんか」
婆さんが唐突に言った。
お爺さんは「そんなわけない」と言いながら自分の髪を触り、疑問を抱いたのか「まさか」と言いながら鏡へ向かった。
お爺さんは、明らかに減っている自分の髪を見て驚いた。
昨日空を飛んだせいか。今後は飛ぶ回数を少なくしよう。
お爺さんはそう誓った後すぐに空を飛んだ。
「やっぱり空を飛ぶのは、気持ちいわ」
お爺さんは昨日よりも速い速度で、寺や和菓子店などを回った。
お爺さんは和菓子店で買った和菓子やお土産店で買ったお菓子などを両手いっぱいに持ち家へ帰った。
婆さんはどこに行っていたのと驚いていた。
お爺さんは髪が薄くなっているのに気づいていたが、そんなことでは空を飛びたい衝動を止める事はできなかった。
お爺さんはそれから毎日のように空を飛び、さまざまな場所を回った。
お爺さんはくしゃみをした。
婆さんは「毎日飛んでいるから、風邪ひくんですよ」と言う。
おじいさんはすまないと小さな声で言った。
翌日起きると空を飛んでいた。慌てて家へ戻ろうとするがうまく風量を調節できず、家を通り過ぎたり違う方向へ行ってしまったりした。
お爺さんは自分の家がなかなか見つからないことに、不安を抱き始めた。
ふと下の方を見ると、多くの木や家が倒されているのが見えた。
何人かが木や家の下敷きになっているのが見えた。
わしのせいでこうなったのか。そんなはずはない。わしが寝ている間に台風でも来たのだろう。
お爺さんは全ての力を使い飛んだ。
手足の感覚がなくなり、意識も消えた。
手足が溶けていくように風になり、心も風になり、お爺さんは風になった。
婆さんは、生きていたようだ。「祖父さん」と言いながら瓦礫を物色している。
数百年かけお爺さんの意識がだんだんと戻り体が再構築されていく。
お爺さんの意識が完全に戻った頃には、お爺さんの知るものは消えて無くなっていた。
お爺さんの風 コラボイズ @singetunoyoru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます