第6話 我は絶世の美少女を助ける 

 ゴブリンの中には喋る豚がいた。

 いわゆるオークってやつだな。

 装備品が豪華だから、ゴブリンを束ねているボスなんだろう。

 オークは、ゴブリンに命令して無理やり少女を馬車から降ろしていた。


「グハハハ! いい娘が捕まったぞ。上物だ」


 いやいや。

 その娘は渡さんから。


 われは麦わら帽子を手で抑えながら急降下。そいつらの前に降り立った。


「はい。そこまで」

「な、なんだおまえは!?」


 ふっ。

 ここで、魔王だ! とでもいうと思ったか。


われは、引退した魔法使いだ」

「はぁ? だからなんだよ? 殺されたいらしいな。おい、やれ」


 オークは部下であるゴブリンに命令した。それは二匹のゴブリン。棍棒と槍で俺を攻撃する。


 俺はその攻撃を即座に躱して背後に移動。ゴブリンの首元に手刀を決めてやった。

 二匹のゴブリンは白目を剥いて地に伏せる。


「な、なに!?」

「安心しろ。気絶しているだけだ」


 さて、こいつらはどこの所属だ?


 鑑定、っと。


名前:ブヒヒ

LV:7

所属:南方魔王

種族:オーク


 レベル7。

 弱………。

 これならステータスを見るまでもないな。

 他のゴブリンはブヒヒよりレベルが低いよ。

 

 所属は南方……。

 われと敵対していた南方魔王の者だ。

 このレベルから察するに末端の部隊か。

 殺すのは簡単だがことが大きくなるのは避けたいな。


「おいブヒヒ。その娘を放せ」

「ブヒッ!? な、な、なんで俺の名前を知ってやがるんだ!?」

「ブヒヒっぽい顔をしていたからな」

「こ、この野郎!」

「あーー。争うつもりはない。このとおりだ。どうか、その娘を離してやってくれ」


 と、われは胸を張った。

 視線はまっすぐにブヒヒを見つめる。

 これがわれの誠意の示し方なのだ。

 われは戦いには飽きている。

 これからの人生は平和に過ごし、美味い野菜を作って暮らす。

 魔王のプライドなど捨ててしまうべきなのだ。


「どうか……。このとおりだ」


 と、再び鳩のように胸を張る。


「いや……。普通、帽子をとってから頭を下げるとか土下座ではないのか?」


 初めてかもしれないな。

 魔王に転生して、こんなにお願いをしたのは。

 われは麦わら帽子を軽く頭に押し込んでいった。


「だから、このとおりだと胸を張っているだろう」

「土下座しろこのバカが! もっとも、土下座したところでこの女は助からんがなぁ」

われの頼みを無にするとは愚かな」

「少々、腕に自信があるようだが、俺を敵に回したのが運の尽き。俺は南方魔王軍第七部隊。ブヒヒ様だ!」


 自分の名前に様付けとは愚行極まりない。


「ブヒヒよ。やめておいたほうがいい。貴様ではわれに勝てん」

「フハ! それはどうかな!?」


 と、ツノ型の笛を取り出して、それをブォオオ! っと吹いた。

 すると、森の向こうからワラワラとモンスターがやって来る。


 ふむ。

 どうやらゴブリンだけではないらしい。

 リザードマンにスケルトン、犬の顔はコボルトか。

 五十匹くらいはいるかな?


「ブハハハ! これが南方魔王軍第七部隊よ!」


 いや、軒並みレベルが5程度じゃないか……。

 われのレベル999なんだけど……。

 まぁ、いいか。

 平和的に解決してやろう。


「やれぇええ! あの魔法使いを殺すのだぁあああああ!!」


 われは素早く移動して、全てのモンスターの後頭部にビシュッと手刀を入れた。

 五十匹くらいいたモンスターたちは、ブヒヒを残して全員が地に伏せた。

 あ、もちろん気を失っているだけだ。


「げぇえええええ!?」

「だから言ったのだ。我には勝てないと」

「き、貴様、な、何者だぁああ!?」

「それも言ったであろう? 引退した魔法使いだと」

「魔法など使っていなかったではないか!」

「あ……」


 んぐ。

 中々、鋭いな。


「その鋭さに免じて見逃してやる。部下を連れてどっかへ行け」

「俺は第七部隊、隊長のブヒヒ様だぁああああ!!」


 なにを思ったのか、ブヒヒは大きな斧を取り出して、われに向かって襲いかかってきた。


 実力差のわからん奴だなぁ。

 まぁ、逃げないだけ根性はあるけどさ。


 われは右手で奴の振り下ろした斧の刃を掴んだ。


「げ!?」

「根性だけは認めてやる」


 んで、左手の甲でビンタだ。


ベシィイイイイイイイイイインッ!!


「ぶべらぁああああああああああああああッ!」


 ブヒヒは大きく吹っ飛んだかと思うと、大木にバキンと衝突した。

 よほど強く打ったのだろう。全身をピクピクと痙攣させて動かなくなった。


 しかし、パワーは極小に抑え込んである。

 命に別状はないはずだ。

 そしてなにより、手の平じゃなくて甲の部分でやったからな。

 刀でいえば峰の部分だよ。


「峰打ちだ! 死にはせん!」


 とはいったものの、「はへぇ……」と白目を剥きながら舌をベロンと出しているから聞こえていないだろうな。

 まぁいいか。われに逆らうからこんなことになるのだ。

 警告を聞かなかったそっちが悪い。


「あ、あ、あの……」


 と、少女の声。

 

「まさか、モンスターに襲われるとは思いませんでした。危ないところを助けていただきありがとうございます」

 

 少女は深々と頭を下げる。


 ふむ。

 あの農夫が言っていたとおりだ。

 なかなかに美しい少女だな。村外から誘いが来るのはうなずける。

 歳は十代中頃か。

 髪は稲穂のような金髪。一見するとショートカットに見えるが長髪を三つ編みにして結っているな。

 農作業の効率を考えているのだろう。

 肌は真雪のように白い。ちょっと人間離れした美しい肌だな。

 農作業をしているというのに日焼け知らずとは不思議だ。

 大きな瞳はチェリーのように赤かった。

 艶やかな唇は童顔ながら妙に色気があるな。

 微表情が特にいい。ニコニコとして、優しそうな雰囲気を醸し出す子だ。

 そしてなにより、とんでもなく大きな胸をしている。

 くびれた腰と対比して胸の突起がデカすぎるな。息をしているだけでプルンプルンとスライムのよう躍動しているではないか。


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2025年1月10日 12:11
2025年1月11日 12:11

引退魔王のスーパーマーケット〜我に逆らう愚かな者どもよ。貴様らに極上の野菜を提供してくれよう〜 神伊 咲児 @hukudahappy

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