第5話 我は生産者を探す
次の日。
「さてと。甘いキャベツを作った人間はどこにいるのか?」
ちょうど、中年の男が農作業をしているのを発見する。
なにやら、
取り込み中のようだが、少しだけなら話を聞いてくれるだろう。
「おい。そこの人間」
「え……? に、人間?」
あ、しまった。
百年間も魔王をしていたからな。ついくせが出た。
「あーー。そこの者。
「は、はぁ……。どなたをお探しでしょうか?」
説明するより見せた方が早いな。
「このキャベツを作った者なんだがな。どこにいるだろうか?」
「ア、
「え?
「し、しかし
農夫は
一応、旅人の格好にはなっているのだがな。うっかり魔法を見せてしまった。なら、話しを合わせておこうか。
「人間よ。中々鋭いではないか。褒めてつかわす。そうなのだ。
まぁ、実際に全属性の魔法が使えるからな。魔法使いと公言していれば問題はないだろう。
「あんた……変わってるね? どっから来なすった?」
「それは、魔王じょ──」
魔王城から来た、なんていえるわけがないか。
農夫は
いかん、前職が滲み出ているな。
えーーと、話しを合わせよう。
「先日、冒険者を引退してな。ここから離れた場所に田畑を耕してひっそりと暮らそうと思っているのだ」
「では王都から?」
「ああ、まぁな。都会の喧騒より、のどかな場所がいいと思ったのだ」
「ああ、なるほど! だったらこの村はうってつけだよ。ここは先日、東方魔王バタケウス様の支配下になった村なんだ。バタケウス様は優しい支配者だから村人になるなら快適に過ごせるでしょう。人間の支配下にあるより魔族の方が快適なんておかしな話だけどね」
「フフフ。まぁな。年貢量は適度に計算している。領民が快適に暮らせることこそが支配者の務めなのだ」
「え?」
「……あ! ゲフンゲフン! な、なんでもない! 気にするな」
いかん。
どうも、魔王職が抜けないな。
「そ、そんなことより。このキャベツだ。これは芯まで甘い。このキャベツを作った者は誰なのだ?」
農夫はキャベツを一口かじってニヤリと笑う。
「これはテラナのキャベツだね。彼女が作る野菜は甘くて美味しいんですよ」
「ほぉ……」
生産者は女だったのか……。
「して、そのテラナとやらはどこにいるのだ?」
「あんた……。本当にテラナを知らなかったのかい?」
「なんの話だ?」
「いや……。彼女はモテるからね。色々な男が彼女を探しに来るのさね。私らは彼女の親代わりだからね。心配になるのさ」
ほぉ。
モテる女か……。
しかし、
「
「ハハハ。あんたの美貌じゃそれはないか。舞台俳優みたいだもんな」
「そんなことより、この野菜だ。
「ほぉ……。いい目をしているな。野菜作りを真剣に考えている真面目な目だ。それにその麦わら帽子……。うん。あんたならテラナの居場所を教えてもいいだろう」
「うむ。頼む」
「南方にある街、ゼルセガに野菜を売りに出たそうだ。二日前に馬車で出たからね。あと一週間もすれば帰って来るんじゃないかな?」
「ずいぶんと遠い所に野菜を売りに行くのだな」
「彼女の野菜を貴族様が気に入ってね。農業ギルドを通じて大量に仕入れたいと言ってきたそうだ」
彼女の野菜は格別だからな。
他の権力者が目をつけるのもうなずけるか。
「村には宿屋があるからそこに泊まって待つか、引き返すしか方法はないね。手紙をもらえれば、彼女が帰ってきた時に私が渡しますけどね」
「いや。今からいけば間に合うさ」
「え? 馬車でも三日はかかるんだ。馬を急がせても間に合わないよ」
「気にするな。
「は、はぁ……」
「そんなことより、貴重な情報は助かった。礼をせねばならんな」
「い、いやぁ。礼をもらうほどの大したことはしてないよ」
「それでは
「い、いいけど……」
この鍬は刃がボロボロだな。
「ハハハ。もう古くてね。そろそろ買い替え時だと思っているんだよ」
「買うこともないだろう。
「え!? こ、これは……魔法か!? 新品みたいになっちまった……」
「うむ。細やかな礼だが受け取ってくれ」
「ありがとう。あんたはすごい魔法使いだな! 良かったらうちに泊まっていくかい? 何もない所だが、女房が作る料理は美味いんだ」
「いや。ありがたいが遠慮しよう。
「し、しかし、もう二日も前に馬車が出たんだぞ?」
「
と、
「でぇえええええ!? 空を飛んだぁあああ!?」
一瞬で農夫からは離れたわけだがな。
「はぁえ〜〜。すごい魔法使いだぁ……。変な人だが悪い人じゃなさそうだな」
おい、聞こえてるからな。変な人は余計だろ。
それにしても『引退した魔法使い』って便利な言葉だな。
この身分を名乗れば人前で魔法を使い放題じゃないか。
これから使っていこう。
ゼルセガはこっちでいいはずだ。
森の中に一本の大通りを確認する。
この道をまっすぐだな。
「お、馬車が倒れてるぞ」
馬車で進んで一泊したことを考えればあの辺か。
つまり、あの馬車にテラナがいるんだ。
馬車は大勢のモンスターに囲まれていた。
全身が緑色のモンスター。ゴブリンである。
「いやぁあああああッ!!」
ゴブリンたちはいやがる少女を拉致しようとしていた。
あれがテラナかな?
どうやら、これから襲われるようだ。
いいタイミングだったな。
必要な人材を傷物にされては困る。
よし、助けよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます