エピローグ

※以降の文章は、3回目のワークショップを終えて追記したものである※


「この仮面は、創作の葛藤とインスピレーションをテーマにして作りました。自分の内側とも外側ともつかぬ場所から天啓のように降ってくる着想を得たときの人間が浮かべる表情が苦しんでいるのか、笑っているのか、叫んでいるのか。そのどれにも見えるような貌を目指しました」

 3回目のワークショップの終わりで、私はまた1番目に指名され、参加者たちの前で自分の仮面についての解説を行っていた。

「原稿を燃やして灰にしたのは、『お焚き上げ』の意味と、もともとは木から作られた紙がもう一度土に還るようにという祈りをこめています。物語を語る口には、キーボードのキーで言葉を発するのに必要な歯を入れ込みました」

 相も変わらず、私の口からは価値のない言葉が無限に湧き出てくる。

「キーの種類は、物語を確定させるエンターキーの他、バックスペースや変換キーなど、変化・変貌を示唆するようなものを選んでいます」

 そう。キーの中に、私は彼女の名前も含めている。

 肝心のことは文字にはしても、言葉にすることはない。


 全員分の仮面の説明が済むと、仮面を着用しての写真撮影があった。

「皆さん、本当にそれぞれの個性があらわれた仮面ができましたね。そんなつもりではなかったと思うのですが、どの仮面も作り手にどこか似ています」

 嬉しそうに教授や講師たちが言う中で、私は密かに考えていた。


 そうだとしたら、仮面が私に似たのだろうか。それとも私が仮面に似てきたのだろうか。

 もしかすると1回目のワークショップでこの部屋に入る前から私の祝祭は始まっていて、仮面の制作を続けるごとに貌が変化したのではないか。


「そうだ。最後に全員集合して撮影しましょうよ!」

 誰かの弾んだ声が提案した。

「いいですね、きっとすごいインパクトのある写真になるぞ」

照れと達成感の混じった笑みを皆が浮かべていた。

促され、ぞろぞろと集合する。私も当然のように祝祭の群れの一員になる。

「緊張する!」「わかるー」

さざめき笑いながら、みんな揃って仮面を被った。

元は真っ白でつるつるの面だったはずのそれらは、各々に彩られて何者かの貌をしていた。

私は今の自分が彼女なのか、彼女を殺した私なのか、それとも外からやってきた別の何かなのか、ずっとわからないままでいる。


カメラのファインダーに捉えられたそのとき、仮面の下で私が密かに泣いていても笑っていても、それは誰にも知られない。


https://kakuyomu.jp/users/rem_suimin/news/16818093090696436503

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物語る貌 REM酔民 @rem_suimin

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