そんなあいつはサンタクロース!

崔 梨遙(再)

1話完結:1100字

 多田野三太は普通のサラリーマン。いや、普通よりも冴えないサラリーマン。歳は40代。同期入社の上司に毎日ガミガミ叱られて凹んで帰る。それが三太の日常だった。三太は営業職。みんな、“三太は営業に向いてないよ”と言う。三太は押しが弱い。いや、営業としては押しが弱過ぎるのだ。なかなか契約をとって帰れない。入社して20余年。ノルマを達成したことはほとんど無かった。


 当然、リストラの対象になる。三太は上司からイビられて、毎日、“辞めろ”と言わんばかりの暴言を吐かれる。ハッキリ言ってパワハラだ。だが、三太は会社を辞める素振りも無かった。みんな、そんな三太を見て、“なんで辞めないの?”と思うのだが、三太にとって、仕事は日々の生活費を稼ぐためのものであって、正直、どんな仕事でも構わないのだった。みんなは、そんな三太の気持ちを知らない。


 家に帰ると、若くて美人の妻の麗美(うるみ)が手料理を作って待っている。結婚式の時、招待された男性全員が三太を羨んだくらいの美人だった。そして、みんな言っていた。“どうして三太があんな美人と?”と。


「お帰りなさい。食事にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し?」

「わ・た・し」

「もう、好きなのね」

「ベッドに行こう」


「今日はクリスマス・イブね」

「食事したら、行って来るよ」



 三太はサンタの衣装に身を包んだ。トナカイのソリに乗る。


「うーん、やっぱりサンタ姿のあなたは決まってるわね。カッコイイわよ」

「ありがとう、それじゃあ、行ってくる。帰りは朝だから、帰ってから風呂に入る。明日の25日は例年通り有給休暇をとっているから。夜にはまた出かけるけど」

「わかった。じゃあ、いってらっしゃい」


 三太は、サンタだったのだ。24日から25日、三太はみんなにプレゼントを配りに行く。三太の本業はサンタクロースだったのだ。24日と25日だけ、三太はサンタとして輝く。日常の冴えないサラリーマンの姿は、世を忍ぶ仮の姿だったのだ。



 25日の夜、0時を過ぎて26日になったので三太は自宅に戻ってきた。


「ごめん、麗美、日付が変わってしまったけど、これ、麗美へのプレゼント」

「あ! ネックレス。めっちゃカワイイ。これ、トップの石が大きいけどいいの? 大丈夫? 高かったでしょう?」

「いやいや、大丈夫」

「ありがとう、あなた。私、あなたが大好きよ」


 麗美は三太に抱きついてキスをした。


「ああ、明日からまた冴えないサラリーマンの日々か……」



「あなたのカッコイイ姿は、私だけが知っていればいいのよ」







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そんなあいつはサンタクロース! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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