第7話 農場 下
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ドアノブを回そうとするが動かない。
一度ドアノブを離して
息を一つ置くように深呼吸をした。
まさか鍵が必要だとか言わないでよね?
1階にカギがあってー、
先にそれを探さないとー、とかね。
冗談じゃない。
そんなもんに付き合わないから。
もう1度ドアノブを回して開かなかったらドアを蹴り破ってやるか。
意気込んでドアに手をかけると
驚くほどあっさりとノブが回り扉が開いた。
部屋の中に電気はついてない。
暗い寝室の窓の外から
青みがかった夜明け前のような光が差し込んでいた。
?
夜明け前?
……前? なんの?
夜明けってなんだっけ?
あれ? 光がもうなくなった。
やっぱり夜だ。
窓際に傷だらけのマネキンが置いてある。
ん? また何か違和感を感じ周りを見回す。
部屋の中にはクイーンサイズのベッドと
古い白いシーツ。木製の小さな椅子。
赤い本棚。
本がいくつもある。
壊れた姿見。
部屋の奥にクローゼットと
さらに奥にいくとバスルーム。
間接照明の明かりが漏れていた。
バスルームを覗くとバスタブにシャワーカーテンが貼ってある。バスタブとシャワー室が見えないけど。真横にある鏡をみる。
鏡が割れている、赤い口紅で何か書かれている…
読みにくい、書き殴ったような字。
なんて書いてある?
ん? そういえばこの家に入ってくるとき電気がついてた2階の部屋ってここじゃなかった?
マネキンのある部屋…
外から見えたマネキンなんてこの部屋以外ない。
電気がついていた部屋はここ。
アタシが入って来た時は電気はついてなかった、今も。
誰かが消した?
マネキンが移動した? マネキンと裸電球があったのは覚えてる。
2階で裸電球があったのは老人の部屋だけだった。
老人の部屋は電気がついていた。
実際に爺がいた子供部屋は蛍光灯だったっけ。
よく覚えていない。部屋は暗かった。
この部屋はどうだろう。
あの爺さんがマネキンを移動した?
マネキンは最初老人の部屋にあった?
あれ、家の玄関ってどっちだ?
バスルームを出る。
この部屋の電気のスイッチはどこだろう……
壁を注意深く見ていくと、やっぱりあった。
電気自体はつかなかった。見上げると裸電球がこの部屋にもあった。
ブレーカーが落ちてる? いやそれなら老人の部屋の電気がついてないか。
裸電球を見ると少し緩くなっているように思えた。偶然? それとも誰かが緩めた。
いや、めんどくさい。さっさと
窓の外をみにいく。これではっきりするでしょ。
玄関前が見えた。
やはり最初電気がついていた部屋はここで間違いない。
アタシたちが1階から呼びかけてる間にあのジジイが灯りを消した?
それともジョンが見に行った今1階にいる誰か?
ん? 何か引っかかるものを覚えて首を傾げる。
もしかしてさっき誰かがドアノブを掴んでいた?
アタシが入って来る直後にそいつが電気を消した、隠れるために。
口紅の殴り書きを見るため
再度バスルームに足を踏み入れると
シャワーカーテンが微かに揺れた気がした。
バッ! っとカーテンを開けるとそこには誰もいなかった…
***
ジョン・スミス 視点
1階を見て回っていると暖炉の前の床に変なシール。
前ここ見たときにシールなんてあったっけ?
床までは見てなかったからわからない。
何の変哲もないシールだが剥がそうとしてみると
昔から貼ってあった感じで
すごく剥がしにくかった。
気にしすぎか、と思い玄関のほうへ向かうと
あの巨人を人間位のサイズ、190センチほどにした真っ黒な肌の男が玄関に立っていた。
腰に布だけを纏っている、全裸。
異様なほど目が大きい。白目もあるが黒目の大きさがおかしかった。
あの巨人達に酷似している。
共にお互いを観察し続けて動かないまま時間が経過していった。
「あの巨人の仲間か?」
「……」
「言葉わかるかな?」
男は微妙に視点を下のほうに置いて固まっているのか、それとも考え事をしているのか。反応せずに床を見ている。
途端
玄関のドアを蹴破って逃げ出した、
追いかけていく。
触手を出して衝撃波ブレスを放つも届かない。
チッ、ゴーストも俺も近距離タイプ。
せめてシャドウがいれば……
100mほど追って。
ハルバートに霊気を込めて投擲した。
暗闇に吸い込まれていくように飛んでいく。
何か手ごたえを感じた、念じてハルバートを手元に戻って来させる。
インクのような漆黒の血が刃を濡らしていた。
手傷は負わせたが俺はここから離れられない。
これ以上離れるとエレーニの近くの傀儡達との傀儡糸が切れる。
急いで農場の家のほうへと戻る。
ベルシモックと視界共有。変わらずにあの老人を見張っていた。
爺さんはまたシーツを被っていた。
次はシャドウの視界に切り替える。
シャドウは自走モードでエレーニとマスターベッドルームに向かったはず。
真っ暗だった……
何も見えない。真っ暗な世界。そういう何処かにいる?
なんだ? 何が起きてる?
無理やり傀儡を動かそうとすると一気に動いた。
恐らく窓の近くにいることを理解する。
左手をこちらへ思い切り引っ張ると
2階からシャドウが窓を割って飛び出してきた。
そのままこちらと合流させて、
直ぐに自ら窓の中へと外から跳躍して飛び込む。
続いてシャドウもはいる。
誰もいない。マスターベッドルーム。
エレーニはどこだ?
ベルシモックの視界が変化があった。
あの老人が居なくなっている。
チッ… 思わず舌打ちした。
マスターベッドルームの中を見て回る。
部屋を見まわす。赤い本棚。壊れた姿見。クイーンサイズのベッド。
傷をつけられているマネキン。明かりが少し漏れているバスルームの方からシャワーの音。
クローゼットを通り過ぎてバスルームに入るとシャワーカーテンが閉まっている。
カーテンを開ける。
誰もいない。
何もいない。
つけっぱなしのシャワーの温水を止める。
湯気が立っていたが湿気が少ない。
鏡をみると口紅で何か殴り書きされていた。
DICE…
シンディか。
クローゼットの中を開けるとあの老人がかぶっていたシーツに似たシーツ。
拾い上げてよく観察する。
ベルシモックがいる子供部屋へと向かう。
机の下に老人のかぶっていたシーツがあった。
ベッドの上にいる子供の死体をみると死体の下にも似た感じのシーツ…
老人の部屋にもいくとまたシーツ。
さっきの部屋にもまだあったかもしれない…
マスターベッドルームに戻るとドアが閉まっていた。
開けっ放しにして出て行ったはずだ。
ドアノブを回そうとすると
ドアノブが回らない。
瞬間
ドアを蹴りで吹き飛ばす。
木製の扉が木っ端みじんに爆ぜた。
……誰もいない。
誰かがドアノブを手で固定していると思ったが……
ドアがあった場所の近く、ドアの破片が散らばっている床に。
またあのシーツがあった。
シーツを拾い、バスルームに行きシーツと少し似ているシャワーカーテンを取り外す。
さっきのシーツもすべて両手に持って一回のリビングにある暖炉に向かう。
暖炉に火をつけてシーツをあぶり始める……
絶叫とともにあの老人とエレーニがシーツの裏から飛び出てきた。
「こういう能力を持っていたのか」
「助けてー! 助けてよぉ!」
「熱い! うるさい! 何なのアンタ!」
エレーニが老人をグーで殴る。
「貴様ぁぁー!」
老人が豹変してハンマーでエレーニを殴ろうとしたがその前に槍で突き殺した。
死体の頭を手でつかんで霊気を吸い取る。
老人は出血がすぐに止まり感情のない人形のようになった。
爺の死体から霊気が次々と抜け出ていく
煙草を吸うように霊気を煙状に変質させながら吸う。
「ジョン? こいつを人形にしたの?」
「ああ、こいつは傀儡化した。興味深い能力、結構ホラーだったな」
「ホラー? アタシは人形にされるほうがずっとホラーな気もするけど」
まぁ……
怪人型特殊傀儡 ハンマー爺
ハンマーと釘 神隠しのシーツ
名前はハンマグランパでいいか。
宝具作成でシーツをハンカチ程度までに小さくした。
グランパを神隠しのハンカチで収納する。
やっぱりできるか。
そのままポケットに入れ
ゴーストも収納。やはり他の傀儡もできる。
ハンカチは全部で10枚できた。
物も収納できるか試してみる。普通に出来た。
「これは便利だ」
「アンタさ、それはいいけどシンディがまだ見つかってないわよ」
「シンディは多分ここじゃない世界に行った」
「は? なにそれ?」
「なんかそういう特殊なアイテムを所有してるんだと魔法のダイスだって。それがあそこの鏡に殴り書きされてたDICEの意味だと思う」
「どうやって異世界に行くの?」
「全くわからん、個人的なポータルを持っているってことなのかも。ただ勝手に発動してしまうと…」
「最悪じゃない、それ呪いのアイテムじゃないの? 」
確かに……
シンディは大丈夫そうだ、DICEについてメッセージを見てら理解できるように。
心配しないでってメッセージだと思っていいだろう。多分。
一応鞄は預かっておくか。
それより問題はあの巨人と人間サイズの巨人だ。
こいつらはこの街にまだ潜んでいる可能性が高い。
***
車に戻り夜の街をクルーズするように見て回ったが
手掛かりは見つからなかった。
エレーニを降ろすためにいったん店に戻る。
店についてまた出かける前に休憩をはさんだ。
店前のテラス席にベルシモックを
前の通りの電線の上に鳥系傀儡を配置しておく。
店はテラス席と屋内のほかに
裏にバックガーデンもあるのだが。
その裏庭のテラス席に行って一息つくことにした。
水だけ飲んでいるとエレーニがやってきて
カモミールティーを持ってきてくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして。あたしもここで休憩する」
「うん。そうか」
「最近出てきてる侵入者ってどうする?」
「見つけ次第始末で。手に負えないときは連絡して。無理するなよ?」
「ふーん、まぁ、それはいいんだけど」
「どうした?」
「この店を守るの? それとも街全体?」
「街全体だ」
「OK! よし来た。ただこの街の連中はあたしの仲間でも部下でもファッキン上司でもないからね」
「確かにそうだな」
「でも一応、一緒に戦う気があるかって。他の奴らにも言っとくから」
「ありがとう、エレーニ」
「ううん、別にいいよ。あとこれからは仕事中に暇な時間帯に武器も製造し始める。
店の連中にも持たせとくから」
「うん。ありがとう。武器製造ってあの能力か」
「まぁ、女の子が夜の町でウェイトレスをするには武器を作ったり敵を始末して回ったりくらいは出来ないとね」
「……何が作れるの?」
「はぁ? 何言ってんの? そんなの作った時にわかるでしょ?」
「……」
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ダブルサイココライド2 Double Psycho Collide2 KJ KEELEY @kjkkeeley
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