日傘が必要なお年頃

つばめいろ

日傘が必要なお年頃

 この世界の日差しは人間にとって有毒なところまで来てしまった。一年前からだ。何十分と直接当たると身体に症状が出る。だから、外を歩くときは日傘が必須だ。


 先日、二年前の事故で意識を失っていた先輩が目を覚ましたという。そして今日、先輩が部室に帰ってきた。昼間なのにカーテンが閉められている部室を不思議そうに見ている。そういうこと聞いてないのかよ。先輩が「外に買いに行きたいものがある。一緒に来てくれないか」なんて言う。心配な気持ちもあるのでついていくことにする。傘を持っていくことに不思議そうにしている。「雨は降ってないぞ」と言われるが真実は教えない。もう少しこの様子の先輩を見ていたい。

 玄関から出る時、私は傘を開く。先輩はそのまま外に出る。日差しの強さには気づいていない。「日傘だったのか。だとしてもこのくらい良くないか」私に向けられたその笑みがとてつもなく愛おしく感じる。まだ、事実を教えたくないように思う。たとえそれが原因で、先輩が死んでしまったとしても。

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日傘が必要なお年頃 つばめいろ @shitizi-ensei

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