パラレル未来

雨水

戯曲 パラレル未来


下手からパーカーを目深に被った葵が出てくる


葵:...ごめん


救急車の音が聞こえてくる

音がどんどん大きくなってぶつっと切れる


幕が上がる


みかは駅のホームでベンチに座って電車を待っている

葵が慌てて階段を上りホームに来る


葵:はあっ……はぁ……間に…あった…

みか:おつかれ〜まだ十分位あるから全然余裕だよ?

葵:まじ!?…うわほんとだ時間見間違えてた。急ぐ必要なかったんじゃん…私の労力返せ…

みか:とりまベンチ座ったら?

葵:うん


葵みかの隣に座ろうとしてみかの大量の荷物が置いてあるのを見てもう一つのベンチに座る


間 みかはスマホを弄り葵は息を整えたり水を飲んだりしている


葵:みか

みか:何?

葵:何か話さない?

みか:脚本の締切明後日なんですけど

葵:あー演劇部の?脚本書いてたの?さっきから

みか:そ。葵もケータイいじってればいいじゃん

葵:実は…スマホ忘れてきた

みか:うわそれは死ぬ

葵:ほんとだよ私の生命線...

みか:がっつり依存してんね

葵:生活の一部だからね。いや、もはや体の一部と言っても過言ではない…

みか:なのに忘れてきたんだ、体の一部

葵:そう!一生の不覚…そういう訳でみかと話してれば喪失感も紛れるかなって

みか:私はスマホの代わりかよ

葵:そんなことないよ!…ちゃんと大事だって

みか:そーかい。ま、いーよ、付き合ったげる

葵:やった。みかいい奴〜

みか:調子いいなあ で、葵は何話したいの?

葵:んー特にきめてない

みか:おい

葵:しりとりでもする?何かの縛りつけて

みか:じゃあ花の名前縛りで

葵:花?みかにしては乙女チックなチョイスだね

みか:私にしてはってなんだ失礼だな。今書いてる脚本が花言葉とか使うやつだからなんとなく出てきただけ。特に深い意味はない

葵:でも書いてるってことは多少なりとも興味があるって自白しているようなものでは…

みか:べ、別にいいでしょ!じゃあえっとしりとりのり…リンドウ!

葵:照れなくてもいいのに。う…ウコン

みか:それ薬味じゃん

葵:いいでしょ、植物は大体花つけるし

みか:それ以前に「ん」ついてるし

葵:あ。…んーう、う…瓜

みか:林檎。リンゴの花かわいーよね

葵:えーこれじゃ食べ物縛りになるじゃん、食べ物なしなし!…り…リナリア

みか:あ…アルストロメリア

葵:あ…アイビー

みか:び…びか…ダメだびわしか思いつかん

葵:やった私の勝ち

みか:何勝ち誇ってんの。最初にミスったでしょあんた。ノーカンにしてあげた私の慈悲を蔑ろにするっていうの?

葵:いえいえ滅相もない!んーしりとり終わっちゃったし…あ、そーだ。ね、みか

みか:ん?


みか脚本書きに戻ろうとしたところ手を止める


葵:あーっ脚本書こうとしてる!してた!

みか:話し終わったんならもういいかなーって

葵:もー今から哲学的な話でもしようかなって思ってたのに

みか:哲学的な話?あんたが?

葵:失礼だな、みかよりは頭いいし私

みか:ほとんど変わんないでしょ

葵:まあ哲学といってもそんな難しい話じゃないよ。未来についての話

みか:未来?

葵:そう。みかは近い将来、世界はどうなってると思う?

みか:えらい急だね。未来ねえ…やっぱ空を飛ぶ車とか…不治の病が治せるようになってるとか…

(葵:コロナとか?

みか:いきなり時事ネタぶっこんでくるね。)まああとは…四次元ポケット持ってるネコ型ロボとか…

葵:ああドラ

みか:シーッ

葵:あっごめん。んっんん(咳払い)ドラえもんね!

みか:黙れつったでしょ!?分かれよ!?

葵:別にいいじゃん減るもんでもないし

みか:減るんじゃないかな劇の評価が!?

葵:劇?あ、未来の演劇ってどうなってるのかな

みか:未来の演劇?考えたこと無かったな

葵:だよね。どう思う?

みか:うーん…案外、何も変わってないんじゃないかな。だって演劇って科学が介入する余地なくない?

葵:そうかな

みか:私はそう思います

葵:なんで急にSiri風なの

みか:いいじゃん気分だよ

葵:…私はね、科学が発達しすぎて舞台上でやる意味がなくなって、映画に取って代わられて…演劇なんてものが無くなるんだ…と思ってる

みか:何それ

葵:あるかもしれない未来

みか:ないよそんなの

葵:どうして

みか:未来なんて不確定なんだから当たり前でしょ。演劇が無くなるんだったら私1人でもやってやるわ

葵:…そっか。そうだね

みか:ん。だから演劇はなくならない

葵:まあもし本当に演劇が無くなるとしても何百何千年と先の話だと思うけどね?

みか:じゃあ今のうちに歴史に残る脚本書いたるわ。ホンさえあれば演劇は不滅!あ、やばいめっちゃモチベ上がってきたホン書いていい?

葵:あとで。もうちょっと付き合ってもらうぞ!

みか:えー

葵:みかはさ、もし理不尽な運命が襲ってきたら覆そうとするタイプなんだ

みか:ラノベの主人公か私は。というか主人公なら覆すっていうか跳ね除けるじゃない?覆すって1回受け入れてるじゃん

葵:ありゃごめん言い間違い。

みか:自称私より頭いいくせに

葵:そんな言うことなくない?

みか:てかさ、葵は?

葵:え?

みか:理不尽な運命が襲ってきたら跳ね除ける派?それとも受け入れる派?

葵:私は…く、跳ね除ける、かな

みか:同じか

葵:うん、同じ

みか:意外

葵:え、そう?

みか:なんかあんたって基本明るいのに、どっか暗いっていうか、全部に関心なさそうな時あるじゃん

葵:ひっどそんな風に思ってたの?

みか:たまによたまーに。普段はバカでマヌケで愉快な奴だよ

葵:うん一言もフォローになってない


2人してちょっと笑う


みか:そいえば電車遅くない?

葵:…そうだね。どっか止まってんのかな

みか:昨日の雨で?

葵:そうなんじゃない?

みか:軟弱すぎない?

葵:電車に強靭さを求めんなよ

みか:流石に傘ささなくてもいい位の雨に負けるようじゃ軟弱と言わざるを得なくない?

葵:ささなくてもいいくらいって言ってるけどみかささないでいたらびっしょびしょになってたじゃん

みか:あれは…と、突然天気の神様が如雨露からホースに持ち替えただけだし

葵:うわあ

みか:何その目は

葵:だって…ねえ?

みか:言いたいことあるんならはっきり言えよ

葵:え、いいの?じゃあ…スゥーーー八幡みかの脳内はシルバニアファミリー!!

みか:えなにどういうこと


葵周りに言いふらすように


葵:普段は地味っ子ですが!少女趣味でーこーんなぬいぐるみばっか集めてるよく言えば想像力豊か、悪くいえば脳内お花畑のJKだー!

みか:ちょっと待て声がでかい!というか私の五右衛門なんで持ってんの!?


葵手に持ってるぬいぐるみとみかを見比べる


葵…五右衛門?

みか:名前付けてんだよ悪いか!

葵:スゥーネーミングセンス壊滅的ー!

みか:殴るよ?

葵:ごめん

みか:五右衛門返して


葵少し抵抗するが渡す


みか:つかほんとに何で持ってんの?

葵:まだあるよ。ほれ

みか:チャッキー!?

葵:名前怖っ

みか:は?何でよ可愛いでしょ

葵:いやだってチャッキーって呪いの人形の名前じゃん。知らない?

みか:知らない

葵:そっか。知らぬが仏だねぇ

みか:え、ちょっと気になってきたんだけど

葵:やめといた方がいいよ。みか怖いの苦手でしょ。結構グロいし怖いらしいよ?私見たことないけど

みか:ないんかよ

葵:私もホラー苦手だし

みか:そいやそうだね。で、何でよ

葵:何が?

みか:どさくさに紛れて誤魔化そうとしてるだろ。私の五右衛門とチャッキーあんたが持ってる理由

葵:あー。…みかのお母さんに貰ったんだよ

みか:嘘つけ。母さん私の部屋にすら入らないのに勝手に物持ち出すなんてする訳ないじゃん

葵:マジマジ。ちゃんと許可とったよん。というかお母さんの方から貰ってくれって言われたし

みか:はあ?意味わからん…

葵:嘘は言ってないぞ、このブサイクなぬいぐるみに誓って

みか:待っってほんとに待てなんで私の作りかけのやつまで持ってんの!

葵:(遮って)電車

みか:え?

葵:電車、来ないと思わない?

みか:そう...だね。いくら何でも


放送:えーただいま、列車と人との接触事故のため、17:48発、普通列車(福井)行きに遅れが生じております。お客様には大変ご迷惑をおかけします。只今…(繰り返し)


みか:接触事故だってよ

葵:そうだね

みか:で、話逸らすなよ

葵:その事故さ、

みか:無視かよおい

葵:私なんだよね

みか:…何が?

葵:電車とぶつかったの

みか:嘘つけずっとここいたしあんた傷一つないじゃん

葵:うん、私はね

みか:変な冗談やめろよ

葵:冗談じゃないよ、マジの話

みか:葵ってそんな奴だったっけ

葵:私は元からこんな奴だよ。もしかしたらこっちの私と私はちょっと違うのかもしれないけど

みか:こっちの私って何

葵:あー…うん、そうだね。みか私より馬鹿だもんな。

みか:急にディスるじゃん

葵:みか。…理解できなくても受け入れて。全部話すから。(一拍)私ね、未来人なの。

みか:…何、今更厨二病?

葵:みか


無言の間


みか:本気で言ってる?

葵:本気で言ってる

みか:…じゃああんたが未来人だとして、なんで私のぬいぐるみ持ってたり電車にぶつかったのが自分だなんていうの

葵:どっから話せばいいかな…まず電車の方から答えるけどさ、私がぶつかったっていうのは厳密には違くて、「こっちの世界の私」…つまり昨日までみかと一緒に過ごしてた私が踏切に飛び込んだの

みか:…。

葵:問い詰めないの?

みか:とりま全部聞く

葵:そ。…で、その踏切に飛び込ませたのが私なんだけどさ

みか:は?

葵:全部聞くんじゃなかったの?

みか:流石に聞き捨てならないでしょ。親友が、人殺したなんてさ。…冗談、だよね?

葵:…残念。私は私を殺した、殺人犯だよ。

みか:…。


みかショックで声が出ない。


葵:ほんとはね、直前まで迷ってたんだ。私自身を殺すかどうか。だってもし今が私のいる未来に繋がってたら、私を殺した時点で『私』も消えちゃうから。でも。…そうしないと、あんたを救えなかったから。

みか:……どういうこと?

葵:私の世界ではね、みかはもう死んでるの。

みか:…バカ言わないでよ。昨日までの葵は死んで?葵は未来人で?おまけに殺人犯で!?挙句の果てに私が死んでる?!!いい加減にしてよ!!!

葵:黙って聞いて!!!!!

みか:っ!!

葵:信じられなくても、これが真実なの。みかにとっての…私にとっての真実。私の親友のみかは死んだよ。19の誕生日目前の雨の日、信号無視の車に跳ねられて死んだ!私はみかの死に顔も見れなかった!!ぬいぐるみはみかのお母さんが泣きながら渡してくれたよ、「今までありがとう」って!!今までってなんだよ!!みかはいつまでも私の親友で…ずっと…笑ってなきゃいけないんだよ…。

みか:葵…?

葵:科学って凄いよね。あっという間にタイムマシンを作っちゃった。私はみかを助けるために何度も何度も何度も過去に行って…全部失敗した。

みか:葵

葵:人が一人死ぬって未来は変えられなかった。通行止めにしても、道を変えても、家から出さなくてもダメだった!!それで気づいた…他の誰かを犠牲にしなきゃ運命は変えられないって。

みか:葵!!

葵:…ごめん、みか。あんたの親友を奪っちゃって。…でも私は、私の未来より、何より、あんたの未来が欲しかったんだ。

みか:…なんで、なんで、笑えるんだよ…

葵:そりゃ、心から嬉しいからでしょ。…ばいばい、みか。どうか、幸せに…ううん、楽しく!生きて!!

みか:待っ


暗転

葵荷物を持ち客席に去る


明転

みか:って!!……葵…


葵を探しいないことを確認してキーホルダーを見つけ崩れ落ちる


みか:勝手すぎるでしょ、意味わかんない、私に生きて欲しかった?そんなのっっ!!私だって、葵に生きて欲しかった、一緒に、生きたかったよ…


電話のコール音

少し迷って出る


みか:もしもし

みか母:もしもし!?大変よ葵ちゃんが跳ねられたって!!

みか:知ってる、電車でしょ

みか母:違うわよ車!!意識はあるみたいだけど念の為月町病院行くって!明日お見舞い行くわよ!

みか:…え?生き、てる?

みか母:何不謹慎なこと言ってるのよ!早く帰ってきなさいね!

みか:え、あ、電車止まって、て

みか:あらそうなの?迎えいくから待ってなさい。じゃあね

みか:うん…


電話切れる


みか:生きてる…葵が


暗転

病院の一室


葵:いやー参っちゃうねー、昨日は全然大丈夫!!って思ってたのに今日身体中超痛いわ

みか:へえ

葵:…どしたの?

みか:あ、いや…ちょっと白昼夢を見て

葵:ふーん?そういえばさ、みか、ドッペルゲンガーって信じる?

みか:なに急に

葵:私さあ見たんだよね、事故に遭う前に

みか:ドッペルゲンガー?

葵:そう。しかも二人

みか:それ即死しない?

葵:まあ辛うじて生きてるわ。で衝撃なのがドッペルゲンガーがドッペルゲンガーを踏切に突き飛ばしててさ、しかも二人とも笑ってんの。超怖くてさあ…怖すぎて赤信号なのに立ち止まっちゃって、このザマよ

みか:そう、なんだ…

葵:笑われるかと思ったのに

みか:え?

葵:こんな突拍子のない話

みか:嘘なの?

葵:ほんとだけど。もしやみかも見たことあるの?ドッペルゲンガー

みか:いや?見たことあるのは…ちょっと未来の葵ぐらいだよ

葵:私?なにそれ

みか:きっとさ、そのドッペルゲンガーは未来人で、あんたを助けに来たんだよ

葵:私車に轢かれてるんですけど

みか:それはただの不注意でしょ。とにかく感謝せい未来人ドッペルゲンガーに

葵:ええ……ありがとうございます神様仏様未来人ドッペルゲンガー様〜

みか:ほんとに言うんだ


二人して笑う


みかのカバンについているキーホルダーを葵が見つける


葵:あれそんなの持ってたっけ

みか:え?ああこれ?可愛いでしょ

葵:超私好みなんだけど。どこで買ったの?

みか:んー貰い物だから分からん

葵:ちぇー

みか:…ありがとう、葵

葵:え?

みか:あんたじゃないよ、このお守りに言ったの

葵:キーホルダーがお守り?

みか:うん。私が…私達が楽しく生きてくためのお守り

葵:今日は一段ととんちんかんなこと言ってるね。まいいや。お守り様〜早く私の痛みをひかせて〜!

みか:あはは、お守り様〜頑張れ〜

葵:ちょっともうちょい真面目に!

みか:はいはい。ね、葵

葵:何?

みか:このまま、二人で仲良く楽しく大人になろーね

葵:何今更。あ、同じ大学行こうってこと?いいけど。みかと一緒にいれば人生飽きなさそうだし

みか:私おもしれー女ってこと?

葵:そういう返しができるところ!


二人吹き出して笑って笑顔で話し続ける


ふいにみかが顔を上げる


みか:ありがと、未来の葵

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パラレル未来 雨水 @amamizu415

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