第4話
『__おそーい!約束の時間よりも二時間も遅れているではないか!』
約束の時間より遅くに引き出しダンジョンに入った僕は、入って早々に大剣ちゃんに怒られたのだった。
「夕飯食べたらちょっと眠くなっちゃって........」
『貴様のような短命種がせっかちにならねばどうする!?余の同胞、そしてエルフぐらいだ!もっと生き急がんか!』
「そんなに必死に生き急いでも良いことないし、僕はいいかな。人生も恋愛も食べ物みたいには腐らないんだし、もっと余裕を持って生きようよ」
『十数年しか生きておらん小僧が達観した風に言うでないわ』
推定年齢千歳以上に言われると何も言えなかった。そもそも剣なら産まれてからの歳を数える、なんて概念なんて無いんじゃないだろうか。無機物だから生きてないし。
「たったの十数年で千数百年より濃い経験をする事だってあるじゃないか」
『あるっ__いや、有ったな……』
僕の言葉が一体誰を指していたのか気付いた大剣ちゃんは最後まで言い切る前に悔しそうに僕の節を認めた。
「まぁ、僕の人生の四分の三は殆ど睡眠だから、君より濃いかは微妙だけどね」
『それは寝過ぎだ。……しかし、貴様が人間らしく欲望に忠実な、実に怠惰な人間だとしても余の最近よりは余程濃い人生である事は疑いようがない事実だ』
「千年間本当に誰も此処に来なかったの?」
『あぁ、そうだ!……喜べ小僧。貴様が勇者以来の来訪者だ、クーハッハッハッ!!!』
大笑いしながら断言した大剣ちゃんの言葉に気になる単語が出て来た。どうやらこの大剣ちゃんの住んでいた場所には『勇者』が居たらしい。
「寂しかった?」
『ハッ、余を舐めるなよ!たかが千年程度、永遠を生きる余にとっては瞬きのことよ!』
「ガン泣きしてたじゃん」
『あ、アレは目に埃が入っただけだ!』
何処だよ、目。でも、そこを攻めると泣いてる云々も勘違いで突き通されちゃう可能性もあるから黙っておくことにした。
「ところで君の名前はなんて言うの?やっぱり大剣?」
『あ、アホか。余は封印されているだけで、コレは真の姿では無い。……いや、元の姿でも三段階ほど変身があるので、真の姿ではないか。まぁ細かい事は良いだろう』
変身。
「ファンタジーは武器も不思議だね」
『ふぁんたじ……何だそれは?』
「世の中、凄い武器もあるんだねって話だよ」
世界広しと言えど、喋る剣なんて中々会えないだろう。噂によると炎を出したり雷を落としたりする武器もあるらしいが、つい先程、この剣を見るまで信じて居なかった。
『……そうだの。流石の余とて対峙するまで本当にこんな武器があるかどうかなど半信半疑だった』
「……(自分の存在)疑ってたの?」
『し、仕方あるまい。余とて何でも知っている訳でもないのだ』
……可哀想に。でも確かに三百年も一人だったら、自分を疑いたくなるかもしれない。この子も自分が本当に特別なら、勝手に動き出すくらいに設計しておいて欲しかったのかもしれない。
『し、しかし、貴様よりは多くの事を知っているぞ!貴様が知りたければ、全ての人間が憧れる『不老不死の秘術』だって教えてやる!』
「いや、怪しいからいらないけど」
『__なっ!?……な、なら、『時空間魔法』とか……』
「難しそうだし要らない」
『……そうか』
すごく悲しそうにそう言った大剣ちゃんに少しだけ罪悪感が沸いてくる。でも、覚えようとする方が面倒くさいからしょうがない。
「別に僕が眠りたい時に騒がなければ、話し相手くらいにならなるよ」
『本当__』
「___んっ?」
大剣ちゃんの凄く嬉しそうな声が聞こえたと思ったら、唐突に首筋にザラりとした嫌な気配を感じた。
その感覚は数年経った今でも尚、酷く苦々しく鮮明に記憶に刻まれて居るものの、出来れば掘り起こしたくない類のもの。
「何で、こんな場所で魔物の気配が……?」
その気配は間違いなく、僕が『洪水』に巻き込まれた時に嫌という程感じたモノと同じだった。
机の引き出しから魔王が出てきた。 あるたいる @sora0707
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