彼みたいな彼女からの手紙
灰崎凛音
手紙
「何も恥じることはない。
何も後悔する必要性もない」
その手紙は、俺への挨拶も何も無く、ただこう始まった。
「俺も昔は、『まだ若いんだから、いくらでもやり直せるよ!』といった言葉を無責任に投げつけられるのがクソほど嫌だった。
だってそいつらに俺の、そしておまえの何が分かる?
分かるわけがねえんだ、尺度はマジで人それぞれなんだから。
元カノと今カノが鉢合わせた瞬間を『人生最大のピンチ』と嘆く知人の隣で、俺は精神科の閉鎖病棟で拘束されてケツに薬うたれて意識を失った時のことを思い出してた、そういうもんだよ。
だから、俺にはおまえが今抱えている痛みとか苦しみとかそういう類のものがどれほどのもんか知る由もないし、分かろうとも思わない。不可能だし。
同時に、おまえも俺が四半世紀以上引きずってきてるものを、知ることはできても、推し量ることはできても、理解はできない。だろ?
お互いしんどいなぁ。
その点、俺らには共通項がある。
でも、『同類』ではないと、俺は個人的に思う。
腹立たしいことを最後にひとつだけ添えて、この無意味な手紙を終えるよ。
いいか、これは俺の経験則から来る人生訓だ。
おまえは若い。
俺とおまえは違う。絶対的に。
そして俺は、俺の折れまくってる軌跡だとか人生とやらに、無駄な時間は一瞬たりとも無かったと、断言することができる。
だから、安心しろ。
安心して立ち止まれ。
安心して休め。
安心して間違えろ。
安心して不安になれ。
安心して懊悩しろ。
そんで、おまえがふと、なにがしかを誰かしらに吐き出したくなった時は、
俺のことを思い出しててもいい。
気が向いたら、な」
本文はそこで終わっていて、末尾に、俺が知っている差出人の女性名が書いてあった。
別に俺は、と脳内で呟いて、後に何も続かないことに、気づいた。
【了】
彼みたいな彼女からの手紙 灰崎凛音 @Rin_Sangrail
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