剣と魔法が全ての冒険者界隈でハズレ職業の武闘家になった俺だけど、実は上位職であるマジックブレイカーは最強の職業だったようです。〜いや、ハローワークの求人票に冒険者てw〜
第1話 さっそくなりましょう、冒険者にっ!
剣と魔法が全ての冒険者界隈でハズレ職業の武闘家になった俺だけど、実は上位職であるマジックブレイカーは最強の職業だったようです。〜いや、ハローワークの求人票に冒険者てw〜
甲賀流
第1話 さっそくなりましょう、冒険者にっ!
『2064番の方、6番のテーブルまでお越しください』
28歳独身の俺こと
手に持つ2065番の札を見て、あぁ次は自分かと心の中でそう思いながら、もう片方の手でスマホ画面を上方向へスワイプしていく。
『本日未明、東京都〇〇区路上に頭部のない男性の遺体が発見された件』
"これヤバイよな。家の近くなんだけどどうしよ"
"最近多いよな、頭部なしの死体とか頭切り開かれてる死体とか"
"なんか脳みそだけ抜かれてるらしいぞ"
"脳みそ抜いてどうするんだろうなw"
"……飾る、とか?笑"
"いや、食べるんだよきっと"
"食べる発想は猛者すぎて草。飾るも相当ヤバいが"
"実は犯人、《冒険者》だったりして?"
"冒険者ww あんなの注目浴びたいだけのビジネス用語じゃねぇの? ほんとには存在しないって"
"ウワサじゃダンジョンゲートってゆー俺達には見えない空間の歪みがあって、冒険者だけがそこを行き来できるとか"
"いいね、そーゆーの大好き"
"まぁSNSにも動画あがってたな。見えないところに人が吸い込まれるところ"
"わい、その近くおったけどホンマに吸い込まれよったで。なんか自称冒険者のおじさんが、ダンジョンがブレイクしたら危ないからこれ以上は近づかないでとか言っとったけど"
"なんか世の中狂ってきてんなww"
待ち時間、いつものように俺はSNSを閲覧する。
「……冒険者て」
記事の内容に思わずニヤケてしまう。
しかしまぁ最近よく聞く単語だよな。
ピンポンッ――
『2065番の方、6番のテーブルまでお越しください』
おっと、次か。
俺は手元にある番号札と呼ばれた番号が一致していることを確認し、席から立ち上がった。
そして指定されたテーブルまで向かう。
6番テーブル、6番テーブルはーっと。
あ、あった……けど。
「おい、早く仕事案内してくれや」
いや、もう誰か座ってんじゃん。
しかもちょっとイカつめのおっちゃんだし。
「あの……番号が違いますけど」
そんな男の向かいに座るスーツ姿の女性職員。
端正な顔立ちとゆるふわパーマの茶髪ロングが彼女の可愛さをより引き立てている。
歳は20代前半といったところだろうか。
そしてスーツから見ても分かるほど膨らんだ胸……じゃなくて名札には『
「あぁ? ちょっとズレてるだけだろ。さっさと求人出せよ」
「え、えっとぉ……」
おっちゃんの問答無用の反抗に、西奈さんはオロオロとしている。
ここで男の俺がすかさず助けに入ったら本当にかっこいいだろう。
それをきっかけに彼女と仲良くなって、後々お付き合いなんてしちゃったりして……。
「……ってなんでやねんっ!」
「あ? なんだお前?」
ヤバい、つい心の声が出てしまった。
おっちゃんだけでなく、西奈さんまで俺を見てる。
めっちゃ恥ずかしい。
……てかこのおっちゃんが強引に席から退かないのが悪いんじゃないか?
そのくせに偉そうな口ぶり、なんかちょっと腹立ってきたぞ。
「あの〜次の順番、俺なんですけど」
「テメェッ! やんのかっ!?」
男は勢いのまま立ち上がり、俺の服の襟部分をガシッと掴んでくる。
「やるもやらないも、ルールは守らないとダメですよ。それにそっちが手出す分には勝手にどうぞ? ここはハローワーク、人の目が盛んな中でアナタが俺に手を出したとして、悪いのはどっちでしょうね?」
ここまでくると俺の口も止まらない。
捲し立てるように次々と言葉が溢れてくる。
しかし俺は悪くない、全て本当のことだから。
だからこそ自信を持って言い切ってやったのだ。
「う、うるせぇぞ、このガ、キ……」
おっちゃんの強い怒声も徐々に勢いをなくす。
どうやら周りの視線に気づいたらしい。
そりゃ室内でこんな怒鳴っていれば目立つ。
「お、お客様! 順番になりましたらお呼びしますので、待合室でお待ち下さい!」
最後に西奈さんのひと言。
「わ、わかったよ」
俺の服から乱暴に手を離し、渋々待合室へ足を運んでいった。
ふぅ、ようやく座れる。
そう一息吐いて俺は指定の席に座った。
「お願いします」
目の前の西奈さんに頭を下げた。
これから求人を探して下さる美人職員。
何度頭を下げたっていいくらいだ。
なんなら靴だって舐め……以下略。
「じーっ」
え、めっちゃ見られてる。
何? 西奈さん、どうしたのよ。
こんなマジマジと女性に見つめられることなんて
さすがに耐性なさすぎて困惑なんだが。
「あの、ありがとうございました」
「あ、いえそんなとんでもない」
と常套句のような返事を返すと、西奈さんはふふ、っと笑みを浮かべる。
「……それにしても、職業どおりの性格なんですね」
そして興味深そうにそう言ってきた。
「いや、まだ無職なんですけど」
「プ……ッフフ、無職……す、すみません。すぐ求人持ってきまプフ……ッ、す、ね」
別にギャグを被せにいったわけじゃないんだけどな。
西奈さんは求人を奥へ取りに行ったが、今も尚口を覆い、笑いを堪えようとしている。
どんだけおもろかったんだよ。
結局今の職業ってどういう意味?
ってかそもそも俺まだ希望の職種すら行ってないんだが、西奈さん、なんの求人持ってくるつもりなんだろう。
……と思考を巡らせている間に彼女はこの場に戻ってきた。
そして1枚の紙を俺の目の前に置く。
「えっと、なになに? レベル、アップコーポレーション?」
社名か?
それで給与面は応相談、仕事内容は冒険者と。
「……冒険者!?」
「はい。冒険者ですよ?」
西奈さんは当然かのように首を傾げそう答えた。
冒険者――
その単語を初めて耳にしたのは、それこそ2年くらい前だっけか。
テレビの中継中、突然アナウンサーのマイクを男の人が横取りし、話し始めたのだ。
『みんな、この場所には近づかないでくれ! モンスターが出てきちゃ危ねぇんだ! ほら姉ちゃんもあっちいった!』
そう言って男は何も無いところへ駆け出し、突如として姿を消した。
それから少しして、何事もなかったかのように帰還した男が「もう心配ない、とりあえずゲートは閉じたから」そう言い放った出来事が、しばらく一斉を風靡したのだ。
まぁそれを機に、人が何もないところへ飛び込んで姿を消したという目撃情報が瞬く間に増え、SNSでも動画として拡散されていったりはしたが、特段モンスターとやらが現れたり、ダンジョンやゲートに関わりそうな事件なんて何一つとして起きなかった。
そして2年経った今、その冒険者やゲートという非現実的な用語は、すでに人々の中で忘れ去られた過去の遺物となっていたが、ここ最近起こっている頭部のない遺体や脳だけが抜かれた遺体、といった不可解な殺人事件をキッカケに再び『冒険者』という単語が飛び交い始めたのだ。
それはどこからともなく流れた、ただの噂。
犯人は冒険者なんじゃないかという。
「さぁ戸波さん、善は急げですっ! さっそくなりましょう、冒険者にっ!」
西奈さんはそう言った後、勢いよく立ち上がる。
「え、なんだ急に……」
「ほら、行きますよっ! 戸波さんっ!」
彼女は突然俺の手を掴んだ。
「……うおぉぉおおいっ!?」
そしてそのまま俺の手を引き、外へ全力で駆け出したのだった。
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一話お読み頂きありがとうございます🥺
去年執筆した中で一番好評だった『ハロワ冒険者』を一から全て創り直してみましたっ!
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