燃える花火

 谷垣さんが体験したことだそうだ。今思いだしてもゾクリとすると言う。


 当時、海辺の町に住んでいた。夏の暑い頃にはビーチに観光客が溢れるような場所だった。友人A,B,Cと遊んでいたのだが、Aが『そういや今年は家に買った花火が余ってたな、来年まで持ち越すのもなんだし、今晩花火をパーッとやらないか?』と言う。


 退屈していた小学生なので喜んでそれに賛同した。BもCも一も二もなく賛成してその晩に浜辺に集まることにした。


 その晩、友人たちと浜辺に集まった。それなりに楽しめそうな量の花火を持ってきたAに『よくそんなに余らせたな』と言うと『ほら、今年は花火大会があったろ? ウチのみんながそれを忘れててさ、日曜日にしようとしていた花火が丸々一パック余ったんだよ』と説明した。


「にしても打ち上げ花火まであるのか、スゲーな」


 Bはそんな感想を持ったようだ。自分はこの量をよく余らせたなと思っていた。大きい花火もそうだが、手持ちの花火もたくさんある。もし何かの拍子に火が付いたら家が全焼しそうな量だ、花火の類いを翌年まで持ち越さないよう注意書があったような気がしたが、誰もそんなことは気にしていない。


 みんなで手持ち花火から浜辺で火をつけて振り回したりして遊んだ。きちんと燃え尽きたものは持ってきたバケツに入れて消火した。環境保護の考えがなかったとは言わないが、ほとんど全部は夏休み明けに教師に目をつけられたくないという理由でしか無い、正直環境などどうでもよかった。


 手持ち花火はきれいに火がつき、パチパチと燃えては消えていく。夏の終わりの花火というのもなかなか良いものだった。


 盛り上がったところで一人が父親の使っていたライターを持ってきていたので、それを使って噴き出し花火や蛇花火に火をつけて盛り上がった。この頃は今にして思えば箸が転んでもおかしい年頃だったので何でも楽しめたのだろうと思う。


 そしていよいよ打ち上げ花火を持ち出し、結構なサイズの円筒を置いてCが火をつけこちらに急いで逃げてきた。


 ヒューン……パチパチ


 綺麗な音が鳴っていかにも夏の終わりと言った雰囲気を出していた。楽しいなと思うのと、夏が終わる寂しさを同時に感じながら感傷的になっていた。そんな時にAが、『やっぱ最後はこれだろ』と線香花火の束を持っていた。


 定番とでも言うべきか、線香花火をみんなでもって火をつけようと付けっぱなしだったところに行くと誰かが聞いてきた。


「なあ、そういやロウソクまで持ってきてたのか?」


「え? 俺が持ってきたのは花火とライターだけだぞ、誰かが持ってきて点けてたんじゃないのか?」


 Aの言葉に全員が険しい顔をした。目の前には火種が確かにぼんやりと見える。全員で一斉にその光源に近寄ると悲鳴が上がった。


 その炎はロウソクなどではない、ただ炎だけがゆらゆらと浜辺の地面から少し上に浮かんでいた。


 誰かからでもなく悲鳴を上げて、花火のカスが入ったバケツだけを持って大急ぎで逃げ出した。我先にと逃げて砂浜から道路まで上がる。


 まだ不安でそこからしばらく走ると明かりの点いていた電話ボックスの前まで来てようやく全員が落ち着いた。


「なあ、なんだったんだよアレ!」


「わかんねーよ! 何であんなものがあるんだよ!」


「落ち着けよ、ここまで追いかけてきたりしないだろ」


 みんなワイワイとさっき見たものについて話し合ってから、盛り上がっていた空気は一瞬でしゅんとしぼんで暗い雰囲気になった。


 それ以降もその三人と集まって遊ぶことはあったが、花火で遊んだことは二度と無いと言う。今更ながら彼は『アレが人魂ってやつなんでしょうか?』と疑問が浮かんだそうだ。


 彼は、今では何の害も出さなかった火の玉を怖がって逃げ出し、勝手にアレを悪いものに違いないと言い合って、人魂のせいで素直に遊べなくなったと愚痴っていたことを後悔しているという。もしかするとあの人魂はただ自分たちと遊びたかったので、ちょうどいいあの形で出てきただけなのかもしれない、彼が子供を持ってからはそんな考えになったそうだ。


 そんなことがあったのだが、彼は今でもその時の友人たちと交流があるそうだ。あの時散々騒いだあの話が皮肉にも困ったときの話題に使われているのだそうだ。

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怪奇譚集『冥葬』 スカイレイク @Clarkdale

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