冬のテントウムシ
秋犬
読んだら呪われます
今日はいろいろな昆虫の越冬方法を勉強しようか。
まず、秋から冬にかけてカマキリの卵はよく見つかるね。カブトムシは温かい腐葉土の中で幼虫で冬の間を過ごすんだ。同じようにトンボやホタルも幼虫で冬の間を過ごすよ。ただし、彼らは水の中で過ごすけどね。蝶や蛾はサナギで冬を越す種類のものもいるね。
成虫の姿で冬を越す昆虫もいるよ。例えばアリやハチ。彼らには冬の寒さから守ってくれる温かい巣があるね。あとはカメムシやテントウムシ。テントウムシの越冬を見たことがあるかい? 落ち葉や木の穴の中などで彼らは集団で固まって冬の寒さを耐えしのいでいるんだ。
だから冬の寒い日、庭の隅に転がしてある板の裏なんか覗いてみるといい。冬を越そうと集まってきたテントウムシたちがうじゃうじゃとくっついているんだ。観察したら板はそっと戻しておこう。テントウムシたちがびっくりしてしまうからね。
他にも、テントウムシと同じようにカメムシも集団で木の隙間などに入り込んで越冬をする。カメムシは自分の身に危険が及ぶと臭い汁を出すから彼らはあまり刺激しない方がいいね。越冬しているところを見かけても、テントウムシ以上にそっとしておこう。
さてテントウムシだけれど、彼らが実は肉食の昆虫だということは知っているかい? 彼らの姿は赤くてかわいらしいけれど、幼虫はそんな見た目とかけ離れたグロテスクなモンスターに近い。彼らの主食はアブラムシで、花の茎についているアブラムシを片っ端からむしゃむしゃと食べてしまうんだ。だから農家なんかではテントウムシは益虫として喜ばれているんだ。見た目もかわいいし害虫も食べてくれるなんて、なんていい虫なんだろうね!
ところで、テントウムシに近い生き物を知っているかい? 彼らは我々には見えにくい場所で暮らしているんだ。この世界そのものが彼らにとって冬の気候に近いようで、彼らはひっそりと我々の「裏側」で暮らしているんだ。
彼らは我々が見ていないところで活動をする。餌は「裏側」にやってきた動物たちだ。テントウムシのように肉食で、「裏側」に迷い込んだら最後頭からむしゃむしゃと食べられてしまうだろう。
そして彼らは「裏側」に卵を産み付ける。いくつも、いくつも丸い卵を律儀に並べるんだ。その大きさは野球ボールほどだと言われている。一度に産卵する数は三千から四千。ピンク色で、たまにどくどくと脈打つ姿がかわいいんだそうだ。彼らが一斉に孵化をしたとき、それはそれは美しい光景になるんだろうなあ!
彼らの幼虫は「裏側」に落ちてきた動物の他に、共食いもするそうだ。みちみちと互いに互いを食い合い、やがて成虫へと変化する。でもその前に、「裏側」の適度に温かい場所に集団で張り付いてサナギになるそうだ。まるで昆虫の生態にそっくりだ。これは興味深いね。
さて、さっきから「裏側」と言っているけれど我々が「裏側」を具体的に視認する方法はないと言われている。それでは何故彼らの話が伝わっているかと言えば、偶然「裏側」に迷い込んだ人たちからの体験談だと言われている。僕も最初、信じなかったさ。まさか身近に怪物が潜んでいるなんて、考えも及ばないじゃないか。
でも、「裏側」に迷い込むのは簡単だ。「裏側」というのは視認できない世界、つまり普段見ようとしない「裏側」を覗いてみるだけで簡単にそっち側に繋がることができる。
例えば後ろ手に閉めた玄関のドア。靴を脱いで上がる時にはもう「裏側」は姿を現さない。「裏側」を見るためには、後ろ手でドアを閉めながら直接ドアを凝視するしかない。普通はそんなことしないから、「裏側」はこちら側にやってこない。
もし「裏側」に行こうとするなら、是非玄関のドアを後ろ手で締めながら真後ろを振り返って欲しい。そうすると、玄関のドアの「裏側」に人間の首くらいの彼らのサナギがびっしりと張り付いているのが見えるだろう。やがて彼らが孵化をして、君を頭からむしゃむしゃ食べる前に逃げ出さないといけないけどね!
この話を聞いてしまったら、君は「裏側」を覗かずにはいられない。「裏側」は常にそっち側に落ちてくる動物を狙っているんだ。君が「裏側」に興味がなくても、あの手この手で「裏側」を覗かせようとする。
ほら、ちょっと気になってしまっているだろう?
パソコンデスクやベッドの下。
カーテンを閉めた窓の裏側。
もしかしたら君の背中にも彼らはいるのかもしれない。
覗いてみなよ。
無視しないでよ。
君が見ようとしなくても、彼らはどこにでもいるんだから。
この話を読んだ君は呪われる。
ずっと「裏側」の恐怖に怯え続けるんだ。
僕らに春は来ない。
ずっとずっと、「裏側」の虫に怯え続けるんだ。
〈了〉
冬のテントウムシ 秋犬 @Anoni
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