FATHER~二人の父~
加藤小織
前編(一)
何気なく窓の外を見てみると無数の山々がひろがっているのが目に入ってきたと同時に、
「まもなくY草。Y草。」という車内放送がかかってきたので慌てて降車ボタンを押していき、バスが停留所に停まるとICカードで運賃を払っておりた。
バスで通ってきた道を戻りながら歩いているうちにガードレールが途切れ脇道がみえたので、そちらにまがり田畑がひろがる道を山のほうにむかって歩いていった。
少し先に高架が見えるが多分。何処ぞの鉄道が走っているのだろう。脇道に入ってすぐに電車が右手のほうに走っていくのが見えた。
高架に近づくと狭い真下に一台の軽自動車が進行方向にむかって停まっていた。誰か乗っているのか、エンジンがかかっているようだ。
山へいくには、あの高架下を通らねばいけないようで軽自動車が停まっているため少々。狭いが人が通れないほどでもない。軽自動車を覗かないように運転席側から高架下を通ることにした。
が。高架下に足を踏み入れるとエンジン音に奏でながら、
「おぎゃ~ん。ぎゃ~ん。」という息子・
聞き間違えだと思いそのまま足を進めていったのはいいが、泣き声は運転席に近づくほど強くなっていき。気になり足をとめて運転席の窓から軽自動車を覗いてみると、助手席に装着されたチャイルドシートの上で泣きじゃくっている光の姿が見えた。
「おぎゃ~ん。ぎゃ~ん。」
昨夜の悲劇は夢だったのだろうか。それに光の着ている服の色・模様が女の子っぽいが本当に光なのだろうか。光は男の子だから赤い水玉模様の服など着ているはずがない。
けれど罪の意識からか。俺には泣きじゃくっている赤ん坊が光にしか見えなかった。
それよりも、この赤ん坊は何故。こんな人気のない場所で一人、軽自動車に乗せられているのだ。
まさかとは思うが親は赤ん坊一人を自動車に残して、さっきの電車に乗って何処かにいってしまったのだろうか。
自動車内をよく見てみると鍵はさしたままで、運転席のドアも施錠されていない。赤ん坊の必需品でも入っているのだろか。助手席の足元にはベビーバックらしきものがおかれている。
「おぎゃ~ん。ぎゃ~ん。」と泣きじゃくっている赤ん坊が光にしか見えなかった俺は運転席のドアを開け、先に助手席の足元にあるバックをだして下におくと、チャイルドシートをはずして赤ん坊もおろしていった。
エンジンがかけられていたのは、エアコンをかけておくためだったようだ。ドアを開けた瞬間、冷たい空気が触れてきた。
「おぎゃ~ん。ぎゃ~ん。」
「よし。よし。」
赤ん坊を自動車からおろし下においたバックを肩にかけると、エンジンもエアコンも消すことはせずドアも開けたまま高架下を出た。
そして山のほうにはいかず、出てすぐのところにあった階段をのぼって高架上へとむかったのである。
その階段をのぼりきると、そこは無人の鉄道駅だった。何処かで二本になるのだろうレールも一本しかなければ、駅のホームも一ヶ所だけだ。
「おぎゃ~ん。ぎゃ~ん。」
「よし。よし。」
どうやら環状線の『Y草駅』という駅らしい。ホームに立ちながら、
「おぎゃ~ん。ぎゃ~ん」
「よし。よし。」と赤ん坊をあやしていると、先ほど電車が走り去った右手のほうから、電車がこちらに走ってくるのが見えてきた。
どうしようかと迷ったが電車がホームに入り。後方車輛の後方出入口が俺の前で停まったこともあって、そのまま電車に乗り込んだ。
「おぎゃ~ん。ぎゃ~ん。」
「大丈夫。大丈夫だよ。」
電車に乗ると反対側の出入り口近くの二人席に肩のバックと背のリュックをおろし、赤ん坊を抱いたまま座っていった。
あまり人は乗っていないが俺に気づく者はいないだろう。俺が自宅近くの車道で妻の光希と息子の光を自動車で撥ね飛ばしたのは昨夜の九時少し前。今朝。立ち寄ったコンビニで見てきた新聞には『行方不明』とされていただけだ。二人は即死だったとされていたが。
電車が発車すると同時に赤ん坊も泣きやみ。
「うぅ。うぅ。だぁ。だぁ。」乗務員から終点までの乗車券を購入しているうちに、
泣き疲れたのか眠ってしまった。
この手で殺してしまった光希と光のことを想うと涙もとまらないが、心に響いてくる赤ん坊の寝息が心地よくてならず。その心地よさに俺の瞼も自然に閉じられ、眠りにつかせていったのだった。
FATHER~二人の父~ 加藤小織 @saori5833
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