第5話 メタル狩り

 歩く分には問題なかったので、一週間だけ休んでから馬車で『ソーンメタル』が出現する鉱山の最寄りの街セルペンティスまでやってきた。


  ひとまず宿だけ取り、余計な荷物を置いてから出発することにした。


 そうして街から出ようとした時だった。


「よう! カストルじゃねえかっ!」

「いでえっ!?」

「貴様何者だっ!!」


 俺の名前を呼んだ何者かにまだ治っていない背中をバシンと叩かれた。

 あまりの痛みに叫んでしまったのだが、それを見ていたエステルが激昂。腰のレイピアを抜いてそいつの首に突きつけた。


「おいおいっ! 俺だよ俺! クラズ!」

「誰だよ……」


 クラズ。本当に聞いたことのない名前だ。

 こいつをよく見ると短髪に筋肉質で、それでいて荒くれ者のような風貌だ。冒険者にいないとも言えない相手だが……。


「カストル様は知らないと言っている! 下がれ下郎!」

「あ゙ぁぁぁぁぁっ!?」


 するとエステルがレイピアでクラズを本当に斬りつけた。

 クラズの右腕から血しぶきが上がり、その痛みで悶え苦しんだ。


「ふんっ——アトリア」

「————アルリケア」


 エステルが指示を出すと、アトリアがクラズに中級回復魔法を行使。

 みるみるうちにクラズの腕の傷が塞がっていく。


「な、何するんだてめぇっ!」

「てめぇ?」

「いえっ…………お嬢様?」

「私の名前などどうでもいい! カストル様と呼べ! この腐れ外道!」

「カストル様!!」


 もうわけがわからないよ。

 なぜかいきなり主従関係のようなものができているし、俺の推しキャラエステルがどんどん変な方向に変わっていっている。


 それにしてもこのクラズ。もしかして俺がこの街のギルドによく足を運んでいた時に会話したのだろうか。あの時は『ソーンメタル』討伐によるレベル上げに必死で余裕はなかったから、誰一人覚えていない。


「カストル様、ギルドへ寄っていきませんか? 皆あんたを——」

「む?」

「皆カストル様を待ってます!」

「よし」


 調教され始めた猟犬のようだ。

 俺は少しだけ思案した。ここに滞在するのは一ヶ月だけ。ギルドに立ち寄るとしても少しの時間だろう。ならば付き合ってもいいが……。

 ただ、今回はエステルたちのためにこの街へやってきた。だから彼女たちにも聞く必要がある。


「良いですよ。カストル様が行きたいなら」

「ありがとうエステル」


 俺が何か話す前にエステルは答えてくれた。

 こうして俺はセルペンティスのギルドへ立ち寄ることとなった。



 ◇ ◇ ◇


 

「おい皆! カストル様がやってきたぞ!!」


 ギルドに入るなり、このクラズという男は帰還を喜ぶかのように俺の名前を叫んで知らせた。


 すると案の定、そこら中に溜まっていた冒険者たちが俺の方を向き、そして近づいてきたのだ。


「うおっ! マジでカストルじゃんっ。ぽっくり消えちゃってさ。どこに行ったのかと心配してたんだぜ?」

「ははは。元気そうで何よりだ。俺たちはお前の鬼気迫る姿に触発されてたんだぜ」

森緑竜グリーンテイルをソロで討伐してきたと聞いた時は腰抜かしたよな」

「もっと驚いたのは赤怪鬼レッドグレムリンだな。あんな怪物、私なら遭遇しただけで一目散に逃げるよ」


 髭面の男に大柄な男。細身の男に魔法使い風の男。

 男男男……むさ苦しい。


 ちなみに森緑竜グリーンテイルとは、森に出現する大型のドラゴンだ。火は吹かないタイプの竜だが、体長もバカでかく攻撃力に加えて防御力も高い。

 そして赤怪鬼レッドグレムリンとは、小さな羽の生えた妖精悪魔のような姿で中級魔法を連発で使ってくる厄介な相手。魔力がなかなか底をつかないため、近づくのに苦労する。

 どちらもレベル30はないとソロでの討伐は厳しいだろう。


「ねぇカストル。今の話本当?」


 すると気になったのか、翠の瞳を向けてきたメイベラが俺に聞いた。


「ああ、レベル上げの最中も金は稼がないといけなかったからな」 

「あのテジャトの腕を斬り落としたのですから、このくらいは普通なんでしょうね」

「さすがはカストル様っ!! 国の至宝!」


 褒め過ぎだ……俺は宝じゃないぞエステル。


 宝と言えば勇者のための伝説の武具だ。

 あれはストーリーとは全く関係ないところで手に入るので、勇者が見つけられない可能性がある。それなら俺が早めに回収して渡してやるか。


 そんなことを考えていると一人男が前に出てきた。


「この街に戻ってきて、またやばい魔物を討伐するのか?」


 髭面の男だ。


「ああ、ちょっとな。一ヶ月は滞在することになるからよろしくな」


 誰一人記憶にないが……前はお世話になったみたいだし、この一ヶ月でできるだけ覚えてみるか。


「へえ、一ヶ月か。なら、今度飲みに行こうぜ!」

「時間があればな」

「やったぜ! お前の話をゆっくり聞きたかったんだ!」


 楽しそうに話すなぁこいつら。そんなに俺と飲みたいのか。

 エステルたちが許すなら少しくらいは付き合っても良いだろう。



 ◇ ◇ ◇



 軽くギルドに顔を出したあとは、そのまま鉱山へと向かった。


『ソーンメタル』が出現する場所に向かう途中、ギルドでの話が気になったようで、三人から質問責めされた。


「他にはどんな魔物を討伐したんですか?」


 アトリアからの質問だ。


「ん〜、反魔亀フレクタートル雷虎らいこ紅孔雀べにくじゃく魂喰狩グリムイーターとか?」

「さ、さすがはカストルさん……ちょっと引きました」

「今からちゃんとレベル上げができたらそいつらくらい簡単に倒せるようになるよ。俺はソロで倒せたんだからさ」

「で、できるでしょうか……」


 今話した魔物もレベル30はないと倒せないだろうヤバい魔物だ。ゲーム設定上、街の中には魔物は現れないが、その外はかなり危険だ。複数人でパーティを組んで倒すべき相手だからな。


「——よし。ここらへんでいいだろう」


 鉱山をある場所まで登ると、俺は立ち止まり岩場の影に隠れた腰を下ろした。他の三人も俺に続いて腰を下ろす。


 そして小石を取り、地面に向かってチョークのように絵を書いていく。


 俺が書いたのは地形だ。そして小石を『ソーンメタル』として、どう攻略していくかを説明した。

『ソーンメタル』は宙に浮かぶ鋼鉄のトゲトゲした魔物だ。魔法は一切効かず、宙に浮かびながら素早い動きでトゲを飛ばしてくるが、宙へ浮かぶ高さは一定だ。


 人間の顔くらいの位置以上には飛べないらしいので、それを逆手に取る。

 周囲取り囲み、トゲを躱し肉薄してトゲを折り本体へダメージを与えての繰り返しだ。


「大丈夫そうか?」

「はいっ!」「大丈夫です!」「オッケー!」


 それぞれ返事をくれたエステルたち。

『ソーンメタル』が出現する場所へと足を踏み入れた。


 ただ、すぐに出現するわけではない。しばらく歩き回ったり、待ったりしなければいけない。レベル上げはそう簡単ではないのだ。


「——カストル様! あれは!」


 エステルが指差したほうへと視線を向けた。すると、だだっ広い岩場の空間に『ソーンメタル』が浮かんでいた。

 しかし俺がよくやっていた小高い丘の一部を崩して岩で取り囲む方法は使えない。であれば、アトリアにここは活躍してもらう必要がある。


「準備が整ったら先行しろ。最悪俺が手助けする」


 一応剣も持ってきた。背中は痛くても少しくらいは動けるだろう。



「行きます!」


 エステルの掛け声で、エステルとメイベラが飛び出した。

 するとそれに気づいた『ソーンメタル』が逃げようと動き出した。


 アトリアが中級土魔法『アルグレブ』を詠唱し、岩場から土槍が出現。逃げ道を塞ぐ。すると、『ソーンメタル』は別方向へと逃げようと方向転換。


 しかし左右はエステルとメイベラが立ち塞がり、逃げ道は一つだった。それは後方で魔法を放ったアトリアがいる方向だ。


『ソーンメタル』は覚悟を決めたのかアトリアへと目にも止まらぬスピードで空中を移動した。


「速いぞ!」


 俺は気をつけろと意味を込めて声を遠くから飛ばした。


氷輪刃ひりんじ!」


 その瞬間、エステルが中級氷魔法である『アルコルド』を剣に付与。そして魔法剣である法技『氷輪刃』を発動。レイピアから放たれた氷塊が地面を進み『ソーンメタル』の前へと出現。


『ソーンメタル』は氷壁に激突し、そのまま突き刺さった状態となった。


「メイベラ!」

「任せて!」


 突き刺さり動けなくなった『ソーンメタル』に肉薄したメイベラ。

 彼女は『ソーンメタル』の目の前まで来ると、直前で体を回転するかのようにくるくると回った。


連脚掌れんきゃくしょうっ!」


 メイベラは回転したまま、拳と脚の両方での連撃により、『ソーンメタル』のトゲを折っていった。ただ、その衝撃で『ソーンメタル』は氷壁から脱出してしまった。


 しかし逃げられなかった。次の攻撃がすぐに迫っていたからだ。


「たぁっ!!」


 エステルの斬撃だ。

 彼女の武器はレイピアのため、それほど威力がない。しかし、かすり傷でもつければこちらの勝ちだ。


 次々と『ソーンメタル』のトゲが折れていき、半分ほどがなくなった。まさにハゲたような状態になり、ついにはトゲの奥である本体にまで届いた。


「——危ないっ!」


 しかしその時だった。『ソーンメタル』の不審な動きを察知した俺は声を飛ばして危険を知らせた。


 次の瞬間、『ソーンメタル』はその場で高速回転し、トゲを飛ばし始めた。一撃でも浴びるとかなりのダメージを伴う攻撃だ。躱さないと大変なことになる。

 しかし——、


「だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 目の前にいるはずなのに、『ソーンメタル』のトゲを次々と打ち落としていったエステル。あまりにも速い剣閃に俺も呆気にとられた。


「メイベラ! 落とせ!」


 その間、空にジャンプしていたメイベラに最後の一撃をと、俺は叫んだ。


「んああああああっ! 奈落落としっ!」


 以前にも見たことがあるメイベラの法技。空中からの超速かかと落としである。

 それが『ソーンメタル』の中核に直撃。ヒビが入るように亀裂が入った。


 それはミシミシと広がっていき、最後には亀裂が全体に行き渡り、そのまま破裂するようにして空に消えていった。


 エステルたちは『ソーンメタル』を討伐することができたのだ。


「「やったぁっ!!」


 三人は近づき、そして体にレベルアップの光が灯っていった。


 魔法使いのアトリアは後半出番はなかったが、逃げ道を絞らせることやエステルたちがダメージを負った時のために回復魔法を用意していた。彼女の役目もちゃんとあるのだ。


 この日、『ソーンメタル』を二体まで倒すことができた。


 エステル:23→25レベル

 アトリア:24→26レベル

 メイベラ:22→24レベル


 それぞれ一体倒す事にレベル1アップしていた。


 このペースなら俺を追い越す日も近いかも知れない。

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負けイベで推しキャラを全力で救ったら、激重の愛が着いてきた 藤白ぺるか @yumiyax

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