第10話「永遠のカデンツァ」
完成した譜面を前に、奏多(そうた)は深く息を吸い込んだ。その譜面には、彼がこれまでの旅で紡いできた旋律の全てが込められていた。過去と未来、そして現在を繋ぐ音楽。それが、この未完成だったソナタの正体だった。
「これが俺の音楽...そして、俺の答え。」
ピアノに向かい、彼はゆっくりと鍵盤に指を置いた。その瞬間、これまで感じたことのない高揚感と緊張感が胸を満たした。部屋の空気が変わり、彼の周りに見えない観客たちが集まっているような感覚がした。
最初の音が鳴り響いた瞬間、部屋の光景が一変した。彼は大きなホールに立っていた。観客席にはこれまで出会った全ての人々が座り、彼の演奏を見つめていた。過去の彩音、未来の彩音、若い頃の自分、中世の音楽家、そして荒廃した未来で希望を見た人々。全ての時代がここに集まっていた。
「奏多、あなたの音を聞かせて。」
未来の彩音が静かにそう囁いた。その声に応えるように、奏多は鍵盤に指を落とし、演奏を始めた。
音楽が空間を満たし、時間を超えて響き渡る。旋律は滑らかに流れ、時に激しく、時に優しく、観客たちの心に直接語りかけるようだった。彼の演奏は、これまでの旅で得た全ての感情を込めたものだった。
過去の後悔と未来への希望。そして、彩音との愛。それらが一つの旋律に溶け込み、完璧なハーモニーを奏でていた。
観客たちは息を呑み、目には涙が浮かんでいた。その音楽が、彼らの心に眠っていた感情を呼び覚ましていたのだ。
最後の音が響き渡ると、ホールは静寂に包まれた。その静けさは、ただの音のない空間ではなく、すべてが繋がり、満たされた瞬間の静寂だった。
奏多は鍵盤から手を離し、深く息を吐いた。ホール全体が大きな拍手と歓声に包まれる。観客たちは立ち上がり、感動の涙を流しながら彼を称えていた。
未来の彩音が舞台に近づき、微笑みながら言った。
「ありがとう、奏多。この音楽が、未来を救う光になる。」
彼女は静かに手を伸ばし、奏多の手を握った。その瞬間、ホール全体が光に包まれた。
光が消えると、奏多は自分の部屋に戻っていた。だが、これまでとは違っていた。ピアノの上には完成した譜面があり、その上には彩音との思い出の写真が置かれていた。
「これが、俺たちの音楽。」
奏多は静かに微笑み、再び鍵盤に指を置いた。その音が空間を満たし、これまでの旅がただの夢ではなかったことを示していた。
音楽は時を超え、永遠に響き渡る。それが「永遠のカデンツァ」の意味だった。
彼が奏でる旋律は、すべての人々の心に残り、未来へと受け継がれていく。それは、時間と愛、音楽の力を証明するものだった。
物語はここで終わる。
だが、その音楽は、これからも鳴り続ける。
永遠のカデンツァ 蒼月 涼 @sougetsuryo12
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