あの祠を壊した私は、婚約破棄を言い渡されました

みちのあかり

聖女は祠を破壊する

「聖女雪穂。あの祠を壊したお前とは婚約を解消する! そして新たな婚約者はここにいるリイナとすることに決めた」


 ここは和の国の東雲皇国。学園の卒業式のパーティーで、同じ卒業生で婚約者のミチナガ皇子が、大量の唾をまき散らしながら怒鳴り散らした。元日本人の私からすると、とても耐えられた情景ではありません。というか、皇子の近くにいるメイドさんも唾がかからないように距離を取っています。


「なぜ祠を壊した!」

「それがわたくしの役目ですから」


 私がこの和洋折衷の異世界に転移して、聖女としての扱いを受けたのはひとえに邪神を滅ぼすためなのです。皇子との婚約などどうでもいい、というかむしろ不要ですね。


「あ~、あの祠壊しちゃったのね。ざ~んねん、あなたもうじき死んじゃうわね」


 皇子の隣でリイナが私をあざけ嗤っています。


「そうね。私は聖女としてこの国に遣わされました。そして私は神の願いを聞き入れたのです。祠を壊せと」


「何だと!」「何ですって!」


 二人とも、唾がっ!


「私が仕えるのは、帝の一族ではございませんのよ。皇国の神々と民のために仕える、それが聖女と言うものなのです」


「何だと! 皇帝一族に逆らおうというのか! 反逆者め! 国外追放で収めておこうと思っていたのだが……死刑だ!」


 王子が真っ赤になって唾をまき散らして怒鳴った。さすがに隣にいるリイナさんまで距離を取ってしまわれましたね。


「では、祠の下に何が埋まっていたのか、今からご覧に入れましょう。わたくしが祠を壊したのは神の命じるままに起こした行動なのですから。『ツクヨミラー』」


 呪文を唱えると、月の神の紋章が入った鏡が宙に浮かんだまま現れました。


「これは真実を映す鏡、ツクヨミラー。伝説の七神器の一つです。あの祠はこの鏡を隠すために作られた祠だったのです」


 会場中がざわめいています。


「掛けまくも畏き、ツクヨミの神よ。

 清め給いしは古今の罪

 祓い給いは邪なる者共。

 此度の宴に集いし者よ

 日の光を鏡を通し照らされ

 真実の姿を現さん。照射」


 祝詞をあげ神に祈ると、鏡に光が吸い込まれました。光を失い薄暗くなった会場中の人々が鏡を見つめています。

 鏡の表面に魔法陣が浮かび上がっりました。その瞬間、鏡からスポットライトのような光があらわれ、脱獄犯を探すようにゆっくりと動き回りました。


 その光がリイナを照らすと、リイナの姿が人のそれではなくなりました。彼女は邪神そのものだったのです。

 王子もまた人ではなく邪神の一人でした。

 衛兵の一部の者は邪神の眷属。

 貴族の一部も邪神の眷属。

 そして、祝いに来ていた皇帝も皇妃も邪神の姿になったのです。


「皇国は、皇帝の一族は長い年月をかけて邪神に乗っ取られてしまったのです。神々はこの事を明らかにするためにわたくしを聖女として呼び寄せたのです。今こそ邪神を滅ぼすのです!」


 会場内はパニックになっています。衛兵が邪神を倒そうと頑張っていますが、邪神も応戦して被害が出てきました。


 大半の邪神の眷属が倒され、鏡の効果も切れた頃、二人残った邪神の皇子とリイナが人間の姿で私の前まで来ました。


「お前さえいなければ」

「あんたがいなかったら」


 二人は恨みまがましい目で私を見ながら、襲い掛かってきたのです。


「危ない、雪穂!」


 私の前にクラスメートのサギリ様が立ちはだかり皇子の剣を受け止めて下さいましたが、リイナの剣によって怪我を負ってしまいました。


 私は必死で聖女の短剣を握りしめると、リイナの腹に剣を差したのです。


 リイナは剣の加護に負け、そのまま息を引き取りました。


 一対一になった皇子とサギリ様。怪我を負ったにもかかわらず互角の戦いをし、ついに皇子の首を刎ねたのです。


「大丈夫ですか。今治療を」


 聖女の力で治療を施している中、サギリ様は私に言いました。


「君が無事で良かった。そしてありがとう、この国を救ってくれて。僕と結婚してください」


 は? いきなりなんですの?

 確かに以前からサギリ様のことは気になっておりました。人柄も良く、成績も優秀。何よりそのお姿。

 学園一の有名人なのですから!


 でも、なんで?


「僕は三代前に追放された夜叉皇子の孫なんだ。追放の本当の理由はお祖父様が帝王の一族では、最後の純粋な人間だったからなんだ。証拠は沢山ある。これから僕は皇帝として名乗りを上げる。今度こそ正しい帝国の未来を作っていくつもりだ」


 はあ。


「でも、それ以前から君の事が好きだったんだ。入学したばかりの時、いじめられていた女生徒を庇っていたこと。皇子に対しても怯まず行動を正していたこと。誰隔てなく親切にし、人の嫌がることでも率先して行っていたことはいつも見ていたんだ」


 そうなの?


「皇子の婚約者だったから僕は自分の想いに蓋をしていたんだ。でも、君が愛おしくてたまらないのは事実なんだ。僕と付き合ってください」


 えええええ~! 本当なの? ちょ、ちょっと待って、今それどころじゃないし! 会場にいるケガ人、何とかしてから考えるから~!


 その後、皇室の闇が暴かれ全ての邪神と眷属が捕まり処刑された。

 サギリ様は皇帝となり、甘い言葉をかけ続けられた私は皇妃の座についた。仕方ないじゃない。あんな顔で愛をささやかれてみなさいよ! 好きになってしまうんだから!


 邪神から取り戻したこの皇国は、神の祝福を受け国民全員が幸せに暮らせる素晴らしい国になりました。


   おしまい 

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あの祠を壊した私は、婚約破棄を言い渡されました みちのあかり @kuroneko-kanmidou

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