第2話
しばらくは何もない。
が、むこうから男が歩いてきた。
近所の笹村さんで、いつも無駄に元気はつらつな人だ。
この日もまるで軍事パレードのような歩き方で、歩いていた。
近所ではこの人のこの歩き方を知らない人はいない。
笹村さんは女には気づいたが、なにもいないような様子で女の前を通り過ぎた。
そして笹村さんと女が多少離れたと思われた時、女の口からなにかがすごい勢いで飛び出した。
――舌?
そうそれは舌だった。
女の舌は数メートルも伸びると、笹村さんの首の後ろをなめた。
笹村さんが思わず立ち止まり、振り返る。
しかしその時には女の舌はすでに女の口の中だった。
その間女は、笹村さんを一度も見なかった。
笹村さんが首の後ろに手を当ててなにかぶつぶつ言っていたが、しばらくして歩き出した。
しかしその歩みは先ほどのものではなく、まるで病人のようにふらふらしていた。
今にも倒れるのではないかと思うほどに。
笹村さんがこっちにふらつきながらやって来るので、俺は隠れた。
そして笹村さんをやり過ごした。
笹村さんを見送った後戻ってみると、女はもういなかった。
俺は考えた。
俺も笹村さんも女に首をなめられた後、体調を崩した。
それはまるで、体内のエネルギーを吸い取られたかのようだった。
――もしかすると。
あの女は本当に人の生命エネルギーを吸い取っているのかもしれない。
数メートルもある舌でなめることで。
人をなめるのは、あの女にとっては食事なのだ。
とても信じられないことだが。
なんという化け物だ。
その後、その女を見ることはなかった。
――餌場を変えたんだな。
俺はそう思った。
終
蛙 ツヨシ @kunkunkonkon
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