精剣伝説~宇宙人にキャトられてTSさせられたオッサンは過去に戻って家族を救い魔物と闘う魔法少女をも陰から救う~

副来 旭

第1話

『小さい…今回のサンプルは非常に小さいな…』

『少し大きくしてから採取すれば良かったか?』

「……は?」


 大楠おおくす楓月かづき41歳は目の前の状況に混乱していた。


 2024年、冬。地球温暖化が進みに進んだ12月の肌寒いこの季節、外は雪など降っていなくて、それでも凍えそうな思いをしながら車から降りて風呂も入らず何時ものように熱燗をかっ喰らい、ボロいアパートの狭い一室で炬燵に入ってイビキをかいて眠りについた筈だった。


 熱い強烈なライトに当てられる感覚で目を覚ますと、銀色の頭でっかちで黒目しかない全身ツルッ禿げなほっそい二人が、ポークビッツみたいなとピスタチオみたいな二つのアレをそれぞれ手に持ちながら会話をしていた。


 三本しか指の無い小さな掌で、二つのピスタチオを器用に操りながら真面目そうに話す奴に、ポークビッツ持った銀色の奴はかんらかんらと笑いながら、もう大きくはならないソレを上下に動かして弄んでいる。


「なんだ…お前ら…」

『おや、もう起きてしまったのかい?』

『君が麻酔薬の量をケチッたからじゃないか?』


 両手両足と首はベッドの上に皮ベルトで拘束されて身動きが取れない状態で、大楠楓月はSF映画で良く見かけるこの光景に直ぐに解答を出す。


「キャトルミューティレーション…」


 パチパチパチパチ…


『素晴らしい』

『正解だよ正解、小さき竿の支配者よ…』


 銀色のトレーにそれぞれが持っていたポークビッツとピスタチオを置いて拍手をするソイツらは、鼻の穴と同等ぐらいの小さな口をにやけさせている。


「返せよ…」


 何がどうしてこうなったか分からない。されど股間にあった何時もの生暖かい感触の相棒はいくら感覚を鋭敏にしようが内腿に当たらない、30年前に両親とひとつ上の兄貴が事故で他界して以来ずっと苦楽を共にしてきたソイツが、無惨にも分離され元気無く銀のトレーに置かれてる状態に、大楠楓月は怒りがこみ上げ大声で叫ぶ。


「返せよ…たった一人の家族なんだよ…!!」


 などと、誰かに聞かれたら怒られそうな台詞で…


 ▼▼▼


 ブチイイイイイッ!


『あ、おい、待て!』

『まずい!まだ記憶を消してないぞ!』


 叫んだと同時に起き上がり、拘束されていた皮ベルトを容易く引きちぎる。自由になったその身でベッドから飛び下りて、銀のトレーに乗った玉と竿を奪い取り、精密すぎる船内の出口を求めて手術オペ室から脱出する。


「はあ、はあ、はあ…くそ、ふざけんな。」


 走る足は異常に速く、しかしその歩幅は以前よりも遥かに狭いが今はその事に構っている暇は無い。まるで少年時代に戻ったかのように羽が生えたように軽やかだがそれも無視だ。


 見たことも無い近未来的な廊下は幼い頃に見た映画のようだ。LEDよりも遥かに明るいライトがいくつも頭上にあり、丸い窓から見える外の景色は図鑑でしか見たことない大小さまざまな惑星が散りばめられていて、自身が本当にUFOの中にいる事を知らせてくる。


(夢じゃないのかよ…マジで現実なのか…)


 段々と息が上がってきて身体中が汗ばんでくる。早まる心拍数と鼓動がこれは現実だと訴えてくる。


「あ……」


 ついには行き止まりに突き当たってしまい、大楠楓月は絶望する。腕毛も何も生えていないやたらと細い腕を膝に付き、滴り落ちる汗を小さい手の甲で拭う。


「くそ、万事休すかよ…」

『ふふふ、残念無念。そこから先は宇宙空間ですよ…幾ら我々が造り出したあなたの身体と言えど、飛び出してしまえば一溜りもありません』

『諦めなさい。実験はまだ途中なのですから、大人しくしていれば全て終わった後に元の場所に帰してあげます。無駄な抵抗はお止めになって、さあこちらへ…』

「…ふざけんな」


 小さな口でよくもまあ達者に喋る奴等だと大楠楓月は苦笑する。


「えっ……?」


 カアッー…


 壁際まで後退り、背中に異常に冷たい金属の感触が伝わった時、大楠楓月の右手に持っていた竿と玉が輝き始めた。


『ま、まさか…』

『そんな、あんな小さくて粗末な物が我々の探し求めていた精剣エクスカリバーだったと言うのか…?』


『我の根元を擦れ…』

「は?」

『「は?」ではない、良いから言われた通り今すぐに我の根元を擦るのだ』


 目映い光が収まったと思えば、大楠楓月の右手にはつばの部分に光輝く金色の玉を二つ備えた刃渡り15cm程のつるぎが存在していて、あろうことかその剣が直接脳へと語りかけてきた。


って…、いや俺は男だし…」

『何処からどう見ても今の汝は小娘だろうが、嘘だと思うなら我の輝くやいばにその姿を映してみるがいい』

「何を馬鹿な…げっ…」


 家庭用包丁ほどの大きさの刃に写し出されたのは、肩口までの真っ黒い髪に銀色の目をした、かなり目つきの悪い小学校高学年ぐらいの女子だった。


「お前ら…俺の身体に何しやがった?」

『「何を」って、君の身体から男である証を奪ったのだから、そのままの生体で地球に返す訳にもいくまい。排泄する行為を失った君は早々に命を終わらせてしまうし、生態系が狂ってしまう。だから我々は摘出した君の遺伝子にそって産まれた姿から造り治し、新たに女性として誕生させている途中だったのですよ…』

『そうそう、我等の優しさだよ。元中年の大楠楓月くん…いや、今はかな?』

『それに、その姿はまだ完成形では無いのですよ。もう一度施術を受けて貰えればキチンと元の姿の年齢まで成長させる事が出来ますが?』


 怪しく嗤う全身銀色タイツがジリジリと迫ってくる。これ以上後退する事も不可能な大楠楓月は、してはいけない決断をする。


「……こすりゃ良いんだな?」

『左様。さすれば汝の今の危機的状況は全て解決する』


 シュ…シュシュ……シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッ!!


 右手で柄頭つかがしらを持ち、左手で41年間鍛えに鍛えた、神速の上下運動を開始する。


 かつての自分ならば5秒ももたないだろう動きは、おのが手以外に味を知らなかった可哀想なかつての相棒であり現精剣を急激に成長させていく。


『おっ、おおおお、キタ、キタ、キター!!!』


 快感にうち震える精剣の何と気持ち悪いことか、気色悪い歓喜の声を上げながら刃渡りが60cm程まで伸びていき、その輝きはいっそう激しさを増している。


『あ、ああ…なんということだ…』

『に、逃げるぞ…兄弟…!』


 慌てて背を向けて逃げ出そうとする宇宙人二匹目掛けて、大楠楓月と精剣は今度はこちらの番だと怪しく嗤う。


『逃がすものか…楓月、心して着いて参れ!』

「あったりめーだ…!俺の、俺の童貞を永遠にした罪は重いぞ、くそったれ!!」


 斬っ―――――!!!!!


 振り下ろした刃は船内ごと宇宙人を真っ二つにし、制御を失った宇宙船から童貞の言い訳を手に入れた大楠楓月と、その精剣は宇宙空間へと放り出される。


「…はっ、ざまぁみろ」


 ここで死ぬのを覚悟した大楠楓月は中指を立てて静かに目を閉じる。


 人生何が起こるか分からない。でも出来る事なら前と同じ姿で生きて帰って、会社の同僚に話して「このホラ吹き野郎が!」なんて言われて、酒でも呑みながら笑い合いたかったな…なんて彼は想いながら憎らしい程に輝く宇宙空間で、その意識を手放したのだった。


 ▼▼▼


「…づき、楓月、おい起きろって楓月」


 誰かがユサユサと身体を揺さぶってくる感覚が襲う。耳に届くのは絶対に忘れることの出来ない懐かしい声で、今はもう決して聞くことの出来ない兄貴の声だった。


「……え、兄貴?…なんでいるんだ?」

「自分の家に居ちゃ悪いのか?寝惚けてないで早く学校へ行く準備しろよ。また母さん達に怒られるぞ?」


 二段ベッドの上から降りてきた小学六年生の兄貴が静かに笑う。自身の枕の下には何か固い刃物みたいな物があって、それがゴツゴツと後頭部に僅かな痛みを与えてくる。


 ――1994年、夏。地球温暖化がまだそこまで進んでいない時代、開けっ放しの窓から流れてくる風が、窓辺につけた風鈴をチリンチリンと鳴らしていた。

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