俺と魔女と勇者と魔王

@suikanokakimono

第1話 俺と魔女と

満月が浮かび上がるとある夜。

小さな村の真ん中に円を描くように焚き火が燃え上がっている。

夜を照らすかのように燃えるその焚き火の円の中には木製の十字架、そこに1人の少年が捧げられるかのように吊るされていた。

夜風が吹いても焚き火のせいで熱風へと変わってしまう。

熱さや痛み、これから自分が殺されるという現実。これらを全身で感じながら少年は泣くことしか出来ない。

辺境の村というのもありこの村にはおかしな風習がある

それは『満月の夜、生きた子供を1人、邪龍様に捧げる』というものだ。

この村から山を越えた先に大空洞がある。

そこで取れる鉱物や宝石が高く売れるため元は人間が管理していた場所だ

しかし数十年前、突然邪龍がそこに現れた

宝石や武器などをコレクションする趣味を持っていたそれは大空洞を住処とした

大空洞奪還のため人間は何度かその邪龍に刃を向けた

しかし邪龍も生物上最強と謳われるドラゴン、人間が勝てる訳もなく結果は大敗。

何とか生き残った人間たちが慌てて逃げようとしたところ邪龍が嘲笑うかのように口を開いた

「我は貴様ら人間を滅ぼすためにここに来た訳では無い。貴様らが刃を向けてきたから我はやり返したまで。その愚かさの償いは行ってもらうぞ

まずこの空洞から一帯の土地は我の管轄とする。

そこから取れる食い物や宝を毎日捧げよ

そして満月の夜、どこかの村から1人、生きた子供を捧げるのだ。

無論、我の管轄となったからには我が同胞が襲ってきたとしても我が話を通してやる。

どうだ。悪い話ではないだろう。」

村の民を犠牲にするのを了解できるわけが無いとその時の村長は首を振ろうとしたが邪龍の拒否すればこの場で全員塵となるという言葉により仕方なく了承。

その場の全員は1を切って9を救う村長のやり方に納得せざるを得なかったが村に残っていた民がその日の夜、村民を守れない不甲斐ない村長として殺害。

そしてその村長の息子がそのまま村長の座を引き継ぎ、邪龍との契約を仕方なく決行している

ここ数年、他の村は子宝に恵まれずこの村から満月の夜の度に子供を生贄とする儀式が行われている

そして今回はこの少年の番になったというわけだ

村長をはじめとした村の民が跪き少年を囲う。

儀式の念を唱え終わると村長と数人の男が立ち上がり、少年を十字架から外しそのまま担ぐ

「では邪龍様に捧げてくる」

そう言ってその場から立ち去ろうとした

「おいおいおいおい本当に悪趣味なことしてんじゃねぇかよ」

ーところで突然女性にしては口調が乱暴な声が投げられた

村民たちは戸惑いつつ声の主を探す

「ばーか上だよ上」

その声の通り上を見上げれば箒の上に仁王立ちで立つ1人の女性がいた

金色の長い髪に整いすぎた顔、真っ黒なドレスを身にまとい上空から村民たちを見下ろしていた

「えっと...あなたは...?我が村に伝わる大事な儀式の邪魔をして欲しくないのですが」

「はっ!大事な?儀式?よく言うぜ!

こんな悪趣味な儀式、頭のおかしい宗教かなんかがやることだろ」

女性は箒から飛び降りる

ドレスのはずなのにスカートはめくり上がることなく少しなびくくらいで収まっていた

近くで見ると改めてその美貌に目を奪われる

髪と同じ金色の目で大人の女性を思わせるような風貌、そして背も170cmくらいはあり足も長く、そして何より胸が大きい。男の理想の女性の体型を現実化したようなそのスタイルの良さにその場の誰もが唾を飲み込む

「あたしはアシュール。対魔王軍討伐部隊 第1席のアシュールだ。正義の魔法使い様が悪人共を退治しに来たぜ」

その金髪の女性ーアシュールはびっと村長を指さした

「あ、悪人?何を言い出すのですか。我々は邪龍様の生贄を捧げるためこの子をあの大空洞まで連れていかなければならないのですよ。アシュールさんでしたっけ。正義の魔法使いがどうとか仰っていましたが言ってしまえば我々は被害者ですよ!悪人は邪龍の方です!」

村長の言葉にアシュールは腕を組む

「ありゃ、そうだったのかそれは悪かった

確かにあの大空洞に住み着いていたとかいう邪龍はその名に恥じずに邪悪だったな」

「そうですよ、我々もあいつさえいなければこんなことせずに済..。ん?今なんと?」

「お、さすがは全てを知ってる村長サマだ。随分勘が鋭いな。一言一句そのままもう一度言ってやるよ

確かにあの大空洞に住み着い‪”‬ていた‪”‬邪龍はその名に恥じずに邪悪‪”‬だったな‪”‬って言ったんだ」

アシュールの言い方に村長はどんどん青ざめていく

「やっぱり他の連中には知らされてないみたいだな。大方、そのガキを背負ってる奴と村長側に立ってる数人も話がわかってるんだろ」

「いや、まさかそんなわけ。だがしかし...」

「まぁ、理解してるメンツがこの場にいるのがあたしらだけってのは寂しいからな。他の奴らにも教えてやるよ。あの邪龍は数年前、倒されてんだよ」

アシュールの言葉に村民がざわつき始める

動揺する村民の姿を見て村長達も苦い表情をうかべる

そんな村長に追い打ちをかけるようにアシュールは懐から何かを取り出し村長の足元に放り投げた

桃色のゴツゴツした長めの岩のようなもので、村長は恐る恐るそれを拾い上げて見つめる

それがなにかわかったのかはっとした表情にすぐ切り替わる

「ま、まさか!」

「そう、そのまさかだ。それはあの邪龍の額から生えていた角。ドラゴンは自身の生えている角を折られるくらいなら死ぬくらいのプライドを持つ誇り高ーい生物だ。そしてそれがここにある。邪龍の言う通り供物を捧げてたアンタなら見間違えるわけないよな?」

村長はアシュールの言葉に目を泳がせ冷や汗をかき始めた

「そ、そう!邪龍様が倒されたことを我々は知らなかったのです!知らないとはいえ我々はなんと罪深いことを...」

「さすがに言い訳が苦しいぞ?降参しろ。

抵抗せずにこっちの言う通りすれば刑はそれなりに軽くなるかもな?」

アシュールはゆっくりと村長の方に歩み寄りなにかの魔法を使おうとする

「くそっ!!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

村長は邪龍の角をしっかり掴みアシュール目掛けて襲いかかった

しかしアシュールはそれを正面から受止め村長の腹部を殴って気絶させた

「人間相手はやりづらいんだよ。手加減しないと殺しちまうだろ?」

村長が一撃で沈められたのを見て周りの男たちはその場で膝から崩れ落ちた


「あー...その、まずは悪かった」

村長たちを対魔王軍討伐部隊の人達が連行するのを見送ったあとアシュールは残った村民たちに頭を下げた

「あの邪龍はうちの隊員が討伐したんだが急にどこかに行方をくらましやがってな。邪龍の角はもちろん遺体は届けられてたから任務はしっかりこなしていたとみていたんだが...」

アシュールは村を見回してため息をつく

「...まさか。こんな所に村があるなんてな

今回あたしが来たのも良からぬ噂をうちのトップが嗅ぎつけたからだ。もう少し遅かったらと思うとこのガキまで死ぬところだったな」

アシュールは今回の生贄になりかけた少年の頭に手を置く。村長を一撃で仕留めたとは思えない細い指だった

「村長たちはなぜあのようなことをしたのでしょうか...?」

村民のひとりがアシュールに質問をなげかけた

邪龍が死んだのに生贄を準備し続ける意味がわからないのだ

「そんなの単純だろ」

そもそも数年前、他の村では邪龍が倒されたことで供物を捧げなくて済んでいた

もちろん最初は村長たちももう供物を用意しなくていいと伝えようとしていた。しかしふと思ったのだ

この供物は我々の中で消費すればいいのではと

まず金品や食べ物などはそのまま村長たちがくすねておりそれで裕福な暮らしをしていたこと。

そして子供については殺し、人肉としていただいていたというものだった

あまりにも惨い話に吐き出す者たちもいた

それを見てアシュールは悲しそうな顔をする

「あたしらがもう少し早く来ていればもう少し早くあいつらを止めることが出来たはずだ。本当に悪かった。村の再建のサポートは全面的にやらせてもらう。定期的に部隊の人員の1人をこの村に来させるつもりだ。その時に必要なものとかあればこちらで用意させてもらう」


「正義の魔法使い...な...」

アシュールは村から少し離れた森の中で星空を見上げていた

満月が不気味な程に輝いているのがよくわかる

村では儀式の片付けが行われていた

もちろんアシュールも手伝う気でいたが村民から助けて貰ったのは事実だからこれ以上手伝ってもらう必要は無いと言われどこかで休んでいて欲しいと言われてしまったのだ

休むほどのことはしていないし村の中で休んでいると村民がこちらを気にしてしまっていたようなのでこっそり抜け出したのだ

近くにいい大きさの岩があったためそこに腰かけ時間が過ぎるのをただ待っていた

「おほしさまを見てるの?」

「あぁ久々にしっかり見てる気がするな」

「たいまおーぐんとーばつぶたい?は忙しいの?」

「まぁな、魔獣なんていくら倒しても湧き続ー。

おいガキ。いつからそこにいた」

いつの間にか先程生贄になりそうになった少年が横にいた

「んーお月様がもうちょっとてっぺんにある時かな?」

「今でもかなりてっぺんだと思うが...そうか。こういう村は時計とか無いのか。そういう時間の観測の仕方になるよな」

「あしゅーさんはおほしさま好き?」

「アシュールな。まぁ星が嫌いな奴なんて滅多に居ないだろ。太陽が嫌いな奴は知ってるが。それで?何しに来たんだよ。みんな村で掃除中だろ」

「けがにんだからむりするんじゃないって言われたんだ。だからぼくあしゅーさんにお礼を言いに来たの」

「アシュールだっての。...まぁいいや。

礼はいいんだ。お前たちを助けられたのは事実だがもっと救えた命がある。あとあいつのやりかけを最後までやりきらなかったからこんな事に」

「それはあしゅーさんがちこくしちゃったってこと?」

「ま、そういう事だ。私は遅刻するやつが嫌いだからな。例えそれが自分でも許せない」

「でもぼくはあしゅーさんのおかげで助かったよ」

「...それは...そうだな...」

「たすけてくれてありがとうねあしゅーさん!また村にあそびにきてよ!」

少年はそういうと村の方に走っていった

「...」

救えなかった命と救えた命。

いつもは前者の方を重く見ていたアシュールだが少年の言葉でその天秤が少し傾いたのを実感する

「おいガキ。何度も言わせんな。あたしの名前はアシュールだ。つーかお前あたしに感謝してんなら名前教えろよ。失礼なやつだな」

アシュールは少年を追いかけながら村に向かっていった


ーーーちなみに1晩かけて終えるつもりだった村の後始末はアシュールを始めとした部隊の活躍によりほんの数時間で終わってしまった








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