第2話 生活魔法
「いやあ、なんとお礼を言ったらいいものか! 本当にありがとう、君は命の恩人だよ!」
おじさんが俺の手を力強く握り、満面の笑みを浮かべている。
その後ろには、魔物の死体が散乱していた。
個体名は『
通常の個体より少し大きく統率力に優れており、牙に致死率の高い毒を持っている。
かすりでもすれば眩暈、麻痺といった症状に襲われ、次に目を覚ますときはあの世だ。
ただし毒を生成するのに体力を使うため冬眠期間が異常に長く、一年のほとんどを洞窟で寝て過ごす。
人前に現れるときは腹が減っているので非常に好戦的っと、昔勉強した知識が役に立った。
「い、いやこちらこそ。道中馬車に乗せてもらったお返しができてよかったです」
「しかしどうやったんだい!? 恥ずかしながら怖くて目を瞑っていてね……君は名のある魔法使いなんだろう? 名前は!? なんていうんだい!?」
「……アレクと言います。恥ずかしながら何の資格もないただの流浪人ですよ」
「またまた!
俺の脇腹をちょんちょんと肘でつつくおじさん。
王都まで快く乗せてくれた良い人で、テンションが高い。
「いやほんと、冒険者の資格すらないんですよ」
その言葉がツボったらしく高らかに笑う。いや、本当なんだが。
「そうかそうか、悪かったねほんと。私は商人をしていてね。この狼の怖さは知ってるよ。A級冒険者のパーティーですら恐れるという話だ。なのに、資格すらないなんて面白い返しだ」
講習すらまだですよといったら更にツボるだろうか。なんて、おじさんの笑顔を見ていたらなんだかホッとした。
命を賭けた戦闘なんて久しぶりだ。でも、思いのほか身体は動いてくれた。
アラサーの俺、まだまだ現役!
「そうだ。良かったらこの狼の素材が私が買い取るよ。相場分でいいかな?」
「ありがたいんですけど、いいんですか?」
「もちろんさ。ちょっと待ってね」
そういうとおじさんはデカイ本で買い取り価格を調べていた。随分と律儀な人だな。
実際ありがたい。俺は冒険者の資格がないので買い取りを頼むと手数料を取られるはず。
その分も上乗せしてくれると考えるとかなり得。嘘はついてないけど、なんだか申し訳ない。
結局、かなりの大金を頂いた。
全財産が心もとなかったのでありがたい。
狼を荷台に乗せて出発。座るスペースがなくなったので前に移動した。
「しかし君の腰に携えているその剣、めずらしいね。長く商人をやっている私でも見たことがないものだ」
「ああ、昔学園を卒業したときにもらったんですよ」
「へえ面白い学校だね。その模様、どっかで見たことあるような……思」
王立学園はまだあるのだろうか。同級生のみんな活躍してるんだろうなあ。
そのとき、ふとおじさんのシャツが破れているのに気づく。
「どうしたんですか、これ」
「ん? ああ、出先で引っ掛けてしまってね」
「良かったら直しましょうか?」
「そんなの命の恩人にさせられないさ! そういえば君は魔法使いなのか? 剣士なのかい? なあに、口は堅いよ」
「良かったら見ます?」
「え?」
そっと右手でシャツに触れる。
『
破れた箇所の糸が伸びて自動的にシャツが元通りになっていく。
「……え、な、これは……」
「『生活魔法』です。便利なんですよね」
「……生活魔法って、え、え? う、嘘だろう? そ、それで私を守ってくれた……かい?」
おじさんは目をまんまるとさせ、鼻を膨らませていた。
生活魔法は戦闘において最弱 使えない、戦えない、殺せない。
って、よく言われてたな。
「……はっははは、ははははは、はははは、私をからかってるんだろう? またまた、もうびっくりしたよ!」
嘘じゃないよ。本当だよと伝えてもおじさんは信じてくれなかった。まあ仕方ないか。
「冒険者といえばSSSランク様が王都に来ていると噂になってたな。王族様のパレードあって、その護衛だとか」
「へえ、確かSSSランクってなれるのはほんの一握りなんですよね?」
「凄まじい功績を残した人に贈られるらしいね。名前は確か……エミリカ様だ。ひと睨みでサイクロプスも震え上がる眼光をしていると聞いた事があるよ。もの強いことでも有名だったはずだ。まさに、君のようにね」
「はは、恐れ多いですよ」
そのとき、ふと思い出す。
学園の同級生、赤髪の
さすがに同一人物なんてありえないだろうけど。
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年末だよ! カクヨム10だよ! 新作投稿だよ!
おっさん天才冒険者が無双するお話です。
基本的にストレス展開はないように書きたいです。
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『たった一人で前線を止めていた俺に「役立たずが」だって? もういい。俺は好き勝手に生きて可愛い嫁を探す旅に出させてもらう。え、なに、俺って他国から狂乱のバーサーカーって呼ばれてたの?』
https://kakuyomu.jp/works/16818093090526914133
遅咲きの天才おじさん冒険者、最弱の『生活魔法』で世界最高の大賢者と呼ばれるまで。 菊池 快晴@書籍化進行中 @Sanadakaisei
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