遅咲きの天才おじさん冒険者、最弱の『生活魔法』で世界最高の大賢者と呼ばれるまで。
菊池 快晴@書籍化進行中
第1話 遅咲きの天才おじさん冒険者
「アレク、いつもありがとうねえ。ほんと……ごめんね」
「気にしないでよ婆ちゃん」
婆ちゃんは腰が弱くて外に出ることはほとんどない。
介護を初めて数十年。後悔はしていないが、 心残りがないといえば嘘になる。
「もう……いいのよ。私はねえ、十分生きたわ。アレク、あなたのおかげ。夢を追いかけなさい」
「何言ってんだよ。まだこれからだろ」
婆ちゃんは肺が悪い。唯一の治療は、魔力の薄いこの山で暮らし続けること。
だからずっと傍で面倒を見ていた。
ベッドの上、婆ちゃんは上半身を起こして、俺の腕を掴んだ。
「アレク、聞いて」
「どうしたんだよ。改まって」
「……今まで本当にありがとう。あなたは自慢の孫だわ。私はね、凄く幸せだった。でも、これからは自分の人生を生きて」
俺の夢は『
10代は王都の学校に通っていたが、両親が流行病で亡くなって、残された婆ちゃんの介護のために故郷へ戻ってきた。
俺はもうアラサーだ。
心残りがないといえば嘘になる。でも、故郷も婆ちゃんも好きだったし、誰かに任せることもしたくなかった。
すると婆ちゃんが咳をした。背中を叩こうとするも、首を横に振られる。
「あなたは凄い魔法使いだわ。何よりも心が美しい。私の最後の願いよ。お願い、自分の夢を追いかけて」
「……いつかね」
「……ふふ、ありがとう」
翌日、婆ちゃんは安らかに寿命を全うした。
埋葬を済ませてガランとした家、枕の下に手紙があった。
婆ちゃんからだ。
そこには、私のせいでごめんなさい。でも、あなたなら大丈夫。信じているわ。
偉大な魔法使いになって。
と書かれていた。
思わず涙を流す。
……そうだな。婆ちゃんは自分の人生を生きた。
これからは、俺も、俺の人生を生きよう。
残った家は村長さんにお任せした。
これからこの集落がどうなるのかはわからない。それでも、村長は任せておけと胸を張った。
「アレク、気を付けるんじゃよ。きっとお主なら偉大な魔法使いになるじゃろう」
「ありがとう。でも、俺はもう世間的におじさんだからな。期待しないでくれ」
「千年に一度の『神童』が何をいっちょる。王都をにぎやかしていただろうに」
「何年前の話だよ……でも、ありがと。頑張るよ」
ここから王都までは二週間ぐらいか。
めちゃくちゃ久しぶりで緊張するな。
ふうと深呼吸する。
これからは自分の人生をたっぷり生きる。誰のためでもない、自分の人生をだ。
まずは冒険者の資格を取得して、昔の勘を取り戻すとするか。
って、そういえば王都の冒険者講習って半年に一度しかないんじゃなかったっけ……。
「ほらアレク」
「え、なにこの手紙って、講習の申し込み!? いつのまに!?」
「婆さんだよ。死期を悟ってたんだろうな」
「……そっか、ありがとう。じゃあ頑張ってくるよ」
さて、これから頑張るか。
でも今も通用するのかな。
俺の『魔法』は……。
◇
王都ヴェルドミール。
冒険者ギルド内部で、赤髪の女性が冒険者講習リストを眺めていた。
そこの一人の名前で、手が止まる。
「アレク……」
「どうしたんですか、エミリカさん」
隣で首を傾げたのは、メガネをかけた青髪、ティアだった。
胸元には、冒険者ギルド受付と書かれている。
「いや、昔馴染みの名と同じで驚いただけだ。まあ、ありえないがな」
「ありえない? どういうことですか?」
エミリカは少しだけ意味深な笑みをこぼす。
「ウィルソン王立魔法学園を知っているか。私の母校だ」
「そんなの当たり前じゃないですか! 王都で知らない人はいないですよ。由緒正しき貴族学園。伝説の剣士や偉大な魔法使い、名だたる偉人の皆さんが卒業した学園じゃないですか! 皆の憧れですよ!」
「そこにアレクという同級生がいたんだ。王都出身でもない、聞いたこともないような田舎の出で、爵位すらなかった」
「え? ウィルソンって貴族様しか入学できなかったんじゃないんですか?」
するとエミリカが「ああ」と返す。
「例外が一人いたんだ。すべての学科試験、実技で満点を取り、名だたる教員を無理やり納得させた男がな」
「満点って……そもそも試験、めちゃくちゃ難しいって話じゃないですか!? もしかして、この人がそのアレク……さんだったんですか?」
「そうだ」
「えええええええ、じゃ、じゃあ、このアレクさんってめちゃくちゃ凄い人じゃないですか!」
「だが偽物だ」
「え、なんでわかるんですか?」
「アレクは学園を卒業した後、すぐに姿を消した。誰も行方を知らない。そんな奴が今さら冒険者になるなんてありえないだろう」
「……事故で亡くなっちゃったとかなんですかね。それか、優秀すぎて殺された……とか」
「それはない。あいつを殺せるやつなんて存在しないだろう。――私でもな」
それに対して、ティアが笑う。
「冒険者ギルド始まって以来の誰も到達できなかったSSSランクのエミリカさんがそこまでいうなんてどんな魔法を使っていたんですか? わかった! レベル5とか!?」
「いや、レベル1の『生活魔法』だ」
「……え? セーカツ級? なんですかそれ」
「生活魔法だ。火を出したり水を出したりできるが、すべてが生活に基づいただけの大したことのない魔法だ。知ってるだろう」
「……冗談ですよね? それで戦えるんですか?」
「常勝無敗だったよ。どんな凄い能力を持った魔法使いも、剣士も、アレクには勝てなかった」
「……アレクさんって、凄すぎませんか?」
「昔の話だ。しかしたまに今でも思う。アレクが王都にいたら、常に話題の中心だったんだろうとな」
同時刻、ゆらゆらと馬車に揺られた田舎の出のアレクは――寒空の下『生活魔法』の小さな火で暖を取っていた。
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年末だよ! カクヨム10だよ! 新作投稿だよ!
おっさん天才冒険者が無双するお話です。
基本的にストレス展開はないように書きたいです。
ぜひとも、期待をこめてフォロー&☆☆☆で応援をお願いします!
ほかの新作もよろしくお願いします。
『たった一人で前線を止めていた俺に「役立たずが」だって? もういい。俺は好き勝手に生きて可愛い嫁を探す旅に出させてもらう。え、なに、俺って他国から狂乱のバーサーカーって呼ばれてたの?』
https://kakuyomu.jp/works/16818093090526914133
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