解決編

 二学期の期末テストの最中に、それは起こった。


 俺は奴にトイレに呼び出され、金を要求されたけど、無いと言ったら酷く痛めつけられた。


 テストどころではなくなって、俺は早退した。殴られた腹を押さえて、腹が痛くなったので早退すると先生に言って教室を出た。


 家には昼間、ばあちゃんしかいない。親父は会社で、お袋はパートに出てる。弟は学校だ。


 早退して帰って来た俺を玄関で迎えたばあちゃんが、何か察知したようだった。


「腹が痛いんで早退した」

 俺はそう言って、すぐに二階の自分の部屋に入って鍵を閉めた。


「何かあったんやろ?」

 廊下からばあちゃんが問いかけて来た。


「別に」

「嘘言いなさい、ばあちゃんすぐ分かるんよ」


「腹が痛いだけや」

「話してくれるまで、ばあちゃんここから動かんよ」


 ばあちゃんはどうも、この頃の俺の様子がおかしいと、とっくに気づいていたようだった。


 それからまるまる三時間、ばあちゃんは俺の部屋の前の廊下に座って動かなかった。寒い時期だったし、膝が悪いので正座は辛かったろうに。


 何があった、なんでもねぇの押し問答に加え、初孫の俺をどれだけ大事に思ってるかだの、小さい頃こんな事やあんな事があっただの、ずっとばあちゃんは話し続けた。


 根負けしたのは俺の方だった。負けず嫌いなばあちゃんは、絶対に折れないだろうと思ったからだ。


 ばあちゃんに、全部話した。

 恐喝されていることも、殴られたことも、全部。


 ばあちゃんはすぐに親父の会社に電話して、親父が学校に電話して、全てが明るみに出た。


 親父は会社を早退して帰って来た。お袋も。


 その夜、奴とその両親とクラス担任がウチにやって来た。


 奴の両親と先生は、平身低頭して謝った。奴は不貞腐れていたが、親に頭を押さえつけられて仕方なく謝ったって感じ。


 そう、よくドラマで見るあの光景だ。あんな奴でも親は怖いのかと思った。


「少年院でもどこでも行かせます」

 奴の母親がそう言うと、


「どこの世界に自分の子どもを少年院に入れたがる親がおるね! 馬鹿を言いなさい」

 ばあちゃんが、奴の母親を頭ごなしに叱った。


 もちろんばあちゃんは可愛い孫がイジメられて怒り心頭だっただろうが、奴の母親の愚かな発言にカチンときたのだろう。ばあちゃんはそんな人だ。


 で、警察沙汰にはしない事になった。正直俺としては、奴に厳しい罰を下して欲しかったけど。


 しかし、

「お前、俺の息子を殴ったんやな」

 俺の親父が、奴に向かって言った。


「なら、俺にもお前を殴らせろ」

 普段無口な親父からそんな台詞が出てくるとは思わなかったので、俺は心底驚いた。ちょっと見直したし、なんか嬉しかった。


「どうぞ殴ってください。気が済むまで」

 奴の父親が言った。


 そこにまたばあちゃんが口を挟んだ。


「○ちゃん(親父の名前)、待ちなさい。アンタは会社員や、社会的な立場がある。人を殴るのはまずい。殴るなら私が殴る!」


 そう言い放つと、立ち上がって奴が座ってるとこまで行き、平手打ちを一発かました。バチーンという小気味いい音が客間に響いた。


 こうして、俺のイジメられ人生は終わりを遂げた。


 奴は謹慎を喰らって、内申点も悪くなり、私立高校には合格出来なかった。


 俺は、高校で柔道部に入って身体を鍛えた。二度とイジメられないように。笑うなよ。本気だったんだ。


 ばあちゃんには未だに頭が上がらない。


 俺のばあちゃん、最強!!!


 了




【あとがき】

 これは私の親戚の子に起きた実話です。作中の『俺』は、もう結婚して、二人の子どもにも恵まれてますが、どうも家族の中の地位は最下位のようです(笑)


『ばあちゃん』は昨年、あの世に召されました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【カクコン参戦】俺のばあちゃん最強説 七月七日-フヅキナノカ @nyakosense

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画