だって黒だもの
「全身は真っ黒でも、羽織るものは色が違うとかでもいいかなあ?」
ブラックサンダーがワクワクしながら布を選ぶが。
「だったらボディカラー変えりゃいいだろ」
怪人の最もなツッコミに一瞬黙り込む。
「いや、俺たちはブラックがいいんだ。黒が一番かっこいいから黒にしたのに、羽織るものに色つけるなんて言語道断だよな!」
「そうだ、俺たちは何色にも染まらない漆黒を選んだ!」
「じゃ、黒な。せっかくだからちょっと形もアレンジするか。マント以外に他の装飾も作ってやるよ、ヘルメットにちょっとつけるぐらいなら大丈夫だろう」
そう言って目にも止まらぬ速さで次々とマントを作っていく。
「ちなみに気になってたんだけど。お前らなんで四人しかいないの? 普通五人だろ」
「いや、誘ったんだけど。黒はやりたくないっていう話で、でも他の四人が全員黒って何か気持ち悪いからやだって言われちゃって喧嘩別れした。あいつ最悪だ」
「そいつ何も間違ったこと言ってないからな?」
「えー」
ちなみにそいつはイエローがやりたかったのだそうだ。五人揃っていたらカラーリングミスったトラテープもいいところだ。何故レッドがいないのか。
「ほいできた」
「ありがとう!」
ウキウキしながら受け取った。背中に羽織ってキャッキャと喜んでいる。
「とりあえず新しい格好周知してもらうところから始めてみろよ。他の活動してからまたここに来い」
「おう、ありがとうな!」
決着はつけずに四人は嬉しそうに自分たちのアジトに戻っていった。それを部下たちが全員手を振って見送る。
【隊長】
【おう】
【あれゴキブリですよね?】
【うん】
作ったマントは虫の羽のような形をしている。走るとひらひらとよくなびき、ヘルメットにつけた二本の長い紐は完全に触覚である。殺虫剤のCMに出ていいくらいだ。
【嫌がらせのつもりだったんだけど。あいつら誰も突っ込まないから完成させちまった】
【怒って襲撃してきますかね】
【どうかなあ。気づかず走り回って炎上するのが先じゃないか。まあいいや昼飯食おう、今日は広島風お好み焼きだってさっき言ってた】
わーい、と全員手を挙げて喜び基地に戻っていった。みんなで仲良くいただきますをしたところで、遠くの方から大爆音が聞こえた。見ると黒い影が四つ吹き飛ばされている。ミサイルや飛び道具など追加攻撃もされているようである。
【わあ、本当に炎上しましたね】
【炎上、って言っていいのかなアレ】
ちょっと悪い事したかなと思ったが。いや普通わかるだろと思い気にしないことにした。
怪人、深淵のノワール。「ノワール」がたまたま黒という意味であり、実は素顔がけっこうなイケメンであり。カッコいい必殺技があり仲間思いなことから、ヒーロー追加人員ではないかという噂が広がった。
私設組織ヒーローがとんでもない数がいること。敵から仲間になってくれる胸熱展開を求めて、全てのヒーローがノワール争奪戦をすること。
この二日後宇宙船を壊されてしまい帰れなくなったノワールたちが、日本中のヒーローに追い回されることになることを。
広島焼きに舌鼓をうつこの時のノワールは、まだ知らない。
ブラックヒーロー aqri @rala37564
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