黒いヒーローは苦労が多い、黒だけに

 怪人はポケットからペン型の修正液を取り出した。そして一人の鎧にぐりぐりと何かを描いていく。


「やーめーろーよー!」

「動くなズレる」


 真剣な様子の怪人。ピリピリした緊張感に部下たちは固唾をのんで見守っている。それにつられてブラックたちもおとなしく見守った。そうして完成した。


「な、QRコード!? しかも完成度高い!」

「白地に黒で描く人はいるが、黒地に白で描くとは!」

「地球着くのに二か月もかかるから、暇つぶしにやってたら習得したのだ!」


 怪人が自分のスマホを取り出して読み込ませる。すると自分たちの組織のホームページにジャンプした。


『地球の支配を目指して、日々前進、精進、愚直に邁進!』


「俺を広告媒体にしただと!?」

「ふははは! 敵の広告をしなきゃいけないとはご苦労なことだ。渋谷のスクランブル交差点で信号待ちしたらどうなるかな?」

「!? た、大変なことになる!」


 絶対SNSにあがるし、みんなコードを読み取りまくる。想像するだけで腹立たしい。そもそもそんな格好でスクランブル交差点なんて行かなきゃいいのだが。


「ちなみに愚直、の後なんて書いてあんの?」

「ググれボケ。あのさあ、お前らちゃんとやる気あるの? 俺怪人なんだけど。地球支配しようとしてんだけど」

「当たり前だ! 他の怪人はちゃんと倒してきた!」


 一応実力はあるらしい。が、やっぱり問題ありだ。


「個性がないの致命的だろ」

「一人一人ちゃんと名前が違うぞ!」


 だから見た目で区別つかないんだって、とツッコミが喉まででかかったがとりあえず聞いてみる。


「出た時に名乗りながら出ろよな。じゃあ左からどうぞ」

「おう! 俺はブラックサンダー!」

「それはだめ。美味しいから好きだけど怒られるぞ」

「雷かっこいいのに。じゃあブラックタイガー」

「それはエビだろ。ブラック抜きで名前だけにしろや」

「え、じゃあ俺何?」

「知るか、ライトニングでいいだろ」

「何それ?」


 本気でわかっていないらしくキョトンとするチョコ菓子野郎に、怪人は部下が走って持ってきてくれたピコピコハンマーで頭を引っ叩いた。


「あ痛!」

「何で雷はわかるのに稲妻は知らねえんだよ。ブラックは馬鹿だと務まらないからな、知的でクールだから。勉強しろ」


 そう言うと怪人は指でちょいちょいと合図する。すると部下の一人が走ってきた。黒い雷神が受け取ってみると、それは一冊の本だ。タイトルは「いちねんせいになるみんな! えいごであそぼ! 創刊号」


「舐めるな、俺は二十三歳だ!」

「知能レベルがそれくらいだって言ってんだよアホ」


 ピコン、とハンマーで叩かれた。


「次」


「俺は、シャープゼ――」

「000000のカラーコード禁止な、RGBも」

「え、あの」

「で?」

「ちょっと別のカラーコード探していい?」

「だからカラーコードはいいんだよ、良い子のみんなには通じねぇだろ」


 スパーン! と腰に思いっきりハリセンで一撃入れた。「きゃん!」とオネエのような裏声で悲鳴をあげる。


「俺はつるばみだ!」

「ああ、日本の伝統の黒?」

「し、知ってるだと!?」

「以降、日本伝統色は禁止」


 その言葉につるばみは体をびくりとふるわせた。


「普段見聞きしない日本語は厨二病世代じゃないと刺さらないってばよ。応援してくれるのちびっこだろ」

「あ、はい」

「もうちょっとファンの気持ちを考えて名前考えろ。檳榔子びんろうじとか呂色とか、幼児たちが嬉々として呼んでくれると思うか」

「お、俺より詳しい!」


 がっくりうなだれる橡をほっといて、最後の一人をみた。


「一応聞いておこうか、お前は?」

「黒田レオ」

「あ、なんかまとも?」

「オレ黒だ、を並べ替えた」

「審議タイム入ります」


 怪人は部下たちのもとに走るとひそひそと何かを相談する。そして戻って来た。


「かろうじて許す」

「え、そんなギリギリなの?」

「ファンがちびっこじゃなかったらぶん殴ってるところだった」


 ちびっこだからこそ物の名前そのものだったり、並び替えただけと言うのはセーフだ。しかもなんやかんや一番かっこいい気もする。


「とりあえず黒一色って何かこう、視界がうるさいっていうか色彩の暴力っていうか。画面が締まりすぎてなんかちょっと変なんだよな。わくわくが足りない」

「うう」

「何かもうちょっとおしゃれアイテムでもつけたら。知ってるか? 初代のレンジャーはマントつけてたんだ」

「え、そうなの?」

「しかも当時黒はいないから被らんぞ」

「そうなのか!」

「いやお前は知ってろよ」


 キョトンとするおいしさイナヅマ級。どうやらあのお菓子の由来を知らないらしい。ピコハンで叩いておいた。

 それはともかく昔懐かしい五人のレンジャーの映像を見てみると確かに。着ているものはとてもシンプルでマントをなびかせている。ちょっと動きづらそうだが。


 その会話で何かを察したらしく、部下たち数人が急いで基地に走って戻り何かを持ってきた。ミニテーブルをテキパキと組み立ててミシンを置く。その横に何か入った段ボールを置いた。


「しょうがねぇな、俺古着のリメイクが趣味だからお前たちに何か作ってやるよ」


 段ボールには様々な色の服や布の切り落としが入っている。ちなみに部下の服も怪人の手作りである。

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