ブラックヒーロー
aqri
怪人だ!
「ふはははー! 世界征服だ!」
とてもわかりやすい一言で部下に命令をしてそこら辺を荒らし回る怪人。ヤギの頭蓋骨のようなものをかぶっていて、不思議な力で町を攻撃していく。
戦闘員たちは、「イー!」とどこかで聞いたような叫びをあげて悪事を働く。種類別に陳列されたドラッグストアの商品をぐちゃぐちゃに混ぜたり、特に渡るつもりもないのにボタン式横断歩道のボタンを押したり。丁度信号で止まってしまった配達中の某イーツの人に写真をせがまれて一緒に記念撮影したり。
するとどこからか、かっこいいBGMが鳴り始めた。
「きたかレンジャーめ。地球の日本という国を襲うと、五色のよくわからん連中が喧嘩を売ってくるのは予習済みだ!」
悪の組織の先輩たちから散々忠告された。仕事しようとすると五人組が多勢に無勢でボコボコにしてくるから気をつけろ。巨大化するとあいつらロボット出して合体してすごい必殺をだしてくるから気をつけろ、と。過去のヒーローものは復刻版ディスクボックスで視聴済みだ。
こっちは勇ましく一人で挑んで巨大化した時は生身なのに、あいつら多人数でロボット乗ってやがるし卑怯だよな。そんな愚痴を家族から聞いて育った怪人にぬかりはない。
怪人たちはさりげなく空き地に移動する。町中でロボット呼ばれたら被害拡大して困る。 ※支配したら後片付けするのは自分たちだから
「さあて、じゃあ登場シーンぐらいは見てやるか」
「ブラックレンジャー、見参!」
どーん! と色のついた煙が爆発するが、それは全て真っ黒だ。なぜなら現れた四人は全員黒である。
怪人は無言のまま早足で近づき、決めポーズをする四人のレンジャーの頭をハリセンで引っ叩いた。
「ポーズ決めてる時は乗り込んで来ちゃだめだろ!」
「イカスミが大爆発したみたいになってんだよ! 他の色どうした!」
「全員黒が被った、だって黒が一番かっこいいから」
他の三人も口々に俺が黒、いやいや俺が黒なんだと言っている。色は自己申告制らしい。
「区別つかねぇわ、どれが誰だよ」
「だからちょっとだけ格好違うだろう。肩当てとか、ブーツとか」
確かに微妙に違って見える。だがしかし。
「海外製のパクられた偽物にしか見えねえよ。ご当地ヒーローの方がまだかっこいいぞ。秋田県行ってこい」
ぐぬぬ、と悔しそうなレンジャーたち。怪人がハンドサインのような合図を送る。すると部下が何か持って走ってきた。その手にはジョウロが握られている。
ブラックたちの足元に水をまいて水たまりを作った。その上に怪人が思いっきりジャンプをすると泥水が全員に跳ねる。
「ぐわああ!? き、汚い!」
「金属製の黒って白と同じくらい汚れがめちゃくちゃ目立つ色なんだよ。お前ら車で黒い色がなんで人気ないのか知らねぇの?」
「知ってるけど! わざとやるなよ性格悪いな!」
「怪人だからな。やーいきったねーみっともねー、洗車機行ってこい泥んこどもめ」
悔しがるブラックたちを尻目に再び何か別のハンドサインをすると、エプロン姿の部下が一人走ってきた。どうやら昼食を作っている途中だったらしい。怪人に何かを手渡す。
コンコン、ぱかっ。じゅー。
「あ、やめろよ俺の
「100円ショップに売ってるミニフライパンにしか見えん」
「地味に傷つくこと言うなよ!」
ちょうど腹減ってたんだよと言って醤油もかけた。醤油の焦げる良い匂いと、じゅーと美味しそうな音がする。
「やめろって落ちなくなるだろ!」
「動くな、目玉焼き落ちるだろうが! 卵一つさえ食べられない子がいるのにヒーローが食べ物無駄にするのか!?」
「う!」
固まったヒーローをほっといて、怪人は焼き上がった目玉焼きを美味しそうに食べる。焦がし醤油がとても良い仕事をしている。ちなみに怪人は黄身硬焼き派である。
「汚れた! クリーニング代よこせ!」
「クリーニング屋さんに迷惑かけんな、防具は対象外だ」
「落ちなかったらどうすんだよこれ!」
「そのまま焦がしとけよ、どうせ黒だから目立たないだろうが。重曹つけて磨くかお日様に当ててぱりぱりにすると落ちるからほっとけ」
すると仲間のブラックたちが一歩前に出る。
「防具を汚すとは許さん!」
「結構お金かかってるんだぞ!」
「毎日磨いてるのに!」
「知るか、黙れブラジャーども」
「妙な略し方するな!」
「すっごい傷つく!」
令和のヒーローはメンタルがわたあめ並らしい。部下たちがそれに気づき、ひそひそ何か相談し始めた。
「イー!」
部下が怪人に何かを提案したようだ。ブラックたちには「いー」にしか聞こえないので会話の内容はわからない。それを察したらしく怪人はきちんと解説をしてくれた。
「みんなで卵を投げつければこいつら泣きながら帰るんじゃないかって言ってる」
ブラックたちはぎょっとして二、三歩後退った。はっきり言ってそれはショックで三日間寝込むレベルだ。
「あいつらにも言ったけど、食べ物を粗末にしちゃいかんぞ」
「イー……イー!」
「わかればよし」
頭を撫でられまんざらでもなさそうな部下。一体何を見せられているのかよくわからないが、とりあえずめっちゃ仲良しさんということはわかった。ちなみにエプロンつけた部下はアジトに戻っていった。
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