【悲報】ヘラジカのワイ、サンタにトナカイと間違えられた結果
白神天稀
【悲報】ヘラジカのワイ、サンタにトナカイと間違えられた結果
ジジイ、プレゼント配るより早くメガネを新調しやがれ。この頭メリークリスマスが。
俺が初対面のサンタクロースに思ったことはまずそれだった。
「ホウホウホウ、これは良かった。トナカイたちが半分以上倒れてしまった時はどうしたものかと思ったんじゃが、こんなに大きなトナカイを見つけられるとはの」
言葉は伝わらないだろうが何回でも言ってやる。俺はトナカイじゃない、ヘラジカだ。
何百年サンタしてんだアンタ。三倍以上デカいのに俺をトナカイと間違えるってどうなってんだよ。
「いや~トナカイたちの小屋でマイコプラズマが流行ってしまって、困ったものじゃ」
北極にもマイコプラズマあんのね、知らんけど。ちゃんと定期健診連れてってやれよ。
いやそんなことどうでも良い。問題は今、トナカイに間違われて俺が働かせられそうってことだ。ふざけんじゃねえ!
こっちは冬で飯もロクにない中で腹減ってるってのに、なんで無給労働しなきゃなんねーんだこの野郎!
世界中でクッキーやらコーラの貢物があるサンタクロース様と違って、こっちは立派な野生動物なんだよ。クリスマスのこと考えてる余裕ないの!
「ホウホウ、空腹で荒れておるんじゃな。ほれ、ニンジンがあるぞ」
……ほう?
「手持ちはこれだけじゃが、拠点に戻ったらたんまり食わせてやるからの。それまでの我慢じゃぞ。ホウホウ」
……ほうほう?
※
……ってことで、サンタにホウホウ、じゃなくてホイホイ連れてかれて、俺は今北極の餌小屋にいる。故郷の仲間達、同窓会には行けないみたいだ。
けどニンジンうまっ。
「ホウホウホウ!」
それにしてもサンタの爺さん、いっつも笑ってんな。横にいるエルフの部下の人、こんだけ笑ってて変だとか思わないのかな?
「サンタの旦那、今日も咳酷いですね」
「ホウホウホウ! 最近は薬飲むのが面倒でな」
「ダメですよちゃんと飲まないと。喘息の発作出たままだとソリで事故っちゃいますよ?」
あれ全部咳だったのかよ。キャラ付けのための笑い声じゃなかったわ。マイコプラズマ流行ってるみたいだからお大事にな。
それにしても、あと少しで配達時間らしいけど、サンタも妖精連中も慌ただしいな。まあ世界中に年一でプレゼント配る仕事だししかたないか。
呑気してんのなんて、横で餌食ってるトナカイのコイツらぐらいなもんだろう。
『あ、ニンジン余ってたら俺にも分け……ぬあ!? あ、アンタ何者だ! こんなでっけートナカイ初めて見た』
北極の寒さでここの連中は眼球壊死してんのか?
トナカイまで同種と見間違える俺は何なんだ? 自分をヘラジカだと勘違いしてる一般通過トナカイだったのか?
『この時期に新入りなんて、運がなかったなお前さん。小屋のやつらは一年前から計画してたらしいからな。まんまとやられたぜ』
ん、計画していた?
『その顔、まさか知らないのか? トナカイたちがマイコプラズマになったって話』
ああ、そういえばそんなことをサンタの爺さんが言ってたな。
『あんなの嘘に決まってんじゃ~ん。北極の寒さにあの細菌耐えれるワケないって』
は?
『演技だよ。全員仮病使ったの。だから今年は馬力の低い俺ら二軍が駆り出されたってわけ』
く、クソトナカイどもがああああああああああああああああああ!!
は? 待て待て、めっちゃ腹立ってきた。あっちの小屋でグロッキーになってる連中、全員演技なの? サボってるだけなの?
あ、病気のトナカイ小屋から光漏れて――野郎! YouTube観てんじゃねえかッ!! それもトナカイの交尾特集やってるナショ●ルジオグラ●ィック!!!!
AV観てんじゃねぇよクソがこっち来やがれクソが!!!!!!
「さて、そろそろ時間かのう」
オイジジイ! あいつらサボってるだけだって!!
「ホウホウ、やる気満々じゃのう」
止まれジジイィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!
※
の、抵抗虚しくソリとロープで繋がれたわけですわ。クソったれ、先頭じゃねえか俺。
「サンタの旦那。こちら管制塔。滑走路にいじょうありません」
「ホウホウホウ、了解じゃ」
ん、滑走路? 飛行機みたいなノリ? まあソリで空飛ぶし、飛行機みたいなノリなのか……
『ハッピークリスマスエナジー装填、エンジン駆動開始、制御システムオールオーバー』
え、え、なになになに、何が始まろうとしてんの?
ソリからめっちゃモーター音聞こえてくんだけど。スマホのAIみたいな女の人の声もスピーカーで聞こえてくんだけど。今のサンタってこんなDX進んでんの!?
『ステルス機能解放、時空歪曲装置ロック解除、光速突破システム起動』
オーバーテクノロジーオーバーテクノロジー! 魔法じゃなくて科学力で配送してんのサンタって!? もう技術の方を大人にプレゼントしてやれよ! そっちの方が多分喜ばれるって!!
『全世界の子供たちへプレゼント配達時刻』
ああもういいや、さっさとやってくれ。
「さあ、今年も一晩で配り終えるぞい。気合いを入れるんじゃぞ、トナカイたち」
『無限の空へゴー。メリークリスマス』
んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!?? なん、これ、風圧やっば!! 目玉飛ぶ目玉飛ぶ!!
「一応お前たちにも説明するが、この時空を歪めるシステムとお前たちの走力でプレゼントは世界中の子供たちに届けられるんじゃ」
狂気だよもはや、この仕事。
「優雅に空を舞っているサンタのイメージは多いが、あれは残像じゃ」
扇風機と同じ原理で何気にショックなんですが。ヘラジカの身ですけど。
「そしてある程度の速度に到達すれば重力が歪み、並行世界との境界が曖昧になり、他のサンタたちが配達を手伝ってくれるんじゃ」
待て待て待て待てとんでもないこと言い出したぞサンタ!
クリスマスの度にパラドックスとかドッペルゲンガー現象起きてたのかよ!?
「事実に矛盾が起きないことは確認済みじゃ。ラストスパートまで耐えるんじゃぞ」
いいからもう、早く配ってくれ。ステルス戦闘機に乗ってる気分が続くの苦痛なんだわ。
「ちなみにシステムの制御圏外に出ると光速に耐え切れず体が焼け消えるから、くれぐれも注意するんじゃよ」
こええええええええええええええええええええええええ!!!!
※
は、はっ、はぁっ、終わった。死ぬかと思った……こんな仕事、割に合わん。三百六十四日が休みな理由分かったわ。トナカイお前らご苦労だな。
ってか、サンタが一番ヤバいわ。途中でソリから飛び降りて数百メートル下の家の中に入って行くし、煙突ない家はピッキングで無理矢理侵入するし、光速以上の速さのソリにジャンプして戻って来るし。
もうサンタだけで良いじゃねえか! 絶対ソリそこまで要らないだろ!!
だって平原とか、ソリに並走してる時何回かあったし。
「さあ、来年からは一軍として頑張っておくれよ。ビッグトナカイ隊長」
こんなバケモノサンタと来年も配達すんのかよ。良いから早く自然に戻してください。
そして仮病使ったトナカイども、あとでお礼参りするからニンジン持って待ってろよ。
とりあえず、疲れたから小屋戻るけどさ。もう一生分ニンジンくれよ。
それと一応、メリークリスマス……
【悲報】ヘラジカのワイ、サンタにトナカイと間違えられた結果 白神天稀 @Amaki666
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます