第2話

ダンジョンに入って数時間が経った。


「大丈夫かい、佐々木くん」


「はい、おかげさまで」


俺を気にかけてくれる寺田さん。


俺たちは、順調にモンスターを倒しながらダンジョンを進んでいた。


目立つ負傷はしていないが、モンスターとの戦闘や移動で体力を徐々に奪われている。


「あと少しで目標の五百体に達する。許されている時間内までに倒しきろう」


寺田さんはこれでも俺のペースに合わせて進んでくれている。


こんだけ気遣ってくれてるのに、俺がこんなところでへばってちゃ顔が立たない。


「水が欲しい方、お渡しします」


「水くれー」


「オレも頼む」


リュックから取り出した水を欲しい人たちに配っていると、今回参加しているメンバー同士が小さな声で会話をしているのを耳に届いた。


「なんで一般人が探索者やってんだ?」


「さあ。足手まといにもほどがあるぜ」


「あれで金が貰えんだから楽なもんだよな」


「言ってやんなよ」


「まるで金魚の糞だな」


そんなコソコソ話が階層を跨ぐにつれて増えていた。


今に始まったことじゃなく、今まで参加してきたパーティにも一人や二人、俺の陰口を言うやつはいた。


だが彼らの言っていることは何も間違っちゃいない。


この世界に身を置くうちにそんな陰口は俺にとって日常茶飯事で、気にすることはなくなったが、いい気分はしない。


「次の層からは敵の数も多くなる。そこで終わらせるとしようじゃないか」


「っしゃ、やるか!」


「もう少し酒注入してくればよかったっす」


休息も束の間、俺らは上の階層への階段を登る。


階層を移動するにはフィールドに存在する階段か、中層以降のフィールドになると転移式移動になると言われている。


上の階層は今いる洞窟のようなフィールドではなく、もっと自然的なフィールドが多いとされ、まるで別世界のような場所らしい。


俺には縁のない話だが、いつか俺もそんなフィールドまでいけるような探索者になりたいと強く思う。


「まあ、無粋な夢だよな」


階段を登りきると、一見同じ場所に来たかと見まがうが、間違いなく別の階層だ。


なんの能力も持たない俺でさえ感じる、モンスターの忌々しい程の気配。


その気配が強く感じるのが証拠だ。


「なんか、いつもより雰囲気が違いませんか?」


そんなことをメンバーの一人が寺田さんに呟いた。


確かに、俺はこの階層まで足を運ぶのは久しぶりだが、こんなにひりつく程不気味な雰囲気を肌に感じるのは初めてだ。


それは寺田さんも感じているようで、険しい顔をしながら言う。


「もしかしたらがいるのかもしれんな」


はぐれモノ。


それは滅多に起きないことだが、別の階層のモンスターが下の階層に迷い込むことがある。


迷い込んだモンスターを通称、はぐれモノと呼び、出くわしたらなるべく戦闘は避けた方がいいとされている。


今日に限って運が悪い話だ。


「本来なら引き返すべき事案だ」


寺田さんが俺らの方を向き、言葉を連ねる。


「だが、この場に集まる私たちが協力すれば勝てない相手ではないと判断している。どうだろうか、私たちでこの先に居るはぐれモノを倒して今日一デカい山を狙ってみないか?」


寺田さんは本気だ。


負けるだなんて微塵も思ってない、そんな顔で俺たちを説得している。


「危険すぎる・・・でも、寺田さんがそういうならオレもその話、乗りやす!」


「二人の力添えがあるなら、はぐれモノなんて怖くないです!」


「やってやろうぜ!」


やる気に満ちた声が飛び交い、いつの間にか全員が感化されてる。


俺ができることなんて、精々見てることしかできないだろう。


だが、ヘイトを買うことぐらいならできる。


金魚の糞だとなんだと陰口を言われようが、少しでも貰える金が増えるなら・・・。


「俺も・・・戦います!」


そんな俺を見て、寺田さんは軽く微笑む。


「みんながやる気になってくれてうれしいよ。力を合わせて倒そうじゃないか!」


寺田さんを筆頭にしてやる気に満ちたレイドメンバーは奥へと進んでいく。


D級探索者の寺田さんと大塚さんがいるから、よっぽどのことがない限り失敗することはないだろう。


なのに、嫌な予感が頭によぎるのはなぜだろうか。


不穏な気配が拭えないまま、俺たちははぐれモノを目指して歩き続けた。

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