ソロライブ
少年
第1話
ダンジョン。
それは俺が生まれるよりも前に世界に突如として現れた巨大な塔。
中には危険な存在であるモンスターがいるが、ダンジョンによってモンスターの脅威さも変わってくる。
ダンジョンには階層が存在し、ダンジョンレベルも設定されている。
上に行けば行くほどモンスターは強くなり、周囲難易度は上がる。
そんなダンジョンを攻略する探索者がいる。
ダンジョンのモンスターを倒して報酬を稼いだり、ダンジョンに挑む者たちを探索者と呼び、俺も探索者として活動している。
だが、最前線で戦うような立派な探索者ではなく、モンスターの剥ぎ取りや荷物持ち、時に初心者探索者へのレクチャーなどの雑務のような仕事がほとんどだ。
俺は他の探索者のような人並み以上の身体能力を持たない、人並みの人間だ。
例え一番雑魚のモンスターが相手でも、ギリギリ勝てるぐらいの力しか持たない。
ダンジョンの中は非常に危険だ。
モンスターと同様に危険なトラップが潜んでいたり、探索者同士でのいざこざは日常茶飯事。
弱いやつほど危険を心して挑まないと足元をすくわれてしまう。
場合によっては殺し合いもあるような世界だ。
俺が危険も承知で探索者を続ける理由は、両親が残した借金を返済する為だ。
何の力も持たない俺が探索者で金を稼いでいるのは、探索者になれば仮に死んだ時の労災が手厚く保証され、一般的な短期バイトなんかよりも稼げるからだ。
だが、一日に稼ぐのもやっとだ。
例え荷物持ちだったとしても戦闘になるときはなったり、パーティの重い荷物を背負いながらダンジョンを周回しなければならない。
それでも探索者として働くしかない。
俺の唯一の家族である成人にも満たない妹を残してまで先に死ぬわけにはいかないから。
一刻も早く借金を返済する為にも、今日もダンジョンに挑まなければならない。
◇◇◇
高く聳え立つダンジョンの麓に多くの探索者が集まっていた。
「おはようございます、
「お、佐々木くん!今日もよろしく頼むよ」
「今日も参加させてもらってありがとうございます」
「なに、いつも助かってるよ」
「今日もよろしくお願いします」
見慣れた顔の男性、
髭の生えたオールバックのおじさんだが、ここに集まった探索者の中で一番実力がある人物だ。
そんな寺田さんとは、今日で四回目のダンジョン周回だ。
今回は募集を見て集まった探索者たちと一緒にダンジョンレイドをする。
ダンジョンレイドはモンスターの討伐数を稼ぐのを目的としている。
モンスターから剝ぎ取れる素材、モンスターに共通して存在している魔石は高価に換金でき、倒したモンスターたちの魔石や素材を換金して報酬を稼ぐ。
通常のパーティで攻略するのとは訳が違う。
今回、荷物持ちとして雇われているがそれでも報酬はみんなより少ないが、いつもの探索よりも多く報酬が貰えることだろう。
誘ってくれた寺田さんには本当に感謝しなければならない。
俺は、必要物資や道具が用意されているリュックを背負い、みんなが集まっている場所へと移動する。
「寺田さん、応募人数全員揃いました」
「よし、早速始めるとするか」
寺田さんはそう言って指揮を取った。
「今回は集まってもらってありがとう。今日はこの面々でダンジョンレイドを行う...というのに、行く前から酒を飲んでる男がいるが」
「わりぃ寺田さん!飲まなきゃやってらんねぇーっすわ!」
「まったく、気を抜きすぎだ」
周囲には笑いがこぼれ、集まった探索者たちの硬かった表情も徐々に和らいでいる。
缶チューハイをぐぶぐびと飲み続けるのは大塚さん。
少しぽっちゃりとしているが、モンスターの攻撃を防いでくれるタンカーとして活躍してくれる人物で、飯田さんと仲がいい。
「これからダンジョンに入る。くれぐれも他の探索者の迷惑になるような行為や単独行動は控えてくれ」
寺田さんは腰に装備した剣の柄頭に手を添えながら言う。
「ではいこうか」
寺田さんを先頭に各々がダンジョンの入り口を通り抜けていった。
俺もそれに続いて歩いていきながら、ある物を起動させた。
「お、今日もやるんか!一人配信!」
大塚さんが歩み寄って俺に話しかけた。
「はい、毎回記録を残しておこうと思って」
「律儀だねぇ。俺らみたいな底辺探索者が配信しても数字なんて取れないのに」
「ははは...」
俺が起動させたのはカメラ。
それもただのカメラではなく、自動撮影してくれるドローン型カメラ。
解像度は劣るが、小型で持ち運びやすい。
もちろん簡単に手に入るものじゃなく、大金を支払って手にしたカメラだ。
大金をはたいてまで購入したのには、ちゃんと理由がある。
もし仮に俺がダンジョンで死んだり行方不明になったとしても、配信づてに妹へ知らせるための手段として撮っている。
ダンジョン配信者が多く存在する中、こんな使い方をする変わり者は俺ぐらいだろうか。
「これからダンジョンレイドに参加するよ」
配信ボタンを押して開始されたのを確認してカメラに一言伝えた。
ここはダンジョン、気を抜けない場所だ。
俺は一歩一歩を慎重に進んでいった。
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