夕日に溶けた嘘

東雲 SANA(*^^*)

第1話 きみとの出会い。


 ――夕日を見るといつも思い出す。

 あの春の教室のことを。



 四季ヶ丘中学校、二年B組の教室。

 二年生初日のこの日、私は窓側の席で頬杖ほおづえをつきながら、ぼうっと外を見つめていた。


 太陽に反射してキラキラ宝石のように光る海がとても綺麗だった。思わず息をするのも忘れて見入ってしまう。


「おはようっ」


 隣から、透き通った声が聞こえた。

 同時に、ガタガタッと椅子を引く音も聞こえて、隣をふり返る。


「……おはよう」


 いつも通りなあいさつを返した。

 よく見ると、あまり見たことのない男子生徒が、私の隣の席に座っていた。


(――え、男の子!?)


 透き通ったきれいな声だったから、女の子かと思った。

 驚きつつも、隣の男子生徒に声をかける。


「私の隣の席の人?」

「うん。あ、自己紹介してなかったけど、僕、七海ななみ 清春きよはる。よろしく!」


 人懐っこそうな笑顔で、手を差し出す。

 積極的な人だなぁと、私も少し笑って手を握り返した。


「私は水無月みなづき 明日香あすか。よろしく、七海君」


「堅苦しいから清春でいいよ。僕も明日香って呼ぶし」

「そう? じゃあ改めてよろしく、清春」


 名前を呼ばれたのが嬉しいのか、春は顔を赤らめながら「ありがとう」と答えた。


「――めずらしいね」

「え? なにが?」


 不思議そうに首を傾げる清春。


「だって、中学生になると大体、男女別々になるイメージあったけど、清春は急に名前で呼んでって言ったから」


「え!? もしかしてイヤだったっ!?」


 本当にうろたえていて、私は思わず「ぷっ」と吹き出した。


「ちがうちがうっ。……っはは、確かにびっくりはしたけど、嬉しかったよ」


 彼は「ほんとうに?」と少しだけ疑っているような目で私を見る。


「――かわいいね、清春って」

「……え」


 私は、少しいたずらっぽく笑った。

 清春は、耳まで真っ赤になってる。


 ――その顔を見た瞬間私の胸がドクンと跳ねた。


 キーンコーン カーンコーン


「……あ、予鈴」


 清春は慌てて荷物を片付け、黒板の方を向く。

 私はその横顔を少し見つめた後、ふいっと下を向いた。


 ――顔が、熱い。


 自分の鼓動が、いつもより大きく聞こえる。

 授業が始まった。だけど、なんだか先生の話が聞こえない。

 頭の中にあるのは、彼の――清春の人懐っこい笑顔だけ。


 どーしよ。……っていうか、なんでだろう。

 彼の顔と、声を聞いた瞬間、どうしてこう思ったんだろう。


 ――ああ、好きだなぁって。


 話したことないし、見たこともなかった彼に、どうして今こんなにも、胸が揺さぶられるんだろう。

 致命的エラー。でも、なぜか頭の中は冷静だ。


 少しだけ、バレないように、こっそり、彼の顔を見る。

 また、鼓動の速度が上がる。


(あー、そうか)


 これが、恋なのかぁ。



   *  *



 次、気がついたら放課後になっていた。


(やばい、早く帰らないと……)


 タンタンタン、と音を立てて階段を降りる。

 そして、げた箱のある玄関で、透き通った笑い声が聞こえた。


「あははっ…………でさ、――だよね~」


 あ、話しかけづらい。


 彼は、二、三人の男子と、楽しそうに笑っていた。


(清春は、男子に仲いい子とかいるのかな)


 無意識に、ふっと口元がほころんだ。


 また、明日聞いてみよう。清春に。


(ここで映画のシーンを持ってくるとしたら、清春が振り返ってバイバイって言ってくれたらいいのに)


 ――でも、待ってるだけなのは気がする。


「清春っ」


 ――そう思って、自分で動こうと決めたのは私。

 彼が、ふりかえる。


「バイバイ!――また明日」


 思っていたよりも声が情けなくなって、顔が合わせられなかった。


「――っ、うん。バイバイっ」


 だけど、声だけでわかった。彼が、とてもうれしそうだったのは。



   *  *



 清春のことが好きになって、一週間目の昼休み。私は一つの悩みができた。


(恋って……最終的にどうすればいいの――?)


 いや、告白して付き合うのがハッピーエンドなんだろうけど。

 普通好きな子にアピールするんだろうけど、アピールってそもそもどうすれば……。


「明日香っ、一緒にご飯食べよっ」

「雪。――あ、ご飯ね。いいよ」


 茶色の髪の毛をポニーテールにしているこの女子は、田中 雪。私の親友だ。

 いつものようにご飯を食べながら、私はふと、雪にたずねる。


「ねぇ、雪――」

「んー?」

「好きな人にアピールするって、具体的にどうすればいいの?」

「――ゴホッ!」


 雪が、飲んでいたオレンジジュースを思いっきり吹き出した。


「大丈夫!?」

「ゴホッ、コホッ……っ……あ、明日香がそんな話するなんてめずらしいね!?」


 雪は心底おどろいたような顔で私を見上げる。


「そうかなぁ?」

「まぁ、そーだけども…………なに~? 好きな人でもできたの~?」

「うん」


 一瞬の間。


「うぇえぇぇっ!?」

「声が大きい!」


 叫び声を上げる雪に、私は手刀を食らわす。


「いたた……え、ガチで?」

「うん」

「誰?」

「七海 清春」

「えーっと、その清春くんはどこのクラス?」

「私の右隣の席」


 雪は、隣で寝ている春をじっと見つめる。


「え、こんなののどこがいいの?」

「こんなって……失礼だよ」

「ほら! もっと……こう、あるじゃん! 例えば、今ウワサになってる衛宮えみや先輩とか!」

「誰それ」


 雪がずっこける。


「知らないの!?」

「興味ない」


「イケメン! 優しい! まさに王子様! って、言うウワサになってるの!」

「へー」


 うん、興味ない。本当に。


 そんな完璧な王子様がいるのに、私は清春の方が良いってことは、本当に清春のことが好きなんだなぁ、私。


(……?、衛宮? なんか聞いたことあるような)


 そんな事を思いながら、食べ終わったお弁当を片付けた直後、私はハッとあることを思い出した。


「あ、今日委員会で用事あるから、放送室行かないと」

「ええっ、早く行ってきなよ!」

「ごめん、また今度ね!」


 そう言って、私は教室を出ていった。



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 ☆ここまで読んでくださってありがとうございます!♡や、やさしい感想等お聞かせ願えるとうれしいです!東雲 SANA✿☆


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2024年12月20日 09:00
2024年12月27日 09:00
2025年1月3日 09:00

夕日に溶けた嘘 東雲 SANA(*^^*) @sana-chan

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