第2話 大切なものを守る未来へ
――ナナリーが亡くなって気づけば、六年が経った。
クロリネ伯爵家をパチスロ侯爵家をデスト公爵家を計26家の貴族を潰した。他にも36家の貴族を降爵に追い込んだ。
全部あの日俺の意見を否定して、会議を長引かせた貴族家だった。
こんなことをしてもナナリーは帰ってこない。それでも、潰さないと気が済まなかった。
こうするつもりも無かったのに今ではクレマチス公爵家は王族よりも力を持っている。
「閣下、お嬢様とどうか今日だけでもお会いになってください」
あの頃よりもかなり老け込んでしまったセバスがいつもよりも切実に訴えかけていた。その老け込んだ様相が居た堪れなく、俺は遂に決心した。
「分かった」
あの時、俺の案を良案がないのに身の程知らずにも否定してきた貴族を潰すのに忙しかった。
だから、あの時から俺はレナに会っていなかった。今更、そのことに気がついた。いや、目を向けないようにしていた。
言い訳に過ぎたな。レナに会うと間に合わなかった俺を責めてしまうんだ、それが怖い。
「レナ、入るぞ」
ドアが開かれ、レナが俺に小さくお辞儀する。
「おい!、大丈夫か」「お嬢様!」
レナがお辞儀を終えて、前を向く瞬間、倒れた。
セバスがなんとか抱き止めてくれたから倒れずにすんだ。セバスはそのまま、優しくレナをベットに寝させる。
レナもセバスのことを信頼している様子であった。
「レナ、大丈夫なのか?」
「お父様、心配には及びません」
そう言うレナの赤い顔、触れた額から伝わる高熱――どこにも安心できる要素はなかった。
俺は思わずレナの手を握りしめた。
セバスがそっと部屋の隅に控えながら口を開く。
「お嬢様はずっと、お父上とお会いしたいと願っておられました。それでも……」
「それでも?」
言葉の続きを待つと、セバスは少しためらいながら、続けた。
「長らく閣下がレナ様に会おうとされなかったため、一部の使用人たちはお嬢様を見限ったかのように振る舞い、冷たく接する者もおりました」
「……なんだと?」
低く押し殺した声が出た。自分の無関心が、レナをどれほど傷つけたのかを思い知らされた。
「セバス、なぜそれをもっと早く報告しなかった!」
「何度かお伝えしようとしましたが、閣下はそれどころではないと――失礼しました。」
セバスは一瞬、言葉を区切り、躊躇いがちに続けた。
「申し上げますと……お嬢様は、冷遇される中で、どうにか味方をつけようと、使用人たちに媚びるような喋り方をするようになられておりました」
「――――!」
思わず言葉を失った。
「そのご様子は、幼いながらも見ていて痛々しいものでございました。決して本心からの言葉ではなく、どこか怯えたように無理に明るく振る舞っておられるようでした」
頭を殴られたような衝撃があった。
ナナリーの娘であり、俺の娘が、そんな思いをしていたというのか。俺が目を向けなかったばかりに。
言葉が出ない。貴族を潰すことに血道を上げている間、レナは一人でひたすら待っていたのか。
そうして待ち続けた末に、孤独と冷遇に耐え、病に伏してしまったのか。
その姿が、かつてのナナリーに重なった。
ナナリーもまた、俺を送り出しながら、不安と苦痛に耐えていたはずだ。
だが、あのときの俺は間に合わなかった――そして今度もまた、同じ過ちを繰り返すのか?
「もういい、セバス」
レナの顔をじっと見つめる。高熱で弱々しくも、それでも気丈に微笑もうとしている。
この子は、ナナリーが命をかけて生んでくれた子だ。俺に残してくれた、唯一の宝物だ。
俺はレナの手を握りしめたまま、誓うように言葉を絞り出した。
「レナ、もう俺はお前を一人にはしない。これまでのことはすまなかった……レナは俺の大切な宝だ。」
「お父様……」
レナの目に涙が浮かぶ。それを見て、俺の胸にも熱いものが込み上げてきた。
病に伏せるレナを前にして、俺はようやく気づいた。
俺が守るべきものが何であるかを。過去ではなく、未来を――ナナリーが俺に託してくれた命を守らなければならないのだと。
安心したようにレナが眠る。ああ、お父様に任せておくがいい。もう寂しい思いをさせることはないぞ。
屋敷からレナを冷遇していた使用人を追い出し、新たにレナの年齢に近い専属騎士をつけ、分かりやすくレナを愛していると示した。
レナが望むものは全て与え、害するものは排除しなければならない。
もう二度と大切なものを失わないために。
一年経って、暗さの消えた明るい顔と笑顔を見るたびに俺は天に報告する。
ナナリー、レナは今日も元気に育っているよ。
◇
この物語は
「愛されてたはずの婚約者から捨てられた私が真実の愛を見つけるまで」
https://kakuyomu.jp/works/16818093090451590237
を理解するために、非常に参考になる内容です。もし興味を持っていただけたなら、ぜひ一読ください。
少なくともこの物語は、こちらの作品よりもシリアスではないはずです。登場人物の感情の揺れ動きや、成長の過程をお楽しみいただけます。
《記念短編小説》あの日おいてきた宝をもう二度と傷つけない コウノトリ🐣 @hishutoria
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます