最終試験

 最終試験は面接。

 面接官は太政大臣、魔法省の大臣、魔法協会の会長、数名の1級魔法士。

 普通なら一次に書類と面接を持ってくる。

 しかし、この1級魔法士試験では逆。

 1級魔法士は強い権力を持っている。

 それゆえ、慎重に選ばなくてはならない。

 ならなおのこと始めにすればいいのではと思われるが、それだと強制的に受験させられた2級魔法士が楽に落ちてしまう。

 1級魔法士試験は堕落した彼らに喝を入れるという役割もある。だから最終試験に面接を行う。

「ふう〜」

 年配の1級魔法士サラードは全ての面接を終えて、目を閉じて深く息を吐いた。

 太政大臣と魔法省の大臣、魔法協会の会長はすでに部屋を出て、今は1級魔法士と試験スタッフしかいない。

「お疲れ様です」

 後輩の1級魔法士ウェルネスがサラードに労いの言葉をかける。

「出来レースとはめんどくさいな」

「ダメですよ。大臣や会長がいないからといって、そんなことを言っては」

 だが、実際に出来レースに近い。

 前もって才能と伸び代、成績や知名度で決まっているようなもの。

 今回は全属性魔法が使える天才魔法士ノーラ、A級討伐クエスト経験者キンバス、文武両道のメイの3人が目をつけられていた。

 そしてその3人は見事二次試験をクリアした。

 サラードは合格のスタンプが押された受験者の書類を試験スタッフに渡す。

「あとは頼むよ」

「はい」

 部屋を出て、廊下を進んでいるとウェルネスに声をかけられた。

「なんだい?」

 ウェルネスは先程から何か言いたげであった。

「メイ・フローデンスについてです」

「彼女がなんだい?」

 サラードは歩きながら聞く。

「確かに申し分のない逸材ではありますが、性格上に難があるのでは? 2次試験でも大暴れしましたし、死者も……」

 ウェルネスも廊下を歩きつつ語り始める。

「仕方ないさ。1級魔法士試験ではよくあることさ。気に食わない魔法士を大勢の魔法士がグルになって襲うなんて。それを彼女は見事に敵を見抜いて倒した。あっぱれだ」

 サラードは愉快そうに告げる。

「数が問題ですよ。数が」

「死者数の記録更新かな?」

 1級魔法士試験で死者が出るのは珍しくもない。けれど今回は記録更新。

「どれだけ恨まれているんですかね?」

「ノーラやキンバスは有名で人気者。国民からも厚い支持がある。それなら自然とメイを狙うのもおかしくはないだろう」

「その恨まれてた彼女ですが、首謀者を見つけて捕まえる気ではないですか」

「面接でも言っていたな。まだ敵はいるって」

 面接で二次試験の戦闘について問われたメイ・フローデンスは「グルになって私を殺そうと企んだ者がいました。私はそれを駆逐しただけです。そしてまだ首謀者は生きています」と。

 その時の彼女は執念と怨嗟の光を持っていた。

「1級魔法士の品性として、そこのところはどうなんですか?」

「問題ないだろ?」

 サラードは笑って返した。

「試験は終わったんですよ。2級魔法士同士のいさかいは止めるべきです」


  ◯


 1級魔法士試験は出来レース。

 ならば強制で受験させられる2級魔法士は何をもって1級魔法士試験に臨むのか。

 通過儀礼でさっさと一次試験を落ちることか。

 はたまた二次試験である勢力から徒党を持ちかけられ、有力候補を潰すのか。

「メイ・フローデンスをお呼びいたしました」

 役人の声にサラードは思考していた意識を今に向ける。

「通せ」

 魔法省の監査官が太い声で告げる。

 命じられた役人はメイを特別監査室に入室させる。

 メイは指定された椅子に座り、対面する監査官や1級魔法士に目を向ける。

 サラードはその目にどのような意志があるのか伺う。

「1級魔法士ウェルネスを殺害した理由を述べよ」

 監査官が命じる。

 メイは一息吐いてから、

「簡潔に申し上げます。前回の1級魔法士試験にて、ウェルネスが2級魔法士を裏で扇動して私を暗殺しようと企んだからです」

 その答えに監査官は眉を上げた。

「それは本当か?」

「はい。事実です。証拠もあります」

 この特別監査が始まる前にメイがウェルネスを殺害した経緯と証拠も取り揃えていた。

 サラードもそれらのことを知らされていた。

「殺す必要はあったのか?」

 監査官はメイに問う。

「それはウェルネスが2級魔法士達を使って私を暗殺を企てる必要はあったのかと言えませんか?」

 質問を質問で返されて監察官は眉根を寄せた。

「相手は私を殺しにきた。なら、こっちもそれ相応の報復をすべきかと。まさか向こうは殺意を持って構わないけど、私はいけないなんて言えませんよね?」

「君は自身の立場がわかっているのか?」

「わかっています。1級魔法士が1級魔法士を殺害した。そのため特別監査が立ち上がったのでしょ?」

 メイは堂々と言った。

 やはり1級魔法士試験を合格しただけあり、がよくわかっている。

 通常殺人は逮捕、拘留、送検、起訴、裁判の順だ。

 だが、今回はそういったものが一切なく、メイは特別監査室に呼ばれただけ。

 これは1級魔法士ゆえの特例。しかも今回は1級魔法士が1級魔法士を殺したという事案。

 そして話を聞く限りではどうみてもウェルネス側に非がある。

 その後、特別監査はすみやかに済まされた。

「どうするんですか?」

 とある1級魔法士が監査官に聞く。

「どうもこうも不問と致します」

 監査官は重い息を吐いて答える。

 悪いのはウェルネスである。

 問題は国民がそれを知らないということ。

「国民にはウェルネスが贈収賄があったということで納得していただきます」

「1級魔法士試験については?」

「それは関係ありません」

 監査官は強く言い切った。

「しかし、改善すべき点はあるだろう」

 サラードの言葉に監査官は険しい顔をする。

「今回のように徒党を組んで試験に望む者が増えてしまえば、才能の芽を我々は逃してしまう可能性がある」

「……策を検討してみましょう」


  ◯


「1級魔法士ウェルネスの贈収賄が発覚して、メイ・フローデンスは魔法省からの指示で捕縛に向かったが、ウェルネスから抵抗を受けて戦闘となった。そしてにもウェルネスを殺してしまった……以上だ」

 後日、サラードはメイが泊まっている宿屋に訪れ、監査官の言葉シナリオを告げた。

「よいな?」

「了解致しました」

「では、ワシはこれで」

 サラードは立ち上がった。

「どうしても1級魔法士試験の名を汚したくないようですね」

 ドアに向かうサラードにメイは言葉を投げる。

「下手にわめくと前回の1級魔法士試験の合否が取り消しになるぞ」

 そう言ってサラードはドアを開け、廊下に出る。

 1人になったメイはやれやれと溜め息をつく。

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とある1級魔法士試験の話 赤城ハル @akagi-haru

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