大食いのために婚約破棄された令嬢ですが、フードファイターとして生きようと思います

達見ゆう

第1話 誰もが納得のわかりやすい婚約破棄

「今夜をもってクリスティ嬢との婚約を破棄する」


 ここは魔法学園の卒業パーティーの会場。王子から言い渡された時、周りはざわめいた。


 しかし「やっぱり」という種類のざわめきであった。王子は一人で立っており、女性はそばにはいない。誰かに心変わりしたことではないのは明白であった。


「理由をお聞かせいただきますか」


 クリスティは予想は付きながらも尋ねた。


「君もわかっているだろう。その食欲だ」


 クリスティの右手にはお皿には肉にサラダ、茹でじゃがいも、ローストビーフがたくさんあり、左手にはグラスではなく彼女特製の大きなカップがあり、並々と飲み物が満たされていた。


「こ、これは魔力を使うからお腹が空いてしまうので」


 ちょっと分が悪いのがわかっているから、しどろもどろに答える。


「今日のパーティーで何か魔力を使うことがあったのか?」


「ええ、調理室にてお肉を焼いたり、シチューを煮るのに火の魔法を使ってお手伝いをしました」


 王子は盛大にため息をついた。


「なぜ、貴族がそんなところにいるのだ。貴族としての自覚が足りないのに王妃としてふさわ……いや、それ以前に君は誰よりもたくさん食べる、もはや大食いと言っても良いだろう。それも王妃の品格としては致命的だ」


「それは、その、自覚してますが、太っている訳ではありませんし」


 ちょっと気まずくなって両手の皿とカップをどこかに置こうとするが、そうやって移動できる雰囲気でもない。クリスティは魔力によって体力消耗するのは事実だし、太らないように身体も積極的に動かしている。だから傍目には「痩せの大食い」と思われている。


「我が国の食糧事情は知っているだろう。鉱山があるから貧しくはないが、北の国だから冬も長めだ。我が国だけでは食糧は賄えずに各国から輸入している。お世辞にも自給率は高いとは言えない。天候によっては飢饉も起きる恐れがある。そんな時に王妃がそんなに食べていたら民から反感を買うだろう」


 周りもうんうんとこっそり頷いていた。体型こそは普通ではあったが、裏で「大食漢令嬢」と呼ばれていたのは知っている。でも、お肉は美味しい。サラダも美味しい、じゃがいもも美味しければデザートのお菓子や果物も美味しい。

 美味しいものを食べれば嬉しくなる。だから学園のランチでも騎士コースの男子生徒並みの大盛り定食を食べていたり、実家からも食べ物を差し入れてもらっていた。もちろん、実家から食費として学園に多額の寄付を頻繁にしていたから先生や理事長は黙認していた。


 学園ではなんとかなっても、王妃の品格や民のことを持ち出されては反論できない。ここは婚約破棄を避けるために食べないと約束するか、このまま受け入れてこれまで通り食べ続けるかの二択だ。


「わかりました。婚約破棄を受け入れます」


 クリスティは即答で王妃の座より食欲を取った。それだけ食事を制限されるのは嫌だったのだ。


(彼も私の食欲に愛想を尽かしてしまったのね。少しは理解して欲しかったわ)


 本来ならすぐにこの場から去るべきだが、クリスティは手にしていた飲み物と食べ物を平らげてから出ていった。彼女のポリシーは「出されたものは残さない、手に取ったものは完食する」だからだ。


「さすが大食漢令嬢だ」


「こんな場でも完食するなんて」


 後ろのざわめきは聞こえないふりをすることにした。


(食べ物を粗末にすることの方が恥ですわ)



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