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「ふぅ」

久しぶりに実家に帰り、涼しい部屋でゆっくりする。

「節約のためなのは仕方ないけど、入り浸るようなことはしないでよ」

「わかってるよ」

夏休み。暑く電気代をたくさん使うかもと思い実家に避難中。

そして、今はまいが出ているバラエティ番組を見ている。

確か、生放送の。

ニコニコと笑顔で振られてトークを返したり、無茶振りなギャグにもちゃんと答えている。

これが、プロの素質。

最後に宣伝をして、番組は終わった。

今日から始まる21:00台のドラマ。

まいにとって初めてのゴールデンタイムのドラマだ。

どんな感じのドラマかは見てからのお楽しみと言われたが、一応宣伝で出ている番組も見ているから嫌でも内容を知ることになる。

治安が悪い町の高校を舞台に、転校生である主人公が卒業まで学校生活を乗り切るといったストーリーで、まいは主人公とクラスメイトの地味な女子を演じるのだそう。

まぁ、宣伝に出ている時点でちょい役ではなく重要な役だろうけど。

「さっきの子最近テレビ出てるわよねー」

母さんがお皿を洗いながら言う。

「前深夜帯のドラマにも出てたし、休み大丈夫かな…」

普通に返したつもりが母さんの方を見るとニヤニヤした表情でこっちを見ていた。

「珍しいわね。あんたが女優とか興味あるなんて。ファンなの?」

あ、そうだった。

まいのことは母さんに言ってなかったんだった。

「いや、その……」

言ってもいいのだろうか。

内緒にして、と言われた以上いくら親だといえ言うのは気が引ける。

「まぁ、いいわ」

「え?」

少し悩んでいると母さんがそう言った。

「好きでも興味なくても、わざわざ無理に聞く必要はないわ」

「……………」

「それに、変わったわね」

「え!?」

変わった……?

「大切な人にでも出会ったの?」

大切な人……?

自覚ないけどな……。


そろそろ帰ろうとしていた頃,まいから電話が来た。

最近会っていなかったのもあって、家にいないことを知らないまま押しかけたらしい。というか当たり前のように勝手に押しかけられても……。

まぁそれだけ会ってないほど、まいの仕事が忙しくなっていると言うことだけれども。

『あぁー、陽向くんの家落ち着くからリラックスしに行こうって思ってたのに』

「いや、そんな場所じゃないから。ただの一人暮らしの狭い部屋だから」

相変わらず物好きだな。俺の部屋が落ち着くだなんて。

そもそも俺と関わる時点で物好きなのかもしれないけど。

『ちょっと,話も聞いてほしかったのにな』

まいがポツリと呟いた。

「ん?なんか言った?」

『え?!あ、いやなんでも……』

怪しい。

まいは俺の事情は聞いておいて、自分のことは話さない。

すごくずるい奴。

しかも絶対何かあっても持ち前の演技力で誤魔化すことなんて容易だ。

「……俺でよければ,話し聞くけど」

誰かにこんなことを言うのは初めてだった。

ちょっと恥ずかしい気もするが、今自分に出来るのはこれくらいしかないと思ったから。

『あぁー、バレちゃった。陽向くんだからこそ言えることなのにな。……今から時間ある?実家から都内は結構遠い?』

「いや、電車の時間が噛み合えばすぐ行けるけど」

『じゃあ、うーん。陽向くん家でいっか、私はドアの前で待っとくからね』

「……は?」

「ちょっ!」

ピロン。

「はぁ」

電話が切れ、ため息をつく。

勝手に自分家が使われるのはもう慣れてしまうが、電車の時間を把握してないためもしかしたら遅くなりそうで怖い。

まいの職業柄ゆっくり話せる家の方がいいことぐらいわかるけど、ドアの前で待たれるのさえヒヤヒヤする。

「母さん、ごめん今日帰る。夕飯いらないから」

自分の部屋からリビングへ行き、母さんに話しかける。

「え?そろそろお父さん帰ってくるけど、電車あるの?」

「いや、まだ知らない」

母さんと話しながらスマホで電車の時間を確認する。

…少し待つな。

「ただいまー」

父さんが帰ってきて、リビングに顔を見せる。

「ん?どうした陽向。夕飯もうできたのか?」

「いや、用事ができたから今から帰る」

少ない荷物を持ちながら父さんに向かって言う。

「……そうか。じゃあ、送ってやるよ。まだ酒は飲んでないからな」

「え?」

まさかの返事が来て少し動揺する。

「送ってもらいなさい。あと、年末ぐらいこっちに帰ってくるのよ」

「……うん。わかった」

「よし!じゃあ行くぞ」

父さんが玄関の方へ向かい、それについていく。

「いってらっしゃい」

「……いってきます」

ただいまがいつになるか分からないけど、母さんに向かって手を振った。

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