3
口にすれば溜まっていたものがすぅと消えていったように感じて少し気持ちが軽くなる。
「理由は……分からなくて、ただいじめられていた」
「うん。それで」
まいが優しく聴いてくれる。
すごく、暖かい。
「2年生くらいの時に急に無視させれるようになって、数日後には悪口を言われるようになった。学年が上がれば陰口になって、物を隠されたり落書きされたりして、それを見て笑う奴もいた。高学年になった時は人と話せなくなって、低学年の子の面倒を見れなくて怪我しちゃって、先生に注意された。最初は無視だけだったのに日に日にどんどん増えて、エスカレートしていった。中学に上がってもずっと、友達もできずに……」
結構典型的ないじめが多かった。
でも……いじめられていることよりも。
それを見て笑われる方が嫌だった。
「家族や先生には言わなかったの?」
「すぐに言ったんだけどまだ無視ぐらいだったから、勘違いって言われた。家族にも迷惑かけたくなくて諦めた。それに、どのいじめを誰がしているか分からなかったから」
「え?じゃあ、クラス全体で起こっていたってこと?」
……無視と悪口。物にされたのは証拠になるけれど当時はそんな考えも思いつかず一人で頑張って消していた。
特に変わらない学校生活が、毎日のように変わるいじめで同じような日々には思えなかった。
だから、今でも日常の些細なことでも気づいてしまうんだろう。
「多分。蹴ったり殴られたりはされなかったからはっきりと誰かはわからなくて」
クラス全体が関わっているいじめで厄介なのは、ずっと一緒だからだ。
クラス替えをしても前のクラスとは違う人だけが集まるわけないし、一つの学校内くらい噂なんてすぐ広まる。
だから、いじめなんて終わるわけなかったんだ。
名前にもついているはずの太陽は俺の方を向かなくて、苗字についている雨が俺のことを包んでいるから。
「無視するだけでもいじめだもんね。クラス内に絶対いじめをしている人を知っていた人もいただろうし」
こくんと頷く。
中学にあがっても変わらない。
もちろん同じ学校の人はいるし、大きないじめには発展しなかったけど無視は続いた。
そして、俺の空気を悟った他の学校から来た生徒たちも俺のことを無視するようになる。
いや、多分それは自分のせいだ。
その時にはもう人との関わり方が分からなくなっていたから。
いつしか、自分には何もないと思うようになった。
好きなこと、得意なこと、他人から見た"個性"がない。
「やっぱり、いじめはどこでも起きることだよね。もちろん私の学校でもあった。でも、傍観者は動こうとしないもんなんだよ。低学年とかの時だったらともかく、年齢が上がるにつれ自分は自分、他人は他人で割り切って見ていないふりをする。
どうせ一つのいじめが終わってもまた新たないじめが起こるだけ。ねぇ陽向くん、いじめの加害者ってなんでいじめをすると思う?」
「え?……その人のことが気に食わないから……?」
答えてみるも、自分がいじめられた理由にはなってないような気がする。
心当たりがないし。
「いじめをする理由なんて人それぞれ……まぁ、そもそもない方がいいんだけど、陽向くんの言う通り相手が嫌って言うのもある。陽向くんみたいな子達もいじめられる。……いじめっ子がいじめをする理由は特にない。そもそもの性格、ストレス発散、自分の権力を上げるため。人間って怖いよね、自分が良ければ相手はどうだっていい思考を持ってる。知力が上がった代償だね」
……じゃあ俺は、ただあいつらの"エゴ"のためにいじめを受けていたってこと……?
「もちろん、陽向くんをいじめていた奴らがどう言う理由でいじめていたかなんて本人に聞かないと分からない。陽向くんは、わざわざ過去を掘り返してまで理由を聞きたいと思う?」
「……思わない」
無意識に、言葉が出ていた。考えるよりも先に。
「なんで?」
「もう、過去のことだから」
また言葉が出た。勝手に。
いや、違う。
本当は心の中でちゃんと考えていたことで、……ずっと思っていたことなんだ。
「そう!陽向くん、過去は過去。今は今だよ!誰かの笑い声はもう、君に向けられたものじゃない」
「!!」
『人々の笑い声がまるで自分に向けられているみたいで。』
「なんで、わかった?」
「…陽向くんのいじめの内容的になんとなくかな。やっと謎が解けたよー。会って一番最初に聞いたのに答えてくれなかったじゃん」
「まぁ、うん」
こんなとこまでお見通しなのか。まい、恐るべし。
「これからは、苦しまなくていいんだよ。何かあったらなんでも相談して。そういう道のプロではないけれど、力になれる限りかんばるから」
床についていた手を取って、ぎゅっと握られる。
「陽向くんはすごいよ。いじめにも挫けず、今こうやって生きてるんだから」
優しく微笑みながらまいが言う。
心が軽くなったような気がした。
自然と出てきた涙と一緒に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます