二つの足跡が付いた道は、私たちのかけがえのない道のりだ
三椏咲
二つの足跡が付いた道は、私たちのかけがえのない道のりだ
暇だ。私は今とても時間を持て余している。
私の彼女はバイト帰りで、今はお風呂に入っている。私は先に入ってしまったので,話し相手がいないのだ。
……やっぱり彼女の帰りを待って一緒に入ればよかったなぁ~、なんて後悔したところでどうしようもないのだ。
お風呂場からは、彼女の楽しそうな鼻歌が聞こえてきていた。
……多分、このまま私がお風呂場に突撃して、一緒に入ろうと提案したら、彼女は許してくれるだろうとは思う。けど、彼女はバイト帰りで疲れているのだ。私のワガママに付き合わせるわけにはいかない。
何かいい時間の使い方はないかと考えていた時、最近百合作家VTuberさんが企画としてやっていた、「今年一年を振り返る」という配信をしていたのを思い出した。
そのVTuberさんは女性の方で、彼女さんと一緒に暮らしていらっしゃるのだそうだで、私たちはよくその方の動画を視聴しているのだ。ちなみに、私たちはその方の作品の中で、彼女さんとの日常を綴った同棲日記が一番お気に入りだったりする。
——私たちの今年一年。
——春。
私たちの始まり季節。これからは二人で一緒に暮らしていけるんだ……なんてワクワクしていた。いたのだ、いたのだけれど……荷ほどきが全然進まない。さすがに2人分ともなると一日じゃ厳しかった。
彼女も私もだいぶ疲れ切ってしまったので、気分転換にお花見にでも行こうか、という話になった。
公園に着くと桜が満開に咲いていてとても綺麗だった。
公園のベンチで、二人で途中に寄ったコンビニで買ったサンドイッチを食べたのも良い思い出だ。来年は、二人で夜桜を見に行こうという約束もした。
待ち遠しくて、早くその日が来てほしいと思っている——。
——夏。
彼女と一緒に浴衣を着てお祭りに行った。私はヒマワリの浴衣、私の彼女は朝顔の浴衣を着た。彼女が、「食べたいものが沢山ある!」と目をキラキラさせていたので、二人で色々な出店を周って、買っては食べてを繰り返した。さすがに最後のほうは二人とも限界だったので、花火を見る時にはすでに私たちは歩くのですら大変だと思ってしまうような状況だった。……来年は程ほどにしておこう——。
——秋。
新幹線に乗って、少し離れた場所にある水族館に彼女と二人で小旅行に行った。種類豊富な魚たちやイルカショーを観たり、水族館にあったカフェでお話したりした。笑いが絶えないとても楽しい旅行だった。今度二人で旅行に行くときは、日帰りじゃなくて、どこかの旅館で二人でゆっくり過ごすのも悪くないなぁ——。
——冬。
去年まで自分の部屋で一人っきりで過ごすことが多かった、寒くて寂しいそんな季節。
けれど今は彼女が隣にいてくれるから、心も体も暖かいのだ。たまーに熱すぎると感じる時もあるけれど、寒すぎる冬にはちょうど良い。帰ってきたら彼女が優しい笑顔と共に、私が帰る場所で出迎えてくれる。それがとても嬉しいのだ——。
……こうして振り返ってみると、色々盛りだくさんな一年だったなぁ。大切な彼女がいつも隣にいてくれた一年。これからもそういう日々が続いていくんだなぁ、と考えると、幸せ過ぎてニヤニヤしてしまう。
——その時、扉の開く音共に彼女が髪をタオルで拭きながらお風呂場から出てきた。
「何か飲む?」
「んん~、炭酸系の飲み物ある?」
私は立ち上がってキッチンに向かい、冷蔵庫の中を見る。冷蔵庫の中にソーダ水を見つけたので、彼女の分と私の分をコップに注いで持っていく。
「はいどうぞ~」
「ありがと~」
そう言って彼女が、私が渡したコップを受け取り中に入っていたソーダ水を飲む。
私も一口飲んでから、彼女に伝えたいことを伝える。
「来年もたくさん想い出作ろうね」
「うん!絶対!」
来年もその先の未来も彼女が一緒に居てくれる。これからもたくさんの思い出を私たちの日記に綴っていこう。そう思うと、私が飲んでいるソーダ水の炭酸のように私の気持ちは弾んでしまうのだった——。
——振り返った今までの道のりにあった足跡は一つだけだった。けど今は、その足跡の隣に別の足跡が歩幅を合わせて、一緒に跡を付けていく。弾むように付くその足跡が向かう道は、明るく、暖かい希望に満ちた道なのだ——。
二つの足跡が付いた道は、私たちのかけがえのない道のりだ 三椏咲 @mitumatasaki
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