第8話

 食事が始まり、そこそこ時間が経過した。

 方々から賑やかな声が、止むことなく聞こえてくる。


「あー、さざえー!」

「せいか~い☆ よく覚えられたね~☆」

「わたし、アイナメも覚えたよ!」

「そうなんだ~☆ えらいね~☆」


 ガキどもに海の知識が広がって、マーシャがご機嫌だ。

 今回の出題は、海に関するものばっかりだったからな。


「マーシャ、ちょっといいか?」

「うん、いいよ~☆」


 ばしゃっと、水路に入り、近くの水路からざばっと出てくる。

 瞬間移動並みの速度で。


「もしかして、今度は私たちのお楽しみかな~?」

「正解だ。食堂へ行こう」

「おっ先ぃ~☆」


 またまたざばっと水路に沈むマーシャ。

 今頃、もう食堂に着いてるんだろう。

 俺も急ぐか。


「遅いよ~、ヤシロ~!」


 食堂に着くと、パウラが手を振って迎えてくれる。

 食堂には、今回ガキどもを見守ったり、パーティーの準備を手伝ったりしてくれたいつもの面々が集まっていた。


「それじゃあ、みんな集まったから一応締めの挨拶ね」


 エステラが前に進み出て締めの挨拶を行う。


「みんなのおかげで、怪我人も出ず、事故も起こらず、無事にイベントを終えることが出来たよ。領主として、友人として、みんなに感謝を示させてほしい」

「固いさよぉ~! もっと気楽にやるさね~!」

「そーだぞ、エステラー! わははー」

「え~っと、すでに出来上がっているノーマとルシアさんはちょっと隔離して――それじゃあお待ちかねの、プレゼント交換を執り行おうー!」

「「「いぇーい!」」」

「……いぇい、いぇい」


 テンション高く、盛り上がる一同と、たぶん盛り上がっているマグダ。

 上がってるんだと思う、たぶん。


「本当は、みんなにも宝探しみたいなゲームをやってもらいたかったんだけど、子供たちも大勢いるし、あまり時間をかけるわけにはいかなくてね」


 番号を書いた札を船内にばら撒いて、探し出したプレゼントが自分のヤツ、とかやってもよかったんだが、如何せん時間がなかった。


「というわけで、公平にくじ引きで決めたいと思う」


 味も素っ気もない箱に番号が書かれた札を入れて、それを順番に引いていく。

 自分が用意したプレゼントを引いてしまった場合は引き直しが出来る。

 そんなシステムだ。


「じゃあ、みんな自分の番号が書かれた札をこの箱の中に入れて~」


 と、エステラが取り出したのは、物凄くクリスマスっぽい絵が描かれた箱。

 いや、あれ描いてるんじゃない、彫り込んであるんだ!?

 何やってんのベッコ!? 暇だったの!?

 めっちゃ味も素っ気もあるじゃん!?


「いやはや、ついつい張り切ってしまったでござる」

「ったく、無駄な労力使いやがって」

「ちなみに、この箱は絶対に不正が出来ないようにちょっと特殊な方法でないと開けられない仕組みになってるッス」

「お前も使ったみたいだな、無駄な労力!?」


 なんなの、この街の人間。

 どんだけ仕事好きなの!?


「みなさん、どんなプレゼントを用意されたんでしょうか?」


 わくわくと、ジネットがラッピングされたプレゼントの山を見つめる。

 みんなも、プレゼントの山に目をキラキラさせている。

 何が欲しいとかじゃなく、誰かが選んでくれたものがもらえる。

 もうそれだけで十分嬉しいのだろう。

 欲のない連中だこと。


 ちなみに俺は、温泉後のマッサージ券をプレゼントにした!

 ふっふっふっ。今日、船上ではみんなが水着になることが分かっていたからな、食事の後にゆっくり露天風呂に浸かって、その後俺様の超絶テクニックで体の隅から隅までもみもみ揉み尽くしてやるぜ☆


 というわけで、適当に順番を決めてくじを引いていく。

 ロレッタがトップバッターで――


「はぅっ!? これ、あたしの番号です。もう一回引くです。…………またあたしの番号です!?」


 ――みたいな面白ハプニングがあったが、それ以降は何事もなく順調に進んだ。

 ……ロレッタのヤツ、笑いの神に取り憑かれてるんじゃないか?


「わぁ! マフラーです!」

「あ、やったじゃんロレッタ。それ、あたしが編んだマフラーだよ」

「パウラさんの手編みですか!? あったかそうです! ……でも、なんで『M』って書いてあるですか? 誰に当たる予定だったです?」


 パウラの手編みマフラーには、大きく『M』という文字が書かれていた。

 はたして、『M』とは……


「そ、それは……誰に当たるか分からないからさ、『みんな』の『M』」

「いや、そこのイニシャル使う人初めて見たですよ、あたし!?」

「あの、私が頂いたハンカチにも『M』と刺繍がされているのですが」

「あ、あの、カンパニュラさん。それは、わたしが刺繍したんですが…………『みなさん』の『M』です」

「もう一人いたです!?」

「……店長は、そーゆー子」

「パウラも、ジネット並みの天然なのねぇ」

「ちょっとネフェリー、ひどいよぉ!」

「はぅっ!?」

「パウラ、ジネットちゃんがショックを受けてるよ」

「あぁ、ごめん、ジネット! そーゆーんじゃないんだけど……やっぱちょっとそーゆーのかも?」

「もぅ、パウラさん。ひどいです」


 ぷんぷんと抗議するジネットと、それを見て笑うパウラたち。

 まぁ、ジネットの天然は、四十二区随一だからなぁ。


「……ちなみに、マグダが用意した魔獣の革の小銭入れにも、『M』の刺繍を入れてもらった」

「むはぁあ! これ、マグダたんのプレゼントだったんッスかぁ! オイラ一生大事にするッス! 『みんな』にはオイラも含まれてるッスから、これはもはやオイラのイニシャルッスー!」


 幸せだな、あのキツネは。

 そして、公平なくじ引きでも確実にマグダを引き当ててくるとか……あいつ、何者なの?


「……マグダは、店長とお揃いで、嬉しい」

「マグダさんっ!」


 ジネットがマグダの『きゅんかわ』に撃ち抜かれて抱きついている。

 ジネットレベルの天然が増えるのは、ちょっと困るんだけどなぁ。


 それから、それぞれ個性溢れるプレゼントが次々公開されていった。


 ネフェリーの手作りぬいぐるみはテレサへ。

 テレサのみんなの似顔絵はルシアへ。

 ルシアの琥珀のブローチはミリィへ。

 ミリィの特製アロマキャンドルはエステラへ。

 エステラの万能包丁はノーマへ。……ナイフ禁止したのに、やっぱ刃物じゃねぇか!?

 ノーマの特製マシュマロはベッコへ。

 ベッコの影絵が壁に浮かび上がるキャンドル立てはナタリアへ。

 ナタリアの羊革の肩掛け鞄はレジーナへ。

 レジーナのアンティーク風ペン立てはギルベルタへ。

 ギルベルタのお気に入りの紅茶セットはパウラへ。

 パウラのマフラーはロレッタへ。

 ロレッタのちょっとおしゃれな陶器の置物はデリアへ。……置物とか、普通だな、おい。

 デリアの可愛いひざ掛けはジネットへ。

 ジネットの刺繍入りハンカチはカンパニュラへ。

 カンパニュラの花の香がする押し花のしおりはベルティーナへ。

 ベルティーナの刺繍入りハンカチはイメルダへ。……プレゼントの発想が母娘で一緒!?

 イメルダのおしゃれな日傘はマーシャへ。……それ、男に当たってたらどうするつもりだったんだよ。

 マーシャの水の中で音が鳴る水中楽器はマグダへ。

 マグダの魔獣の革製小銭入れはウーマロへ。

 ウーマロの部屋でも庭でもどこでもリノベーション券は俺の手元へやって来た。……ふふふ、どこのリノベーションさせてやろうか? 東側の道をもっと明るく――とか言ってやろうか。

 そして、俺のたっぷり揉み揉みマッサージ券はハビエルに。


「って、ちょっと待てぇーい!」

「おぉ、こりゃあいいな。ヤシロ、早速頼むぞ」

「俺は、水着の、出来ればビキニの女子を揉み揉みしたかったんだよ!」

「お父様、ナイスくじ運ですわ」

「ハビエルが、ボクたち女性の安全を守ってくれたわけだね」

「ハビエルさんにもらったこの木製の笛、私、大切にしますね」


 ハビエルのプレゼントはネフェリーに渡った木製の笛。

 ギルド長同士で似たような発想してんじゃねぇよ! 楽器被りとか!


「しょーもないプレゼントもらっちまったってヤツ、交換を受け付けるぞ!」

「思いを込めたプレゼントにしょーもないものなどあるか。あるとすれば、くだらない下心を込めた貴様のプレゼントくらいだ、カタクチイワシ。いいからあの鋼の筋肉を揉み解してまいれ」


 人の不幸を嬉しそうにケラケラ笑うルシア。


「ほんならウチが、特製アロマオイルを用意したげるわ。メンズ同士でぬるぬるてかてか楽しんでな★」


 星が黒いんだよ、卑猥薬剤師。ビキニのトナカイが邪悪な獣に見えるぞ。


「もぅ、ヤシロさん」

「懺悔してください……と、言いたいところですが、私や子供たちをエレベーターで引き上げてくださったハビエルさんの疲れを、丹念に解きほぐして差し上げることで、今回の懺悔は免除といたしましょう」

「だってさ。よかったね、ヤシロ」

「パウラもあとでやってやろうか?」

「いらないよ~っだ」


 べ~っと舌を見せて逃げていくパウラ。

 くそう、えぇい、くそう!

 きっと精霊神がくじ引きに介入しやがったんだ。


 俺が何のために船上にプールを作ったと思ってるんだ!?

 温泉といえばスパ!

 スパといえばマッサージ!

 マッサージといえばビキニ!


 この完璧な三角形理論(提唱者:俺)に則り計画を立ててきたというのに!

 おのれ、精霊神……そんなに他所の世界の宗教が憎いか!?


 日本では仏教徒も無宗教もみんなで楽しんでいたイベントなんだぞ!

 その多くがただれた方向で!(※個人の感想です)


「おい、ヤシロ。夜はまだまだこれからだ。た~っぷり付き合ってもらうから、覚悟しろよ」

「でぇえい! クリスマスなんぞ、二度とやるか!」

「オドルヮキウセ?」

「タイミングよく『女神の瞬き(=『強制翻訳魔法』の範囲外)』に入ってんじゃねぇよ!?」


 え、なに?

「今のは聞かなかったことにするからまたクリスマスやろうね☆」って?

 やかましいわ、精霊神! やかましいわ!

 あぁーもぅーやかましいわー!



「ぬさぁぁーーーん!」



 そんな俺の咆哮が大海原に響いた、そんなクリスマスだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界詐欺師2024年クリスマスSS『船上のメリークリスマス』 宮地拓海 @takumi-m

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ